序章 第六話 鉱山遠征(3)
三話に渡って連載してきた鉱山遠征編もついに完結です!!
読んで下さる読者の皆様に感謝を込めて。
それでは、序章の最後をお楽しみください!!
≪結界術≫。
それはいわゆる魔力の檻のことであり、対象を自らの結界内に引き込むことで、自身の技の威力と精度が大幅に上昇する。
その効果は≪詠唱≫による一時的な強化とは比べ物にならない。
しかし、大規模な結界を形成するにはそれに伴う莫大な魔力が必要となり、並みの魔術師が扱えるものではないとされている。
※CHANGE
意図せず結界の内側に入り込んでしまったゼロたち三人は現在、危機的状況に陥っていた。
結界の解除方法は主に二つある。
一つは結界を張った術師本人を直接叩くこと。
もう一つは結界の外側にいる他者の介入によるものである。
(……見誤った。外側からあまり魔力を感じ取れなかったから問題はないと踏んだが、結界の中では救援要請は送れない……)
ロゼリアは思考を巡らせる。
何者かが結界術で魔獣の絶大な魔力を覆い隠していた。
これでは、他者の介入による結界の破壊は見込めない。
こうなったら結界内のどこかにいるであろう術師を倒す他なくなった。
それも蠢く三つ首の怪物を相手取りながらだ。
任務の難易度はAランク相当に引き上がった。
「二人とも!! とにかく今は逃げることだけ考えろ!! 間違っても奴を倒そうなんて思うな、それは命取りになる!!」
≪ケルベロス≫は逃げ惑う三人を追走する。
……すると、そのうちの一頭が業火を吐き出してきた。
『土粒子 土粒壁!!』
燃え盛る炎を、ロゼリアが土の魔術で防ぐ。
「先に行け!! ここは私がくい止める、きっと結界のどこかに魔力が弱まっている箇所があるはずだ!! そこをお前の技で叩け、ゼロ。これだけ大規模な結界だ、必ず綻びはあ……」
「……先生、前!!」
リンが叫んだその先には、血を流したロゼリアの姿があった。
魔獣の一撃により岩壁に頭を強打し、気を失っている。
急いで駆け寄って行くリンに次の標的が切り替わった。
「ダメだ!! リン、近づくな!! (クソッ)」
(──ガギン!!)
間一髪でゼロの刃が魔獣のかぎ爪をくい止める。
二人をかばうようにして、ゼロは背を向けていた。
響き渡る金属音と絶えず散る赤の閃光。
「諦めるのは、まだ早いんじゃないか? 貴族様……」
「アンタ……」
(攻撃が重い!? あばらの何本かをやられた。これは長くは持たないな……)
「リン!! ここはなんとかしてみせる、だから先生を連れて今すぐ避難してくれ!! 頼む!!」
(アンタはどうすんのよ……?)
考えている余裕はない。
リンは即座に魔道具を起動し、ロゼリアを担いだ。
「ええ、わかったわ……」
箒による飛行で二人が崖の反対側に移動したのを目視すると、ゼロは刃を外側に返し、攻撃を弾いた。
やせ我慢。されどゼロは言ってやった。
「来いよ……、デカブツ!! ちょうど体が温まってきたところだ……」
≪ケルベロス≫の猛攻がゼロを襲う。
鋭いかぎ爪による物理攻撃に加え、時間差でくる火炎放射。
それらを避けながら反撃の機会を伺うゼロであったが……。
(な!? 鎖……!?)
