第1話 陽キャのカップルを見て羨ましいと思った僕は
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
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学校の最寄り駅に近い繁華街。
1年以上ぶりになる元親友との邂逅で、まっすぐ帰宅する気持ちになれなかった僕はラノベを漁りに行きつけの書店を目指していた。
周りには同じ制服をちらほらと見かける。でも、数はそんなに多くない。その大半は1年生だった。
中間テストが終わったといっても、ただそれだけ。すぐに期末テストが待っている。将来の目標が定まっているほとんどの同級生は今夜も塾通いだ。
だけどテスト終わりの今日くらいは開放感に浸ってもいいじゃないのかと、成績の順位が真ん中より低い僕は思う次第で。
5月の日差しは思いのほか強く、10分程の道程で額に汗が滲んだ。
街路樹の緑が鮮やかに映って、否応なく新緑の季節だと気づかせてくれる。
目指す書店が見えた頃、少し先を歩いている僕と同じ制服を着た男女の姿がふと目に止まった。
肩を寄せ合う近しい距離感。加えて楽しそうな雰囲気。そこから導き出される答えは陰キャには眩しすぎるリア充カップルだった。
車道側を歩く男子はスラリとした高身長で、制服のブレザーが嫌みなくらいによく似合っていた。猫背気味の僕とは違って背筋がぴんと伸び、もしかしたら運動部なのかもしれない。
隣を歩く女子は、身長が中背の僕と同じくらいか少し低いくらいで、高身長の男子の隣がよく似合っていた。
髪はやんわりとウエーブがかかった肩までの長さで、光の加減によっては金髪に見える明るい茶髪が陽キャということを如実に表している。
それに校則違反グレー判定だと思われる丈が異常に短いスカートを履いていた。
制服を着崩した感じは、その後ろ姿だけで陰キャが苦手とする存在、『ギャル』だと認定できてしまう。まあ、後ろ姿だけなのでギャルっぽいにとどめておくけど。
僕の通う学校―――竜星ヶ丘高校は県内有数の進学校だ。
だけど校風が少々変わっていた。端的に言えば成績偏重主義である。
成績さえ良ければ全てよし。他校では風紀の乱れを理由に認められない格好でも、ある程度なら個性として捉えられた。
それでもあのスカートはダメだと思う。ちょっとした段差で中身が見えてしまうじゃないか。
あの彼氏は自分の彼女が知らない誰かに覗かれるっていう心配をしないのだろうか? 僕が彼氏なら絶対にあんなスカートは認めない。
一見して放課後デートを楽しむラブラブな雰囲気。あんなリア充カップルを前にすれば、地味な学校生活を送る陰キャな僕は正直‥‥‥羨ましいと思ってしまった。
―――今日はラブコメを絶対に買うことはない。異世界ものにする!
そんな決意を胸に歩いていると、目の前のギャルっぽい見た目の女子が隣を歩く男子の方へ眩しい笑顔を向けた。
その瞬間―――後ろを歩いていた僕はギャルっぽい見た目の女子の横顔を目撃してしまう。
「――――――!?」
そのまま目が離せなくなってしまった。言葉を失うとはよく言ったもので、驚きを通り越して茫然自失となった僕は、その場で口をあんぐりと開けたまま石像になる。
前を歩くのは同じ学校の制服を着た男女の生徒。どこからどう見てもリア充カップルだった。
足から根が生えたように動けなくなり前を歩く2人とは段々と距離が開いていく。
顔の見えない男子には心当たりがなかったけれど、ギャルっぽい見た目の女子生徒のことはとてもよく知っていた‥‥‥。
「‥‥‥恋」
途方に暮れたように歩道の上で1人立ち尽くしている僕は、とてもよく知っている彼女の名前―――妹の名前を呟いていた。
―――いったい何が起こっているんだ‥‥‥妹のスカートってあんなに短かったのか!? 隣の男子は一体誰なんだ‥‥‥!!
動揺と混乱のダブルパンチに襲われていると道行く人が心配そうな視線を向けてきた。そこで、はっと我に返る。
気がつくと前を歩いていた妹たちとの距離は相当に離れていた。慌てて2つの背中を追いかける。
程なくして妹たちの姿は目指していた書店の入口を通りすぎ、その先の交差点を曲がって見えなくなってしまった。
陰キャな僕は柄にもなく猛ダッシュ―――。
そして同じように交差点を曲がって、数歩いったところで急ブレーキをかけた。
すぐ近くに妹と見知らぬ男子が立っていた。大きな商業ビルの前だ。
2人は短い言葉を交わして一緒に中に入って行った。
「ど、どこへ行くんだ‥‥‥!?」
乱れた呼吸を整えながら慎重に歩いて近づき、2人が消えたビルの入り口へと向かった。
そこには派手な電光の看板が掲げられていて、大きな文字で『カラオケ』とあった。
「2人きりでカラオケ‥‥‥こ、個室じゃないか!?」
もはや独り言を呟いている自覚なんてなかった。
躊躇なくエントランスへ飛び込むとカウンターの店員さんがこっちを見て怪訝な表情を浮かべた。
「―――い、いらっしゃいませ!?」
店員さんの態度から察するところ、僕は相当にヤバい顔をしていたみたいで。
一瞬まずいと思ったけれどそんなことを気にしている場合じゃない。すでに妹たちの姿は見当たらなかった。
「ご、ご利用ですか」
間違いなく警戒されていた。冷静さを欠いた今の僕は完全な不審者だった。
それにカラオケなんて来たことがない陰キャにはシステムがよくわからない訳で‥‥‥いっきに頭が冷める。
「だ、大丈夫です」
妹のことは気になるけど、とりあえずこの場は退散するしかなかった。
そしてカラオケ店の入口を見張ること1時間―――。
ビルから少し離れた歩道の上に立っていた。
なかなか姿を現さない妹にヤキモキしながらあれこれと考える。
―――やっぱり彼氏だろうか?
後ろ姿だけを見ても、あれはかなりのイケメン陽キャに違いなかった。
妹の容姿も兄から見て周りの女子とはレベルが違う。傍から見ればお似合いのカップルなのに‥‥‥兄として釈然としない‥‥‥。
この春、妹の恋は僕の通う高校に入学した。
超絶美少女新入生の噂は、瞬く間に学校中に広まった。
その噂は兄である僕の耳にも届いたし、なんなんら話したことのない同級生が、「お兄様」とか「兄者」などと言って揶揄ってきて、何度も顔を顰めたことは記憶に新しい。
不意に学校の正門前で再会した木嶋さんとの会話を思い出した。
『百崎くんは‥‥‥彼女できた?』
『い、いないよ』
そうなんだ。陰キャな僕に彼女なんてできるはずがない。
だからといって‥‥‥年頃の妹に彼氏ができたとして、それがどうしたっていうんだ。
入口を見張っている探偵気取りの自分を努めて俯瞰すると、なんだか体の力が抜けてきた。
情けないような悲しいような‥‥‥。
この感情の正体に―――僕は一度だって向き合う勇気を持てていない。
「ストーカーみたいだな」
自嘲気味に呟くと学校の最寄り駅を目指してその場を後にした。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。
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