第22話 学級委員長と左ほほ
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
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それは妹と魔王の背中が正門を潜ってすぐのことだった。
昇降口の方から現れた女子が2人の行く手を阻むようにして目の前に立ちはだかった。
その場で足を止めた魔王が隣の妹にすっと体を寄せる。後ろを歩いている僕には、それが妹のことを庇うような動きに見えた。
登校時間だ。昇降口へと向かう制服の流れが立ち止まった3人を中心に2つに割れた。
何事かと一様に振り返りながら好奇の目を向けている。
何だか嫌な予感がして自然と早足になった。
とりあえず2人に追いついて―――その後のことは考えていない。
正門に近づくにつれ張りつめた空気が伝わってきた。
そして手を伸ばせば妹の肩に触れることのできる距離まで近づいた、その時だった。
―――パチン!
多くの生徒が見守るなか、学校の敷地内に乾いた音が響き渡った。
驚いて肩をびくつかせた妹が魔王の腕にしがみつく。
「バカにしないでよ! 彼女がいるからって断ったくせに‥‥‥なんで、なんで1年の女子なんかと‥‥‥」
魔王の頬を平手打ちした女子が唇を噛みしめながら悔しそうに言葉を絞り出した。
彼女の顔に見覚えがある。
後ろに位置していて魔王の顔は見えない。ただ微動だにせず立ち尽くしていた。
女子生徒がもう一度右手を大きく振り上げた。それでも魔王の体は静止したままで―――剣道部の主将ならあんな平手打ちなんて避けるのは簡単なはずなのに。
その場にいた誰もが息を呑んだ。
乾いた音が響いて王子様が平手打ちされる場面を想像したと思う。
でも、そうはならなかった‥‥‥。
限界まで腕を振り上げた女子生徒。怒りと悲しみを湛えたその瞳から大粒の涙が溢れ出す。
そんな光景を目撃すれば―――スローモーションのように時間がゆっくり流れる感覚に包まれ体が勝手に前へ出ていた。
振り下ろされる彼女の右手に自分の手を伸ばす。
何があったかは知らないけど、もう暴力は止めるんだ。
そう心の中で訴えかけながらできるだけ優しく痛くないように彼女の手を取って―――。
―――パっチ~~~ン!!
もう一度乾いた音が辺りに響き渡った。
あれ!? なぜだか左の頬が熱かった。ジンジンとする痛みが後から追いかけてくる。
暴力を阻止するために咄嗟に手を伸ばしてはみたものの、振り下ろす彼女の動きは思ったよりも光速だった。
その結果、敵役の魔王の前に飛び出して庇うように平手打ちされる羽目に。
「痛っ‥‥‥加藤さん‥‥‥やめるんだ」
正直、もう1発に耐える自信がなかった。
振り下ろされた彼女の右手を遅ればせながら掴ませてもらう。
「あなた、誰‥‥‥!?」
僕は彼女を知っていた。
名前を覚えているのは同じクラスで学級委員長だから。
でも、やっぱり加藤さんは陰キャで存在感の薄い僕のことを知らなかった。
「兄貴―――!? 大丈夫? なんで?」
いきなりの兄の登場に妹が目をまん丸と見開いて驚きの声を上げた。
今回の当事者である魔王は無言で僕のことを睨みつけていた。意図せず庇ったかたちにはなったけど、命の恩人にその態度はいかがなものか。なんて思う暇もなく突然大きな泣き声が辺りに響き渡る。
「う、ううう‥‥‥うわぁあああ~~~ん」
カオスな状況。
号泣する加藤さんの体がその場でふらついた。
一番近くにいるので抱き止める。
クラスメイトだし乗り掛かった舟というやつでこのまま放ってはおけなかった。
校舎にかかる大きな時計をチラリと見れば、ホームルームまでにはまだ時間があった。
「とりあえず行こう加藤さん。ちょっと誤解があるみたいだから説明するよ」
加藤さんの体を支えて歩き出すと妹が心配そうにこっちを見ていた。
だから大丈夫の意味を込めて頷いてみせる。妹は心配そうに小さく頷き返してくれた。
ふらつく足取りの学級委員長に肩を貸し、困惑する観衆をその場に残して北校舎へと移動した。
いつもの退避場所に辿り着くと、泣きじゃくる加藤さんを階段に座らせる。
そして、クラスメイトになってから初めて会話する内容がものすごくディープなものになった。
「‥‥‥うっうう、ごめんなさ。あなたの存在を知らなくて。ぐすん、うう‥‥‥それに叩いてごめんなさい」
「そこはいから。ほら、これ使って」
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃだった。
ハンカチを差し出すと加藤さんは遠慮がちに受け取った。かけている眼鏡を外して涙を拭う。ちーんと鼻をかんでいるのは気にしない。
