一章 第十七話 第二ステージ(終)
ごめんなさい!! かなり長くなってしまいました!!
文章の拙い箇所が所々見受けられるかもしれませんが、楽しんで頂けると幸いです!!
いずれにせよこれで第二ステージ篇は終了です!!
結界内Aブロックのとある書庫。
両パーティーが相見え、まもなく闘いの火蓋が切って落とされようとしていた、はずだったが……。
(ビビッ────!!)
「ん? なんだ?」
「もしかして、これは……」
「……くっ、しくじった (下民如きに手間取ったせいだ。このような失態、……これでは、お嬢様に合わせる顔がない)」
突如として結界内に鳴り響いた重低音。
それは第二ステージ終了のゴングであった。
(────パンッ!!)
その時、聞き覚えのある掌音と共にその場に姿を現したのは……。
このステージの総監督官であるトウカ本人であった。
「「司令……」」
突然の出来事に困惑する両パーティーの生徒一同。
「さて、すでに競技は終わってしまったようだけど……、どうする? まだ続けるかい?」
……長い沈黙が走る。
しかし、双方は互いに向き合うと、静かに相手の目を見て頷いた。
「……だよね!! 私も中途半端な状態で終わることは望んでいないし、モニター越しの生徒たちも食い入るようにこの一戦を見守っている。……そこでだ! ここからはエクストラステージということで、どちらかのパーティーが全滅するまで、この競技を続けてもらうことにしよう。最終的に、一人でも残った方のパーティーが最終ステージへの切符を手にする。それでいいかな?」
「……ああ、頼む。司令」
「寛大な提案、痛み入ります」
ゼロとレグは剣の柄を力強く握りしめた。
「それじゃあ! まだまだ楽しませてもらうよ! 最後の最後まで、仲間と協力し、己を高め、存分に競い合ってくれたまえ。それでは諸君、良き一戦を…… (パンッ!)」
※CHANGE
── 書庫二階 東回廊 ──
「……差し詰め、これで時間を気にする必要はなくなった。加えて総力戦となり、ポイントも関係なくなった訳だが……、二人まとめて葬られる準備はできているか?」
「随分と余裕だな? 闘ってもいねえのに、そんな事言っていいのかよ? さっきとは違って、今度はお前が一人だぜ」
その場にはゼロとリン、そしてレグが相対していた。
「愚問だな、ゼロ=ノーベル……。なぜ私が現在に至るまで能力を解放しなかったか分かるか?」
「「……ッ!?」」
「教授しよう、そしてひれ伏すがいい。貴様らの敗北は今しがた確定した……」
『固有魔術・魔力誘引』
レグは剣を横向きに構え、己の魔術を解放した。
……されど、未だ異変は感じ取れない。
(派生魔術!? 能力の詳細が分からない以上、迂闊に近づくのは愚策ね)
「ゼロ! まずは一旦距離を……」
『引力』
(おっ……!?)
まるで磁力でも働いたようにゼロの体が引き寄せられる。
その先で待っていたのは、刃を振りかざすレグの姿であった。
(────ガギンッ!!)
鉄と鉄が衝突する。けたたましい金属音を響かせながら、赤い火花が飛散する。
レグの斬撃を間一髪で受け止めたゼロであったが、その刃に弾かれ押し返されてしまった。
「……ッく!?」
『水粒子 水粒弾!!』
透かさずゼロの背後から、攻撃を仕掛けるリンだったが……。
(嘘でしょ……、私の魔術が吸収されて……!?)
『引力粒子 反発』
リンの魔術がそっくりそのまま二人めがけて跳ね返された。
白い霧が立ち込めるその奥には、こちらを見下ろすように鋭い眼光が差していた。
「これで分かっただろう? どう足掻いても貴様らでは私に勝てない。さて、長引かせても時間の無駄だ (愛しのお嬢様に一刻も早く会うためにも!!) そろそろ仕上げといこう……」
体を起こしゼロが再び柄を握ろうとするその一方で、リンは柵の隙間からある物を見つめていた。
書庫の一階にある水の流れが止まった噴水。
その機知に富んだ頭脳で瞬時に思慮を巡らせる。
(これなら……)
「ちょっと、アンタ。耳貸しなさい!」
「なんだよ、いきなり……」
(ゴニョゴニョ……)
果たして、彼女の思惑とは如何に……。
※CHANGE
── 書庫二階 西回廊 ──
(ドオオオ────ン!!)
