一章 第十六話 第二ステージ(5)
いよいよ第二ステージ篇も大詰めとなってきました!!
楽しんで頂けると幸いです!!
(────ガギンッ!!)
刃が交わる金属音が鳴り響く。
結界内Aブロック。ゼロはレグとそのパーティーメンバーの猛攻に防戦一方を強いられていた。
(……ッく、魔力を溜める隙がない!? 間合いを詰めた斬撃の応酬、その後ろにはロゼリア先生と同じ土魔術のミドルアタッカー、さらに後方には遠距離型の雷使い。……マズいな、消耗戦に持ち込まれたら確実に敗ける。ウィットとの戦いで前のような技の出力はたぶん無理だ。とっておきを出してもいいが、体が保つか分からない。となると……)
ゼロはレグの刃を弾くと、そのまま後ろに身を翻した。
即座に間合いを詰められぬよう一定の距離を取り、呼吸を整える。
「驚いたぜ……。まさか王族の護衛騎士ともあろうエリート様が、この時間になってもまだ残っているとはな……」
「時間稼ぎか? 我々は偶然魔獣と人の少ない場に転移させられただけだ。それにこちらの合計ポイントは現時点で<800pt>。ここで貴様を倒せば、無事にクリアだ」
(……ふうー。冷静に考えて、今の俺に目の前の三人を相手取るのは厳しい。アイツらの助けが来るまでなんとか耐え凌ぐか? いや、違う、そうじゃない! これがもし任務だったら、そんな甘い考えじゃダメだ。考えるんだ、この窮地における打開策を。今ここで!!)
「助けなぞに期待はするなよ。風の噂によればお前のパーティーメンバーの一人は、未だ気を失っているらしいじゃないか? 本当に情けないな、下民というのは……。いずれにせよ、我々の目的は変わらない。ここで全力で、貴様を叩き潰すのみ! (見ていて下さい、お嬢様!! この勝利は貴方のために……!!)」
「へっ……、そう思うのか?」
レグの重厚な剣の刃に光沢が灯り、再び戦線の狼煙が上がった。
息を尽かさぬ魔術と剣術の連撃。その攻撃を躱し、受け止め、なんとか応戦するゼロ。
……すると、何やら遠くに気になる建物が。
(ん、あれは……)
※CHANGE
── 遡ること数分前 結界内Iブロック ──
ライトが魔獣を掃討した後、身の安全のため隣のブロックに待避していたリンとルーニションが合流した。街々の面影はもはやなく、その場は瓦礫の残骸だけが散開する焼野原となっていた。
街を破壊してもいいとは言われたが、流石にこれはやりすぎなのでは……。
眼前に映る光景を見て、リンは呆気に取られていた。
「いやー、ムカムカしてたから力加減間違えたみたい。(テヘッ!)」
「だからってやりすぎよ! ちょっとは加減しなさいよね! 全く! すごい怖かったんだから!!」
「そうだション!!」
「あはは、ごめんね……」
次からは気を付けよう、そう心の中で復唱する。
珍しく罵声を浴びせられたライトであった。
「さて、それじゃあ一刻も早くゼロの所へ向かおう! 妖精君、ゼロの様子は?」
「……それが、さっきからゼロ君の魔力反応が弱まってるション。たぶんまた、誰か違う相手と交戦中だション。それもかなりの手練れと……」
「場所は?」
「結界内のAブロック。ここから一番遠い地点だション……」
(マズったな……)
急に黙り込み熟考するライトに、リンが水を差すように口を開いた。
「ねえ、別に遠くたってアンタには関係ないんじゃない? アンタの能力なら一瞬で移動できるわけだし……」
ライトの魔術を考慮すれば、至極真っ当な意見である。
だが、話はそう簡単ではないようで……。
「その事なんだけど、実は……」
≪光魔術≫。それこそが青年が保持する魔術の名だ。
自然魔術の中でも言わずとしれた最強格の≪固有魔術≫である。
技の火力もさることながら、やはり一番の武器は圧倒的な速度であり、その最高速度は亜音速をも上回る。
だが、そんな≪光魔術≫にも確かに欠点は存在する。
それは、一つの技に対する魔力消費量が他の魔術に比べ特に多いことだ。
そのため性能を最大限引き出すには、どうしても術師本人の生まれつきの魔力量に左右されるし、大技を連発すれば当然体に負荷がかかる。
圧倒的な魔術の才、そして多くの魔力量が揃って、初めて真価が発揮される魔術なのだ。
故に、並み大抵の魔術師では扱うことすら難しい。
「……つまり、今は魔術が一切使えないってこと!?」
「そういうこと! (今の僕だとね)」
リンは呆れていた。
おそらく浮ついた心のまま技を放ったせいで、魔力消費量が想定よりも大きくなり、魔力が底をついたのだろう。一刻も早くゼロのもとに駆けつけるはずだったのでは……?
