一ページ目 お手伝い
亀更新です。応援していただけると幸いです。
次の話で恋愛要素を書けるはず・・・
さて、記念すべき一ページ目には、何を書いたのだろうかと思いながらノートを開くと、平仮名で
「かけいず」
の文字。その下には、家族の名前や似顔絵までもが記された簡易的な家系図が描かれている。
まず、俺の名前は鏑木一郎。今年で21歳。一人っ子だ。現在の身長は180センチ、体重は60キロの痩せ型。これまでの人生で太っていた時期はなく、BMIの数値は常にクラスの中で一、二番を争う程低かった記憶がある。もちろん、筋肉質な体になったこともない。
顔立ちはお世辞にも良いとは言えず、高く見積もって中の中、中学からの視力の低下と共に目を細めることが増えた結果、人相が悪くなったと感じる。4月から大学2年生になる。明日には、2年の講義や履修についてのオリエンテーションが控えている。面倒だ。
次に両親について、父親の名前は鏑木哲郎、今年で58歳になり、職業は地元市役所に勤める公務員。そろそろ定年退職が迫ってきている。俺の名前の郎は父からもらったものらしい。
母親の名前は鏑木清子、57歳。旧姓は、宮内。俺と同じ羊年であることに何かシンパシーを感じている。専業主婦てあり、テレビでドラマを観ることが趣味。最近は、恋愛ものや異世界もののアニメにまで手を広げ始めた。
そして、両親の名前の上には、それぞれ「じいちゃん」、「ばあちゃん」と書いてある。自分と両親の名前は平仮名で書いてあるのに、祖父母達がこのように書かれているのはおそらく、この日記を書いていた頃の俺は祖父母達の名前を知らなかったのだろう。父と母と自分の三人暮らしであったため、祖父母に会うのは盆と正月がほとんどだった。また、物心がつくか、つかないかという幼少期では、人を名前で覚えるというより、自分にとって相手がどのような人物なのかで記憶していることが多いように感じる。俺と同じようなやつも多いのではないだろうか。
最後に、一通り眺めるとページをめくって、続きを読む。
ーーきょうは、おてつだいをしました。おさらをあらいました。おかあさんがよろこんでくれてうれしかったです。ーー
書いてあったのは、たったの三行、それだけ。
(・・“お手伝い”か、最近は何もしてないな・・)
しばらく、ぼーっとしていると、
「一郎~、お昼ご飯よーー」
母さんが呼ぶ声が聞こえる。
時計を見ると針は、十二時過ぎを指していた。ブランチから一時間ほどしか経っていないため、空腹ではないのだがココを逃すと自分で昼飯を用意する羽目になる。
それは勘弁と、リビングへ向かう。ドアを開けるとスパイスの香りが鼻腔を刺激する。どうやら昼食はカレーらしい。母さんは既に自分の分を皿に盛り付け、食べ始めている。
俺も自分の分をとり、食べ始める。春休みに何の予定もない俺はこうやって母と二人でご飯を食べることが多くなった。テレビのお昼番組をラジオ感覚で聴きながら、黙々と食べていると、不意に母さんが、
「一郎、アンタ春休み何かしたら? 資格取ったりさ。 時間がこんなに有り余っているのに」
と言ってきた。
「ン、分かってるよ」
いつかやると言って、いつまでもやらない人間の代表的な返しをしたわけだが、俺だって何か始めようと思って既に行動を起こしていたのだ。
バイトを始めようと一週間以上前に面接に行った。春休みの間だけ働く短期バイトを唯一募集していた店に申し込んだのだが、面接の結果を連絡すると言われた期限から三日ほど経っている。つまり、不採用ということである。
お祈りメールさえもらえなかった俺だが、めげずに他のバイトの面接に行った。そこで言われたのは、勤務可能時間を明確にしてもらわないと採用できないということだった。
ド田舎に住んでいる俺の付近には、長期バイトしかない。春休みの途中で二年生からの履修登録が確定しておらず、更には通学に一時間以上かかる俺はなおさら大学が始まった時、自分がいつバイトには入れるのか分からなかった。そんな状態では、長期バイトでは雇ってもらえないという苦い現実を知ったのである。
「食べ終わったら、食器を、水をつけときなさい」
俺より、先に食べ終わった母さんは既に洗い物に手をつけようとしていた。
ー きょうは、おてつだいをしました。ー
そんな母さんの背をむけた姿が目に入ると、不意にさっき見た日記のことが頭に浮かんでくる。
「母さん、たまには俺がやるよ」
気づけば、そう言っていた。
「あら、珍しい。明日は雨かしら。じゃあ、お願いする わね、ありがとう」
久々に聞いた感謝の言葉は、俺の心を少し晴れやかにした気がした。調子に乗った俺は、夕食後の食器も洗った。積極的に手伝おうとする俺の姿は両親にとって珍しいものであったらしく、帰宅した父さんも加わり、しきりにおだてられた。
自分の部屋に戻った後、普段ならスマホをいじるところだが、今日ばかりは少し気分が違った。本棚から新しいノートを取り出す。
「この春休みに新しく始めることは、コレにしよう」
そう呟くと、シワ一つないノートの表紙にペンを走らせた。
ー思い出帳ー
前の物と比べると、漢字で表題が書いてあるところに月日の流れを感じる。とりあえず、一ページ目にこのノートを作ろうと思った契機と今日のことを書いていく。
まだ、ほとんど白紙のノートが多くの思い出で満たされることを願いつつ、灯りを消した。