他方こちらでは、ライトが二人の猛攻を捌きながら、反撃の機会を伺っていた。
「君、誰かに似ていると思ったら、ロゼリア先生の妹だろ? 悪いけど、僕はそれを理由に手加減なんてしないから、そのつもりで……」
「無用だ、私は姉様のように甘くはない。それより自分の心配をしたらどうだ? 魔術の使えない貴様など、断崖に迫る虎の子だぞ」
(分かってはいたけど、魔術なしってしんどいね。ジリ貧になる前に作戦の準備が整わないと、流石の僕でも厳しいかな。頼んだよ、リン……。この一戦における勝敗は君の手腕に懸かってる)
(それにしても、魔術が使えないのによく動く。魔力残量も僅かな筈だが、ライト=ウィリアムズ、流石と言ったところだな。であれば……)
魔術師の魔力出力は、自分と結びつきが強い物を通すことで上昇する。
リンであれば杖、ゼロであれば剣というように。
ランカーが扱うは魔導書であり、そこに自らの魔術を流すことで技の威力を増幅させる。
事前に魔力が組み込まれたその魔力出力は、単純計算で通常の二倍だ。
「下がれ、ルナ」
「……ッ!?」
『電粒子 放電!!』
地を這うように木目の床に放電が駆け巡る。
血管に血液が浸透するように周囲の物を感電させ、まもなく足場が瓦解した。
崩落する回廊と共に、三人も書庫の一階に落下する。
(今のも躱すか……)
ライトは直前で身を翻すことにより、その一撃を回避していた。
光が差さないせいかその場は無数の本が並ぶ暗影の間となっていた。
「……しかし、貴様も不憫だな。パーティーだけ見れば、東貴族街の名家であるフレミア家の令嬢、王都公認のパーティーから引き抜かれる程の実力を有した貴様。あの愚かな下民を除けば、もう少しマシな編成になっただろうに」
「何も分かってないんだね、君は……」
「なんだと?」
「ゼロは近い将来、確実に僕よりも強くなる。……それにね、僕らは皆で一つのパーティーなんだ」
「……ッく、ならばその減らず口。今ここで叩き直してやる!! (俺は散々魔導書による遠距離攻撃を仕掛け続けた。奴の頭にはそれが嫌というほど刷り込まれただろう。今ならやれる……!!)」
先行するルナの背後から先程と同様、電撃を仕掛ける、そして……。
ランカーは懐に隠していた剣を引き抜き、ライト目掛けてその刃を突き付けた。
(カアア────ンッ!!)
船の甲板を叩くような甲高い音が響き渡る。
(なっ……!?)
ライトは小型のコンバットナイフに魔力を纏わせ、その鋭い斬撃を防ぎきった。
「使える物は何でも使う。より洗練された魔術師になりたいのであれば、まずは基礎を固めることだよ」
※CHANGE
「……愚かな奴だ。あっちが不利だと踏んで加勢しに向かったのか? 無駄なことだ。手負いの貴様など即座に片付け、私もあちらに向かうとしよう。それでチェックメイトだ」
書庫二階の東回廊。
リンは「やることがある」と一階に降り、その場にはゼロとレグの二人のみが残されていた。
(アイツの魔術はなんとなく理解した。魔力を帯びたものを引き寄せたり、突き放したりできる。……だったら、やるべき事は単純だ)
ゼロは剣を右手に携え、ただ一直線に駆け出してゆく。
(馬鹿の一つ覚えだな。大方、近接戦に持ち込むつもりだろうが、そうはさせん)
『引力粒子 反発』
「……ッく!?」
ゼロは吹き飛ばされるも、本棚の合間を縫い、確実にレグとの距離を詰めてゆく。
それを阻止するべく≪反発≫を連発するレグであったが……。
(……ちっ、往生際の悪い奴だ。しかし、こちらの魔力が消耗させられているのも事実。ここは一旦態勢を立てな……!?)
遂に相手の懐に到達すると、ゼロは刃を裏返し、そのままレグを突き飛ばした。
流れるような動作で間髪入れずに連撃を打ち込む。
「そんなに近接戦が怖えーのかよ? 騎士なら正々堂々やり合おうぜ!!」
「……舐めるなよ、下民風情が。貴様の荒い剣技に遅れを取る私ではない!!」
(────スパンッ!!)
レグの洗練された太刀筋が再びゼロの体を切り裂いた。
しかしゼロに攻撃を止める気配はなく、寧ろその猛進に拍車が掛かる。
(……なんてがさつな剣!? だがそれ故に攻撃が重い? いや違うな。……コイツ、微かに刃先に魔力を付与しているのか。ならば……)
レグがゼロの腹部に手をかざした、次の瞬間……!!