これでは本末転倒ではないか。
「アンタって、そーゆうとこ抜けてるわよね……」
「……そこでだ、リン! 君の魔道具だと、どれくらい掛かる?」
「え、それって箒のこと? うーん、最大限飛ばしたとしても、たぶん5分は掛かるわね」
「……なるほど、じゃあ3分で行って (ニコッ!)」
そんな童心に返ったような瞳で見られても……。
……仕方がない、ここは心情を曲げる時だ。リンはそう判断した。
「はいはい、分かったわよ……」
そう言って、ポーチから折りたたまれた箒を取り出すと、リンはライトと共にその上に跨った。
「いい? 危ないからしっかり捕まって…… (ヒャンッ!)」
突然の出来事に思わず変な声が出てしまった。
視線を落とすと、ライトの腕が自分の腹部に巻き付いているのが分かる。
男の人の腕ってこんなにもガッチリしているものなのか、とリンは思った。
「……どうかしたの?」
「な、何でもないわ!! ほら、さっさと行くわよ!!」
横でニヤニヤしている≪ルーニション≫が無性に腹立たしかったが、リンは沸々と湧き上がる感情を抑えそのまま箒を発進させた。
紆余曲折ありながらも、ゼロのもとへ急行する二人であった。
(────ヒュオオオオ)
「そう言えばアンタ、眠っている時にどんな夢を見せられていたの? 随分な悪夢だったそうじゃない?」
「あー、本当、久々に精神がすり減らされる心地だったよ。全身を矢でめった刺しにされたり、爪を剝がされたり……、あとは……」
「うっ……、もういいわ。聞いた私がバカだった……」
※CHANGE
── 結界内Aブロック ──
ゼロは先程遠目に見た建物の中に潜り込み、身を隠していた。
レグたちも追走するようにその場に足を踏み入れた。
「……ここは、書庫か」
レグがそう呟く先には、何万冊という書物が円形の内装を囲うように敷き詰められていた。
しばらく使わていないからか、本棚や椅子などの館内の備品は埃をかぶっている。
フロアは一階と二階に分かれており、天井が見える吹き抜けの構造となっていた。
「何を企んでいるのか知らんが、身を隠しても無駄だぞ。お前の考える事など手に取るように分かる。全く、下民というのは醜いな。正面から剣を交えようともせず、こそこそとこちらの隙を伺う。騎士としての矜持も持ち合わせていないとは……、呆れた奴だ」
(カツン……カツン……)
静寂に包まれた暗がりの回廊に、足音が木霊する。
(たぶんもうそんなに時間は残されていない。俺が今やるべき事はアイツらを倒し、このステージを突破すること。アイツらが俺のポイントを奪えば突破できるということは、そのまた逆も然りだ。おそらく奴らは手分けして俺を捜索する。その策を利用して俺は一対一の状況を作りだし、着実に一人ずつ……)
「言ったでしょ、アンタが考える事なんて、手に取るように分かるって……」
……しまった。
柄でもない考え事に気を取られて、背後から忍びよる気配に気が付かなかった。
『土粒子 土粒根!!』
突如、床から突き出した土塊がゼロの脇腹をかすめた。
剣でバランスを取りながら、後方に身を翻すと同時に、空中で相手の様相を確かめる。
鮮やかな紫色の髪にキリっとした凛々しい顔立ち、よく見ると、誰かに似ているような……。
「お前、どこかで……」
と、その時……!! 電光石火の速度で接近する二つの騒がしい足音が耳を打った。
「ランカー、左右から挟み撃ちにするぞ」
「御意に」
「次は逃がさぬぞ、ゼロ=ノーベル!!」
「……ッく!?」
『二十パーセント 貫通剣!!』
土煙を立て、再び潜伏を試みるゼロであったが……。
「無駄よ。ここに来る前に、あなたには小型の発信機を取り付けておいたの。私の手元にある携帯式の魔道具であなたの位置は筒抜け……。逃げ場なんてないわ」
体を切り裂く絶え間ない斬撃、立ち眩みしそうになる土塊の重い一撃、手足を麻痺させる地を這う電撃。
体の節々に痛みが走り頭に血が回らなくなる、以前にも何度か経験したことのある感覚だ。
……だけどまだ、ここで倒れる訳にはいかない。
(ポタ、ポタポタ……)
血が滴る音がする。ゼロは何とか片膝をつくと、再び立ち上がった。
その眼前には、立ちはだかる三つの影法師が映っていた。
「なぜ、諦めない? 貴様の敗北はすでに決定している。大人しくポイントを渡せば苦しまずに済むものを……。大体、大した野望も、信念も持ち合わせていない下民風情が、どうしてこの私に勝てると?」
「……野望か」
ゼロはレグのその言葉を嚙み潰した。
※CHANGE
「……ところで、お前の夢はなんだ?」