ケルベロスの腰に巻き付いていた鎖が触手のようにウネウネと動き回る。
先端がまるでクナイのように鋭く尖っており、ゼロの体を切り裂いた。
(くっ!? 防ぎきれない……)
手数の多い攻撃、そして何よりその一つ一つが重い。
このままでは確実に殺られる、ゼロはそう確信していた。
だが、打開策はある。
大気中に≪粒気≫が溢れているこの場所では、魔力を集めることは造作もない。
故にゼロは機転を利かせ、自らの剣の魔力装填をいつものように百パーセントではなく、十パーセントに維持し続けた。
そうすることで、魔力を溜めるのに時間をかけず、強化された剣で確実に≪ケルベロス≫の猛攻に対応することができる。
(……あと、もう少し……)
流石の≪ケルベロス≫と言っても、攻撃の重さにはムラがある。
ゼロはその攻撃を見切り、魔力装填の値を微かに変化させながら、隙を見て魔力リソースを補完していた。
──それを可能にしたのは、少年の圧倒的な身体能力と戦闘センス。
魔力が満タンになったその瞬間、剣が青白い光を放つ。
攻撃を弾き返し、≪ケルベロス≫が後ろに仰け反ると同時に、ゼロは魔獣の頭上めがけて崖から飛び上がった。
しかし、空中では思い通りの動きはできない。鋭い鎖の大群が接近するゼロに襲いかかる。
(スパンッ!!)
左目が切り裂かれた。今までの戦闘の蓄積で全身に激痛が走る。
だがようやくここまで来た。
ゼロはその剣の柄を決して離そうとはしなかった。
『粒気収束 百パーセント!! 貫通剣!!!!』
魔獣の頭上から放たれた渾身の一撃。
≪ケルベロス≫は青白い光に包まれ、爆風の轟音と共に地面諸共えぐり取られた。
ゼロはそのまま崖の下に転がり落ちる。周囲には煙が立ち込めていた。
(……やったか?)
──絶望。それが少年の目の前に広がる光景にふさわしい。
≪ケルベロス≫の傷がだんだんと癒えてゆくのが分かる。
その魔獣には再生能力までもが備わっていたのだ。
(嘘……だろ!!?)
崖の下に落ちてようやく理解した。
よく見ると、≪ケルベロス≫の胸部にはむき出しになった核のようなものがある。
おそらくあれが奴の心臓、そして弱点であると。
しかし、少年の体はすでに限界を迎えていた。
いまや視界の半分は失われ、全身には切り傷の跡、そしてなにより体が重い。
今までの激しい戦闘で疲労が蓄積しているのだ。
「……いや、やってやる。もう一回食らわせてやるよ……!!」
ゼロは再度、剣の柄を握りしめた。
襲い来る鎖と業火を避けながら、ただ前へと駆けて行く。
(攻撃パターンは分かってる、さっきと同じくやればいいんだ……)
(────は……?)
風穴が空いた。気づけば腹に空洞が出来ている。
突如として放たれた一筋の光線。≪ケルベロス≫にはまだ攻撃の切り札があった。
地にひれ伏すゼロ、叫ぶリンの声は、もうその耳には届かない。
(どうしよう……!? 死ぬ、死ぬ、死んじゃう!!? 私の目の前で仲間が……)
※CHANGE
私の祖母は晩年、病室で寝たきりの状態になっていた。
魔獣との戦いで体に酷い傷を負ったからだ。
祖母は偉大な魔術師だった。弱きを助け、強きを挫く。
出生で人を区別することなく、南部の市民街にも彼女の名はよく知れていた。
ある日、祖母が旧友と共に郊外へ遠足に出た時のこと。
道中に立ち寄った村の宿で停泊していたところ、突如として警鐘が鳴り響いたという。
外に出ると、燃え盛る業火で魔獣が村を蹂躙していた。
逃げ惑う村人と泣き叫ぶ子どもたちの姿。
その場でただ一人の力在る者であった祖母は、自分よりはるかに大きい魔獣に立ち向かい、その手で炎の魔獣を討ち取った。
旧友、ひいては村の住民たちの命を救ったのである。
しかし、その場で祖母は倒れ込んでしまった。
魔獣との戦いにより、身体に酷い火傷の跡が刻まれていたのだ。
「もってあと二、三年と言ったところでしょう……」それが医師からの最後の言葉だった。
「お母様が言ってたよ。私たち純血の魔術師はむやみに血を流しちゃいけないんだって……」
お母様には近づくなと言われていたが、子どもの頃の私はよくその目を盗んでは、祖母のいる寝室に忍び込んでいたものだ。
彼女のする旅の話がとても面白かったからである。
「……そうね、そうかもしれないわね。こんな体じゃ外に出ても人目に晒せないもの」
衰弱しきった声で、祖母はそう呟いた。
「でもね……、私に後悔はないのよ、リン。色んな所を旅した、色んな人々と出会った、色んな景色を、この目で確かに見ることができた。そして最後は、襲い来る魔獣から親友を救うことが出来た。もう十分生きたもの、だからもういいの。まあ、貴方の曾孫の顔が見られないのは少し悲しいけど……」