『反発!!』
レグヴェインの固有魔術≪魔力誘引≫は、魔力を帯びた物体を吸引、あるいは反発することができる。
魔力を帯びてさえいれば、無機物だろうが関係はない。
欠点があるとすれば、術師本人に魔力を引き寄せる性質があるため、多勢に無勢の状況でしか解放に適さないという点であろう。
『引力!!』
そう唱えると、勢いよく後方に吹き飛んだゼロと魔導書が並んだ本棚が引き寄せられた。
急ぎ剣での対処を試みるゼロであったが……。
「させん……」
微かに魔力を帯びたゼロの剣が≪反発≫により宙舞う。
束の間の油断が生んだ絶体絶命の状況。
「終わりだ。『衝突!!』」
まもなく、レグの魔術により引き寄せられた双方が衝突しようとした、次の瞬間……!!
ゼロは直前で本棚の枠板を掴むと、その下を伝い勢いよく滑り出した。
半身を起こし拳を構え、暗がりの回廊を一直線に駆け抜ける。
(身体の底の魔力を、この拳に全部のせる!!)
(コイツ、剣での攻撃を捨てて……!!?)
(ドゴオオオ────ン!!)
その一撃を刃の腹で食い止めるレグであったが、魔力の乗ったゼロの拳はその防御を貫通し、波紋が広がるように炸裂した。
「……リン!! いったぞ!!」
ゼロの剛拳を受け、レグは下の階に突貫した。
(プシャアアア────!!)
その途端、館内のスプリンクラーが起動する。
「なんだ? これは……」
※CHANGE
書庫一階の西回廊。
ランカーとルナ、そしてライトの三人は突如天井から降り注いだ水沫の影響により、一時戦闘を中断していた。
「上手くいったみたいだね、リン……」
「何?」
「見てみなよ、自分の足元」
スプリンクラーのせいだけではない。
中央の古びた噴水を含め、館内の水場の至る所から水が溢流していた。
足元を見ると、すでに浸水が始まっている。
「……いつからだ? 我々との戦闘で作戦を練る時間などなかったはずだ」
「ん? あー、そういう話ね。リンと僕は一緒に来たからね。建物の外観を上空から見たときに、ある程度作戦を練っていたんだ。まあ、十分な水場があるかは賭けだったけど。ただゼロには直接作戦を伝える必要があったから、リンが最初あっちについたってこと。僕は準備が整うまでのただの時間稼ぎさ」
「何を企んでいるのかは知らんが、貴様をここで倒すことに変わりは……」
「……おっと。そろそろ頃合いだ。それじゃあ僕はここらで退散させてもらうよ。巻き込まれるのは御免だからね」
そう言い残し、ライトは残り少ない魔力を使ってその場から姿を消した。
一方その頃、一階の広間に追いやられたレグの眼前には、瑠璃色の瞳を持つ一人の少女が佇んでいた。
「フレミア家の……」
──機は熟した。
ごめんなさい、母様。
またしても私は、貴方の期待には答えられないかもしれない。
強気になったり、弱気になったり、私って本当自己中だ。
だけど……、そんな私でも……!!
──「俺、勝つよ」 「僕らは皆で一つのパーティーなんだ」
その言葉を、その言葉だけは、私は無下にはしたくない!!
ここで全力を出さなかったら、きっと私は……、後で後悔することになるから!!
これが最後の我儘……。
だからお願い……、今だけは……、母様の進言に背かせて。
そう心の中で願い、リンは杖を振り下ろした。
『水粒子 複合魔術・大氾濫!!』
自然魔術の特性。
それは、自らの魔術に関連するものに魔力を流すことで、自在に操れることにある。
無論、魔力量の関係で操れる許容量には限度があるが、それでも大きな利点になるのに変わりはない。
リンの魔力が溢れ出る水に伝播し、彼女を中心に渦を巻き上げる。
その光景はまるで大海に浮かぶ渦潮の如し。
まもなく、下のフロアに残留していたレグたちを飲み込んだ。
……が、しかし。
「……ッく!!? こんなもの!! 私の魔術を以てすれば……!!」
レグは押し潰されそうな水圧の中、魔力を含んだ流水を自らの剣に収めようとしていた。
(…………ッッ!!? こんな所で、私は敗ける訳にはいかない!! 下民が二人もいるような寄せ集めのパーティーなどに敗ける訳にはいかないのだ!! ……でなければ、常日頃私を慕って下さるお嬢様の側近でいられよう筈もない!! だから私は、何としてでも……!!)
