第3話 長かった1日の終わりに
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
10万字を目指して(完結目指して)頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。
今日は陰キャな僕にとって、望んでいない色々な出来事が起きた濃密な1日だった。
精神的に疲れ果て、ベッドに寝転がればすぐに意識を手放す自信があった。それでも今日という日は、まだ終わっていなかった。
駅前のコンビニで買い物を済ませて家に戻り、大きな欠伸をしながら冷凍庫にアイスを入れる。
疲れて帰ってくる両親のぶんを含めて4つ。母さんは太るのを気にして夜は食べないだろうけど、父さんは必ず冷蔵庫を漁る。
妹は母さんの伝言どおりに、そのまま風呂に直行した。
両親は仕事が遅くなるので、今夜の夕食はいつも通りに妹と2人きりだ。
長湯の妹がお風呂から上がってくるタイミングを見計らい2人分のカレーを温め、その傍らでサラダを用意した。
脱衣所からドライヤーの音が聞こえてきたので食卓に皿を並べる。
と、微かにスマホの着信音が聞こえたと思ったら、ドタバタと階段を駆け上がる音。その後、時間にして15分くらいだろうか、自室に籠った妹は一向に下りてこない。
冷めてしまったカレーを前に、僕は小さな溜息を吐いてから2階へ上がった。
家の2階には僕と妹の部屋がある。
両親の寝室は1階だ。
だから仕事で夜遅くなりがちな両親は、ほとんど2階へ上がってくることはない。
妹の部屋の前に立つと、ドア越しに電話中の話声が聞こえてきた。
「―――ガチ。うんうん、やる。だよね、うん―――」
ギャルな見た目の妹は、言葉遣いが乱れていた。
―――誰と話してるんだ?
ノックのタイミングを逃し、盗み聞きみたいになっているけど、ドアを1枚隔てた向こう側の声にはどこか甘えたような響きが感じられ、兄として電話の相手がものすごく気になった。
もしかしたら相手は放課後に一緒にいたあの男子では‥‥‥!?
そう思い当たると、考えるより先に声が出ていた。
「恋―――?」
「ちょ、待って―――今、電話中!」
「さっきから待ってるんだけど。ご飯いらないのか?」
「だから電話中だって! あ、うん、別にいいよ。あっ、うん、大丈夫。えっ!? うん、わぁ~た。今日は突然ごめんね。ありがと~うん、じゃあまた、おやすみ~」
会話が終わると少しだけ間があって勢いよくドアが開いた、と思ったらバタンと閉まった。
嫌な予感は的中し、咄嗟に体を反らさなければ外開きのドアに顔をぶつけるところだった。それでも足先は避けきれず‥‥‥。
「―――痛っ‥‥‥!」
なんでうちのドアは外側に開くんだ‥‥‥。
虚しい恨み節を心中で呟きながら片足を抱えて悶絶する。
少しだけドアが開いて、その隙間からムスッとした妹の顔がのぞいた。
化粧を落とした透き通るような真っ白い素肌と長いまつ毛に縁どられた大きな瞳。
ぷくっりとした蠱惑的な唇を尖らせ機嫌が悪いのはわかっているんだけど、そんな不貞腐れた表情の妹でもシスコン兄は可愛いと思ってしまう。
「電話中に話しかけんな!」
「電話なら食べた後でもいいだろ」
「大切な話しなの! 邪魔すんな!!」
こっちは何も悪くない。一方的にドアで攻撃される理由もわからない。
肩を寄せ合い仲良く歩く陽キャカップルの姿が頭に浮かんだ。
可愛いすぎる妹なんだけど、今夜だけはカチンときて不要な一言を発してしまう。
「彼氏、か?」
「はぁあああ!?」
兄妹間で恋愛に関する話なんて普通はしないと思う。
それは僕ら義理の兄妹にも当てはまるようで‥‥‥顔を真っ赤にした妹が、わなわなと体を震わせて睨みつけてきた。
ようするに今大きな地雷を踏んでしまったという訳だ。
「兄貴はどうなんだよ! そっちこそまだあの女と会ってんじゃないのかよ!?」