祖母は真っ直ぐな目でそう語った。その言葉に嘘偽りはなかった。
「こっちに来なさい」と言われ傍に行くと、祖母の手が私の小さな頭に触れた。
あの感触を、私は今でも覚えている。
体は冷たくなろうとも、その手はすごく暖かった。
「貴方のその瑠璃色の瞳……、優しい瞳。周囲に安寧をもたらす者にこそ相応しい。だから貴方にこれを託すわ。私のようになんて言わない、自分の好きなようにやってみなさい。失敗は多くあれど、それにはきっと意味がある。期待してるわね、私の愛おしいリン……」
その言葉を最後に、祖母は息を引き取った。
私の小さな手の中に、幾星霜を共にした大切なものを残して。
※CHANGE
──踏み出す勇気を。
リンは祖母の形見である杖を強く握りしめた。
岩崖を下り、倒れているゼロの元へと一直線に駆け出す。
……すると、迫りくる一筋の光芒を横目が捉えた。
戦いは怖い。だって命が天秤に掛かっているのだから。
……されど、今は少し冷静だ。
『水粒子 水の障壁!!』
「リ……ン?」
「アンタは黙ってて!! 死ぬのが早まるわ!!」
ゼロにはかろうじて息があった。
だが、もう長くはないだろう。時間は掛けていられない。
光線の重圧がビリビリと体全体を撫で回す。
まるで止まることのない光の矢を受け止めているみたいだ。
(受け止めるんじゃなくて弾き、去なす!! さっきゼロがやってたみたいに!!)
水はこの世で最も柔軟な物質。
だから水の魔術師は、「自由自在」なんだって祖母が言っていた事を思い出す。
リンは杖を振り上げるように、流水で光線を天蓋めがけて弾き返した。
……しかし、襲い来るは第二の光銃。
予想外の急襲に、リンは透かさず両手を前に押し出した。
『結界術・壁!!』
それは簡易の結界術。魔術師が最初に教わる防御魔術の基礎である。
だが、あくまでそれは時間稼ぎ程度のもの。まもなく、結界に亀裂が走り出した。
(ピキ……、ピキ……)
(もう、ダメ……、持ちこたえられない!! ……全く、私らしくない最後ね。こんな下民を守って死ぬなんて。……まあいいわ、やれる事は全部やったもの。……だけど、もう少し……)
────あと少しだけ……。
「よく頑張ったね、リン。後は任せて」
「……!?」
隣には、金色の髪に黒のローブを身に纏った青年が一人佇んでいた。
一体いつの間に現れたのだろう。いや、それよりも、間に合ってくれて何よりだ。
彼がいれば、きっと大丈夫……。自分の数秒の悪あがきは、決して無駄ではなかったのだ。
ライトがリンの手に触れると、温もりと共に溢れんばかりの魔力が伝わってきた。
『十字障壁』
「……貴方、どうやってここに? 外側からは感知出来なかったはずじゃ……」
「僕を誰だと思ってるの? それに魔力で感知できずとも、時間の歩みが教えてくれる。偵察にしては帰りが遅いと思ったから、無理やり結界をこじ開けて来たのさ」
ライトが構築した強固な十文字の結界が、魔獣の光線を弾き返す。
すると青年は、だんだんと前へ歩を進めて行った。
「さて、僕の仲間を傷つけたんだ……。覚悟はいいな? 三下……」
ライトは標的に向かって二本の指をかざした。
いつもの彼の穏やかな魔力とは違う。溢れ出る魔力の色は赤。
その瞬間、空間が歪むほどの莫大な魔力が彼の指先に集まっていく。
(久しぶりに使うな。これ……)
『光粒子 赫の星・ペテルギウス!!』
──赤の虚空。
ライトが放ったその一撃は≪ケルベロス≫の心核を貫いた。
その影響で鉱山内に無数の魔力の残滓が飛び交い、その色彩が織りなす光景は場に似合わず神秘的と言えた。
魔獣が消滅したのを確認すると、ライトはすぐさまゼロの元へと駆け寄った。
「マズいな……、思った以上に深刻だ。リン、先生を連れてこれるかい? 一刻も早くここから脱出しよう」
「でもその傷じゃ……、ゼロはもう……」
少年はすでに気を失っていた。その傷の深さから、息をしているのが不思議なくらいだった。
つまりは危篤状態である。
「大丈夫、ゼロは死なせない。僕が見込んだ男だ、これしきでは死なないさ」
負傷したゼロとロゼリアを連れてパーティーが待避しようとしたその時……。
天井から嫌な亀裂音が聞こえてきた。間違いない、崩落の合図だ。
一連の激しい戦闘で、鉱山内の地盤はすでに限界を迎えていた。
無数の岩石が四人に向かって降り注ぐ。避けきるのは無謀と言えた。
(間に合うのか!? ゼロを抱えながら、出口まで……。危険を伴うが、やはり全て消し飛ばすしか……)
ライトが左手に力を込めた次の瞬間……!!