※CHANGE
私が白のローブを羽織っているのは、お嬢様の純白の気品を穢さないためだ。
私が剣の腕を磨くのは、お嬢様の成長を見守り、諭し、そして何よりお守りするためだ。
リティナ様は特別な御方だ。バルデン三王家の一角、レイフォンハート家の皇女殿下。
いずれは世界に十二本しかないとされる≪聖園の神剣≫を継承する御方。
私が護衛役兼指導者として選ばれたのは、彼女の剣術がまだ未熟だからに過ぎない。
だから、私の役は違う誰かでも良かったのだ。いや、むしろ本当はそっちの方が良いのだろう。
魔術師の私を側近として置くなど、王族の高貴な品位を下げかねない。
実際、王宮内では私の人選に口を挟む者も多い。
「なぜ、リティナお嬢様はあのような者を側近に……?」
「聞けばあの者は、自身の魔術により魔力を集めやすい体質なのだとか」
「まあ、大変! いますぐ旦那様に進言し、側近を変えて頂かねば! お嬢様に魔の気が乗り移っては大変です!」
「ええ、いますぐそう致しましょう!」
慣れている。そのような雑言を言われることには慣れているのだ。
しかし、下女たちが言うのもまた事実。
私はやはりお嬢様の側近としては相応しくない。
そう思い、そのことを言伝しようとお嬢様の自室を訪れたある日のこと。
「……お嬢様。やはり私は貴方の御傍にいるのは身に余るかと……」
「どうして?」
「剣を教えるだけなら他に適任はいくらでもいますし……、何より私は魔術師です。私の体質はお嬢様も重々承知でしょう。本来は最も不適切な身の上なのです」
「127……」
「……えっ?」
「私の側近が変わった数よ。お父様は驚くほど私に対して過保護だから、気に入らない側近は即座に変えるの。流石に多すぎる気もするけどね。そんな中、こんなにも長期の間、側近を務めているのは貴方だけよ。お父様同様、私も心から貴方のことを信頼しているわ」
「ですが……」
「それに、仮に貴方よりも剣術が達者で、いい身分で、魔術師じゃない人が来たとしても、私は貴方を側近として選びます」
「何故です? それではあまりに……」
「その手を見れば分かる、きっと相当な修練を積んだのでしょう。他の誰でもない、そういう人に、私は剣を教わりたいのです。だからこれからもよろしくね。頼りにしているわ、レグ」
「……ううっ、おぞう様……!!」
「あら、大変。そんなに感動するようなこと言ったつもりはないのだけれど……。これは、チーフを用意しないとね。ふふっ……」
この時を境に、私は真に忠誠を誓ったのです。
──このレグヴェイン、生涯をかけてお供させて頂きます。
※CHANGE
(……貴方の御傍に居られるように!! 胸を張ってそう思えるように、私は……!! こんな所で敗れる訳にはいかないのだ!!)
(嘘……!? 私の魔術が段々と彼の方に引き寄せられてる……!?)
渦巻く水圧にも負けず、渾身の力を振り絞り、柄を握るレグであったが……。
ふと天井を見上げると、陽光の中に一つの黒い影が差していた。
(それぞれ思うことはあっても、勝ちたいと願う気持ちはきっとみんな同じなんだ。だったら、最後まで全力でやらないと平等じゃない。全部出し切る!! 俺たちは、間違いなく勝ちに来た!!)
空中で目一杯、剣を背面に振り上げる。
光沢の灯った刃先がさらなる光を纏い、あまねく魔力が呼応する。
『粒気収束 百パーセント 貫通剣!!!!』
(ドッッパアアア────ン!!!!)