「あ、あの女‥‥‥!? 恋ちょっとまっ―――」
「―――うっさい!! 私に彼氏ができようが兄貴には関係ない!! あぁあああ本当キモいからっ!!!」
妹の顔がぷいっと引っ込み勢いよくドアが閉じられた。
兄として、そう兄として妹のことが心配だったから‥‥‥本当のところ自分でもわからなくなっていた。
ただ一つ言えることは、兄妹間で恋愛に関する話はするべきじゃない。
で、今夜は両親の帰りが遅い。
ということは、この家のことは長男である僕に任されているといっても過言ではない訳で。
2階の廊下に淋しく佇んでいる場合ではない。長男としての役目を全うするため勇気を出して目の前のドアをノックした。
「あの‥‥‥恋さん? もう一度聞くけどカレーは」
「―――いらん!」
完全に妹の機嫌を損ねた夜、カレーを2杯食べることとなった。
週明けの月曜日。
先に家を出た妹に続いて靴を履く。
この週末は機嫌を損ねた妹に無視されながらも、何故かコンビニまでアイスを買いに行かされたり、マッサージを強制させられたりと、それはもう奴隷のような扱いを受けて過ごした。
妹のご機嫌取りは自分でも情けないとは思うんだけど、へそを曲げた彼女の存在はとてつもなく厄介で‥‥‥平穏な日常を守るためには必要なことなんだ。
家の外へ出ると、どんよりとした僕の気持ちとは裏腹に爽やかに青空が広がっていた。
すでに駅へと向かう道に同じ電車に乗る妹の姿はない。
中学の途中までは一緒に登校していた。
だけど思春期を迎えた頃の僕は、隣を歩く妹の存在が気恥ずかしくて。
同級生にシスコンだと揶揄われたことがきっかけで、僕のほうから一緒に登校するのを止めてしまった。
電車を降りると学校までの道程を陰キャな僕は1人で歩く。
親友と呼べるクラスメイトは皆無で、だからといってそのことに引け目や苦痛を感じているという訳ではない。
ようするに昔から人と交わるのが苦手で―――つまりは1人のほうが楽だった。
休み時間はたいていラノベ読んでいる。暇だから読んでいるわけではなく、本が好きなんだ。だから中学に引き続いて高校でも図書委員をやっていた。
改札を出て緩やかな上り坂を10分ほど歩くと学校の正門が見えてくる。
月曜朝の気怠い雰囲気。その中を同じ制服の流れに身を任せて進んで行くと、まるでデジャヴのような光景に出くわした。
「―――っあ!」
思わず大きな声が漏れてしまい、周囲の視線を集めてしまった。
少し前の方を仲良く並んで歩く2人の生徒。
ブレザーの似合う高身長の男子がギャルな見た目の女子―――妹の恋と肩を寄せ合い登校していた。
その光景は先週の金曜日とまったく同じで、ただ違うのは周りの視線を集めていること。超絶美少女新入生として注目を集めた妹だ。そんな彼女が男子と一緒に登校しているんだから仕方がないとは思うのだけれど、それにしてもだ。
距離があって2人の会話は聞こえない。それでも楽し気な雰囲気は伝わってくる。
男子は前を向いたままで、それに比べて妹の嬉しそうな顔は頻繁に隣へと向けられていた。
だから妹が相手の男子に対して、ぞっこんに見えるのは気のせいじゃない。
そんな彼女の健気な姿を見ていると、兄として心中のモヤモヤが加速する。
―――やっぱり彼氏なのか‥‥‥
と、ここでようやく謎の男子が妹の方へ顔を向け、後ろを歩く僕にその横顔を晒した。
「―――っえ!!」
またしても大きな声を漏らしてしまい再び周囲の視線が突き刺さる。
でも、そんなことを気にしている場合じゃない。
可愛い妹の隣を歩く男子の正体を知ってしまった。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。
もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。