「俺か? 俺はなあ……、俺を支えてくれる人達に笑っていて欲しい! そんでもって、身分とか階級とかそんなの関係なしに、皆が手を取り合って、助けあって、互いに等しく笑い合える。そんな世界になって欲しいんだ。そのためには、俺は強くならなきゃいけない。いざという時に皆を守れるように、いつまでも見習いのままじゃダメなんだ。……おっさん、俺、少しは自分の目標に近づけたかな?」
※CHANGE
天井のガラス窓から光が差している。
額から流れ出た血のせいで視界が悪いが、ゼロは柄を強く握りしめ、再び剣を構えた。
「お前に負けられねえ理由があるように、俺にもあるんだよ、勝たなきゃならねえ理由がな。……だから、俺は最後まで、倒れる訳にはいかねえんだ……」
── 結界外 観戦用魔力モニター付近 ──
「貴方はご自分の妹君のパーティーと彼、どちらが勝つとお思いですか?」
モニターから少し離れた建物の陰から試合を見守っていたロゼリアのもとに、細身の男が近寄って来た。
白装束に身を包み、杖を携えた糸目の男。レグヴェイン一行のパーティーを受け持つ担当教師だ。
「これはこれは……、パンナコッタ先生。久しいですね」
「誰がパンナコッタだ!? いつも間違いおって、正しくバナムコットと呼ばんか!! (……全く、これだから西部の連中は……)」
「……して、先の質問についてですが、私は実の妹だからと贔屓目では見ていません。もちろん自分のパーティーもです。その上で、私の見解を述べるのであれば……」
(三人を相手に一人で醜く藻搔き続ける下民、実力差もさることながら未だ散り散りのパーティーメンバー。言うまでもないことだろう……)
「この試合、ゼロたちが勝ちます」
────は?
今信じられない言葉を耳にした気がする。
その発言に、バナムコットは一瞬思考が静止してしまった。
「……ロゼリア先生、それは少々渇望が過ぎるのでは? 近頃下民とつるんでいたせいで頭までおかしくなったご様子で?」
「そんなつもりは一切ありませんが……」
「≪パーティーランク≫、というものをご存じですかな?」
「無論、承知しています」
≪パーティーランク≫とは、魔術学校におけるパーティーごとのTierのようなものである。
学力、魔力、体力、こなした任務の数などを総合して、パーティーとしての順位が定められるのだ。
パーティーとしての実力、個人としての実力。その両方を表しているといっても過言ではない。
「多くの生徒が在籍するこの魔術学校で、一位の座に君臨するのが私の率いるパーティーだ。慢心的な発言は控えて頂きたい! その発言は侮辱と取りますぞ、ロゼリア先生……」
「……」
「そうでもないと思うぞ」
聞き覚えのある声が後方から聞こえてきた。
ロゼリアの背後から突如として姿を現したのは、ラビであった。
「これはこれは……、斯様な大物がいらっしゃった。して、その訳とは? 是非とも王都最強の魔術師殿の見解をお聞かせ頂きたい。もっとも、今交戦している下民の小僧が敗ければ私共の勝利は確定致しますが……」
「……違うんだよ、奴と彼らとでは自力がな」
※CHANGE
「終わりだ、ゼロ=ノーベル。貴様の醜い足掻きを見続けるのは、もううんざりだ。最後は私の一振りをもって終わらせよう…… (愛しのお嬢様のためにも不要異分子は早々に取り除く!!)」
片膝をついて上を見上げるゼロに、煌めくレグの刃が振り下ろされようとした、次の瞬間……!!
(────パリンッ!!)
突如、天井のガラス窓が割れ、溢れんばかりの木漏れ日と共に二つの黒い影が差した。
『……水粒子 水粒弾!!』
ゼロとレグの足元に水しぶきが飛び散り、周囲に霞が立ち込める。
視界の白い靄が晴れ、その場に姿を現したのは……。
「……三対一なんて物騒だな。ここからは、総力戦といこうじゃないか?」
「ライト=ウィリアムズ……。なぜ貴様がここに!?」
ゼロの目の前には背を向けて佇んでいるリンとライトの姿があった。
「お前ら……」
「遅れてごめん。立てるかい、ゼロ?」
「……当たり前だ、誰に言ってんだよ! お前だってボロボロじゃねーか……」
「その元気があるなら、大丈夫そうだね」
「おう!!」
「ほら、感動の再会に水を差すようで悪いけど、早く構えなさい。おそらくここが……、最終局面よ」
ゼロはライトに手を引かれ、立ち上がった。
遂に再会を果たしたゼロたち一行。三者それぞれが揃い、白熱する第二ステージ。
戦線のボルテージは最高潮へ……!!
読んで下さり、ありがとうございました。
宜しければブックマークや評価をよろしくお願い致します!!
第二ステージは来週完結予定なので、それもお楽しみに!!
── 本話のおまけ ──
今回はキャラクター紹介はお休みで少し自分事。
この作品も一応は、「小説家になろう」のコンテスト的なのに応募しております。まあ、選ばれるかは分かりませんが、少しは期待しておくことにします! 選ばれれば、より多くの人に読んでもらえるでしょうしね!