上空から地を穿つように放たれた一閃は、猛烈な勢いで渦潮の激流に衝突した。
その直後、大量の水しぶきが上がり、天井のガラス窓が跡形もなく砕け散った。
館内に雨水が降り注ぎ、書庫を外から覆うように七色の虹が橋を架けている。
中央の広間には現在、ただ一人が佇んでいる。
右手に柄を握りしめ、布の切れた黒のローブを身に纏い、赤茶色の髪を逆立たせながら。
反射光が解け、その地に足をつけていたのは……。
※CHANGE
(……ん、私は、あの後一体どうなって……)
一連の激しい戦闘の影響で、書庫の設備のほとんどが崩壊し、無数の書物、瓦解した回廊の床板、豪壮な本棚に至るまでその全てが下のフロアに集積していた。
茫然自失の光景である。
木目の床板に亀裂が走る僅かに原型を留めた上階の足場。
リンが目を覚ますと、ライトが覗き込むようにこちらを見ていた。
距離がものすごく近い。相手の心音が分かるほどに……。
そして徐々に意識がはっきりしてくると、自分が抱きかかえられていることに気がついた。
俗に言う、お姫様抱っこというやつである。
ライトはゼロの斬撃が渦潮の激流に衝突する直前、リンを抱えて待避していた。
「……ちょっ、ちょっとアンタ、早く私を降ろしなさい。このままじゃ、その……、凄く喋りにくいから……」
「ああ、ごめん」
ライトは初めに足先がつくようにリンをゆっくりと優しく降ろした。
「ところで大丈夫? 顔真っ赤だよ?」
「……っ!? だ、大丈夫!! 何でもないから!!」
「そっか……」
「それで、ゼロは? アイツはどうなったの?」
「無事だよ。ほら見て、あそこ」
ライトが指さしたその先には、一人直立不動で佇むゼロの姿があった。
良かった。最後に仲間を勝利に導くことができた。
これでもう……、後悔はない。うん、そのはずだ。
(私は、敗けたのか……)
空に架かる虹に手をかざす。しかし、もはや手を伸ばす余力さえ残されてはいなかった。
さて、後でお嬢様にどう顔向けすればいいのか、レグがそんな事を考えていると……。
「レグ──!!」
「お嬢……様……??」
無邪気に手を振りながらこちらに駆け寄ってくるのは、紛れもないリティナ本人であった。
でも、なぜ。結界の外にいたはずでは……。
レグは咄嗟に起き上がろうとしたが、蓄積した疲労と怪我で体勢を崩してしまった。
「おっと……」
レグは倒れ込むようにリティナの胸に寄りかかった。
「……お嬢様、なぜここに?」
「私の要望に応えて、司令官様がこの場に送ってくださったの」
「申し訳ありません。お嬢様の期待に沿うような活躍もできずに、このような醜態を……」
「いいのです。私は貴方を罵るためにここに来たのではありませんよ。むしろ労いに来たのです。カッコよかったですよ、レグ。お疲れ様でした」
「あの……」
「帰ったら手厚く治療しないとですね!」
「……あの! お嬢様、大変申しあげにくいのですが……、お嬢様に触れていると凄く体がビリビリして……」
「……ああっ、すみません! 私ったら、そうでしたね……」
(やっぱりな。結果がどうあれ、リティナにとってお前は、かけがえのない存在なんだ。心配せずともそれは変わらない。道に迷った平民の俺を助けるほどのいい奴だからな)
ゼロは穏やかな面持ちでその様子を見つめていた。
リティナはレグの体を労り、ゆっくりとその場から離れると、そのまま後ろを振り返った。
そこには今にも倒れそうなよろめくゼロの姿があった。
リティナはゼロの目をただ一点に見つめる。
その瞳の奥にあるのは……。
(……お前、もしかして……。ああ、そういうことか……)
────まもなくして、ゼロは意識を失った。
※CHANGE
── 数日後 ──
以前と同様、過保護すぎる看護婦さんたちのおかげで、ゼロとライトの両名は順調に回復を遂げていた。
もっともそれは、この二人の異常なまでの治癒速度を加味した上での話だが。
そして現在、ゼロたちはロゼリアに呼び出され、魔術学校の廊下を歩いている最中である。
「まだ、少し痛えが、大分治ったな!」
「君が無事で何よりだよ。僕も久々に全力を出したかな」
「お前がボロボロになるなんて、珍しいこともあったもんだな!」
「さっき説明した通りだよ。こっちも色々大変だったのさ」
そんな談笑に耽っていると、まもなくして予定の教室に行き着いた。
扉を開けると、そこにはいつも通り煙草の葉を蒸かしたロゼリアの姿があった。
「……まずは第二ステージご苦労であった。よく皆で協力し、突破を決めたな。それでこそ私のパーティーだ。お前たちの担任として誇りに思うぞ」
「おう!!」
「ありがとうございます」
「それで、リンのことなんだが……」
「そう言えばアイツ、今朝から姿が見えねーな。どこにいるんだ?」
「……続く最終ステージ、彼女の棄権が決定した。なお、そこに一切の異論の余地はない」
「「……ッ!?」」
突如、ロゼリアの口から告げられたリンの棄権通告。
その言葉に、二人は顔を歪ませた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
正直、第二ステージ篇は思った以上に長くなってしまったので全体としてまとまっているか不安ですが、とりあえず最後まで書けてよかったです!!
宜しければ、ブックマークと評価をお願い致します。
来週号は休載とさせていただきます。申し訳ないです!!