(──カラン)
『時の鎖』
──万物の流転が止まる。
自分が確かに思考できているのかすら分からなくなる。
その一瞬の出来事に、何が起こったのか皆目見当もつかない。
気づけば降り注いだ岩石群が、宙の上でピタリと静止していた。
ライトが上を見上げると、そこには見知らぬ人影が……。
魔導士のような長いツバの帽子をかぶり、大きな杖を携えている。
「……いやはや、時空間を彷徨っていたら偶然君たちを見つけてね。危険な状況だったみたいだから、少し手を貸したってわけさ……」
「あなたは……?」
ライトの質問に男が答える。
「なに、またすぐに会えるさ。君たちが歩みを止めない限りね……」
そう言い残すと、男は黒い渦の中に颯爽と消えていった。
※CHANGE
「……王都まで後どれくらいだ?」
ムシャムシャとリンゴを口に頬張りながら喋るのは……。
もう言わずとも分かるかもしれないが、少年は復活を果たしていた。
これは当の本人も後で聞いた話なのだが、ロゼリア曰くゼロは他の魔術師とは違い、大気中の≪粒気≫を飛躍的に自らの魔力に変換できるらしい。
魔力には多少の治癒能力も備わっているため、軽い怪我であれば治すことができる。
故に、ゼロは取り込んだ魔力で自らの傷を癒したと考えられたのだが……。
あれほどの重傷を治すことなど本来は不可能なはずなのだ。
はずなのだが、何故か少年は今ピンピンしている。
その様子にロゼリアもリンも肝を冷やしていたが、なぜかライトだけは得意げな顔をしていた。
舗装された一本道を緩やかに走る馬車。
パーティーは無事に全員揃って帰路に着いていた。
「本当にすまなかった!! 教師として失格だな、私は……。正しい状況判断もできず、生徒を危険に晒してしまった。学校に到着したら、退職は免れんだろう。……だがまあ、最後にこれだけはお前たちに言っておきたい」
三人はロゼリアの眼を静かに見た。
「ゼロ、よく臆せずあの魔獣に立ち向かった。お前があそこまで持ちこたえなければ、私たちはすぐに全滅していただろう。本当によくやってくれた!」
「おう!!」
「リン、ようやく一歩を踏み出せたようだな。私は以前までお前を臆病者だと思っていたが、それは間違いだったようだ。誇れ、お前は立派な魔術師だ」
「…………」
「ライト、二人の元へ駆けつけてくれてありがとう。お前はこの中で一番強い。私がいなくなっても、いざという時はお前が二人を守ってやれ。危なっかしいゼロには特に目をかけろよ」
「ええ、言われずとも……」
「何はともあれ、全員よく生きて帰還した。百点なんかじゃ生ぬるい、お前たちには百二十点をくれてやる!!」
馬車内が和やかな雰囲気に包まれる。
今までの張り詰めた空気はもうそこにはなかった。
そういえば、先生の笑顔を始めて見た気がする。
ゼロは二人と目を合わせ、小さく頷いた。
「……先生! 俺は先生にこれからもパーティーを率いてほしい! 貴族って傲慢な奴ばかりだと思ってたけど、実際は違う人もいる。先生はいい教師だ!」
「そうね、初めてアンタに賛同してあげるわ」
「うん、僕もそう思うよ」
「バカ者共が……」
そう小声で呟くと、ロゼリアは下を向いて煙草の先端に火を点けた。
窓から出たその白煙が、辿って来た道を緩やかになぞってゆく。
──これにて、波乱万丈、怒涛の初任務は終わりを告げる。
まもなく少年の眼には、そびえ立つ王都の姿が映っていた。
※CHANGE
「……以上が任務の報告となります」
一連の事件の報告のため、ゼロたちは司令室を訪れていた。
目先には椅子に鎮座するトウカと、横には秘書なのだろうか、幼い顔立ちをした少女がいた。司令にはそういう趣味があるのだろうか。
「どう見ても自分より年下だろ」と思ったゼロであったが、好みは人それぞれなので下手に水を差さないことにした。
「で、どうだったかな? 栄えある初任務は?」
(ゴン!!)