「―――じゃあ、あの子は百崎くんの妹で武波先輩とは付き合ってないって言うの?」
「そこは間違いない、と思う‥‥‥」
「歯切れが悪いんだけど?」
なんとなく隣へ座ると学級委員長はジト目を向けてきた。
鋭い指摘だと思う。はっきりと言い切ることができないのは僕の不安な心の表れだ。
「僕の妹は魔―――じゃないや、あの武波っていう3年の男子に彼女がいることを知ってるし、そういうのじゃないって本人が否定してるから」
「そんなの付き合ってない理由にならない。私みたいに彼女がいるの知ってて告白する女子は沢山いるし‥‥‥あなたの妹と最近よく一緒に登校してるの見掛けるから。ううっ、ぐすん‥‥‥彼女がいるからって私のことをふったくせに、あんなに仲良くしてるところを見せつけられたら段々と腹が立ってきて‥‥‥うう、うわぁあああ~ん」
「ちょ、ちょっと落ち着いて。妹は本当に付き合ってないと思うから。恥ずかしい話し僕はシスコンなんだ―――!」
「シスコンって、なによ‥‥‥ぐすん、うう」
場違いな言葉をあえて選んでみたけど、学級委員長の加藤さんは食いついてくれた。
「僕は重度のシスコンなんだよ。普段から妹のことが気になって‥‥‥別に変な意味じゃなくって、その―――妹のことがすごく心配なんだ。そんな僕が言ってんだから、間違いない。信じてほしい」
「シスターコンプレックス? 駄目な人?」
「そう、シスコン。ちなみにダメな人じゃないから」
人を説得するっていうのは難しい。信じてもらうための材料がシスコンの告白だなんて‥‥‥。
「ふふ、あははは‥‥‥」
と、涙を拭っていたはずの加藤さんが、僕の告白を聞いて突然笑い始めた。
ちょっと情緒が心配になってくる。こういうのをたぶんメンヘラ女子っていうのかな。
「ちょ、なにそれ、あははは―――面白い、ふふ、あははは」
「ごめん、突然へんなこと言って」
「シスコンって―――ふふ、ふはは、あははは、なにそれ、あは、あははは‥‥‥そんな理由で、ふふ、信じろって?」
「‥‥‥うん。シスコンだから、そのへんは間違いない」
加登さんは大笑いしながらも僕の顔を真っ直ぐに見つめていた。
こっちも目を逸らせることなく加藤さんの目を見つめ続けた。
「―――わ、わかったから。ふふ、ゴメン、ちょっと笑い過ぎね。シスコンの百崎くんを信じるよ」
そう言ってから加藤さんは外していた眼鏡をかけた。もう1度真剣にこっちを見る。
だから大きく頷いて見せた。
こんな告白で分かってもらえたのか少し不安な気もするけど、加藤さんが落ち着きを取り戻してくれてホッとした。
「妹には僕から説明しとくから‥‥‥」
「‥‥‥武波先輩にはあとで謝る。なんか笑ったら気持ちが楽になちゃった。ありがと、妹さんを驚かせてしまってごめんなさい」
「妹は大丈夫」
どこか吹っ切れた様子の加藤さん。そんな彼女のことは名前を知らなかった井上さんとは違い学級委員長に選ばれたことで知っていた。
真面目な優等生という印象だったけど、まさかこんな感じだったとは‥‥‥人は見かけによらない。
「ハンカチありがとう。洗って返すから」
「別にいいよ」
ハンカチは涙と鼻水で色が変わっていた。でも女子の心情を考えると何て言うのが正解なのか。
「噂になってるかな?」
「大丈夫だよ。もし噂になったとしても、そんなに気にする必要はないと思う。人の噂なんて長続きしないから」
不安そうな加藤さんを見て、長年培ってきた陰キャな心構えを伝授した。
噂が広まるのは間違いない。最悪の場合、学校の裏サイトで拡散されるかもしれない。
でもどう足掻いたって人の噂は止められない。おまけに尾ひれまでついてものすごい勢いで広がってしまうものだと思う。
できることといえば、ただ時間が過ぎるのを待つだけだ。その間の心構えが大切なんだ。堂々と普通にしていれば問題なし。苦しくなったら誰かに愚痴をこぼしてもいいし、好きな事に没頭して雑念を頭の隅に追いやればいい。僕の場合はラノベを読むこと。
「‥‥‥そうね。また相談に乗ってくれる」
「僕でよければ」
「なんで今まで百崎くんのこと知らなかったんだろう」
「それは僕が陰キャだからかな」
自嘲気味に答えると、加藤さんは少し驚いた声を上げた。
「えっ‥‥‥!? 百崎くんが陰キャ? あはは、私には陽キャにしか見えないんだけど?」
最近になってイメチェンした。でも、染みついた陰キャな性格は短期間では変わらない。
陽キャとは言い過ぎのように思ったんだけど‥‥‥笑顔を見せた加藤さんに否定するのは止めておいた。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。
もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。