少女のチョップがトウカに炸裂した。
「何が栄えあるですか!? 今報告聞いてましたよね!? 彼ら、死にそうになったんですよ!?」
「イタイ、イタイ、マリーちゃん! 勘弁してよ! 質問内容をチェンジするからさ!」
リンとロゼリアはそれを細い目で見ていた。
「いや、振り返ってみればいい経験だったよ。自分の未熟さに気づかされた任務だった。俺がもっと強かったら、リンも、先生も、傷つかずに済んだんだ……。だからさ、司令。俺はもっと強くなるよ、みんなを守れるくらい、強い魔術師になれるように……」
ゼロは拳を握りしめ、そう語った。
「……そうか、では今後も君の歩む旅路を楽しみにしているよ」
「それと、ロゼリア先生、このパーティーは依然として先生にお任せします。生徒たちにも好かれているようですしね」
「ですが……」
「問題ありませんよ。外部からの圧力は私が収めておきましょう」
「……面目ありません、感謝します」
ロゼリアはトウカに一礼した。
「では諸君!! 任務も終わったことだし、お待ちかねの報酬の時間といこうじゃないか!!」
そう言って、トウカはゼロに向かって小包を投げた。
何かと思い、中を覗き見ると、そこには金貨がびっしりと詰まっていた。
「……えっ、こんなに!?」
「推定難易度Aランクの任務だからね、これくらいは当然さ! みんなで山分けするといい」
ゼロが小包を受け取り左右を見ると、なぜか三人は一歩後ろに引いていた。
「私は受け取れん、なんせあの場では役立たずだったからな」
「私もいらないわ。そんなお金、私にとってははした金だもの」
「それはゼロが受け取るといい。僕があの魔獣にトドメを刺せたのは、君があそこまで体力を消耗させたおかげだからね」
「いや、でも……」
申し訳なさもあったが、ゼロは仲間の善意を潔く汲み取ることにした。
「ああ、そうだ。リンちゃんにはこれをあげよう。甘いものはお好きかな?」
「……これ、≪グル・ジェール≫の新作ケーキじゃないですか!? 私でもなかなか買えないのに、いいんですか!?」
「もちろん! 喜んでもらえて何よりだよ」
トウカはリンにケーキの箱を手渡すと、事務机の前に立った。
右手を前方に突き出して、肺に空気を送り込む。それは、司令からの号令の合図だ。
「諸君!! 今回の任務大変ご苦労であった!! 十分にその英気を養い、次の任務に備えてくれたまえ!! もちろん、勉学にもきちんと励むように!! それでは、解散!!」
「「はい!!!!」」
※CHANGE
ゼロたち三人が部屋を後にすると、その場にはトウカと秘書のマリー、そしてロゼリアが残された。
「今年も開催が決定しました。生徒たちには後日伝えて下さい」
「今年もやるのですね……」
「ええ、生徒たちが己を高め、仲間を鼓舞し、競い合う。魔術の祭典、≪魔術戦線≫を開催します。これは私の勘ですが、今年はより一層面白くなりますよ……」
作品を読んで下さりありがとうございました!!
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