一章 第十五話 第二ステージ(4)
さて、今回も引き続き第二ステージを楽しんでいただければ幸いです!
にしても長いですね、第二ステージ……。想定よりも大分……。
(ん……、僕は一体どれくらいの時間眠っていたのだろう……? なんだか周りが、騒がしいような……)
微睡むライトのジト目には、二つの影がぼんやりと映っていた。
一つは人影で、もう片方は浮遊している小さな何かだった。
「リンちゃん、やっぱりここは人口呼吸しかないション!!」
「……え!? でも心音は聞こえるわよ……、ちゃんと」
「念のためだション!! 聞いたところ、彼は三十分以上目を覚ましていないション。回復用のポーションも飲ませたのにまだ起きないなんて、そんなのおかしいション! きっとこれは、彼の命に危機が迫っているからだション!!」
緊迫した雰囲気を煽り立てるアザラシ型マスコット。
悪戯好きの妖精の戯言に籠絡していたリンであった……。
(えー……!! どうしよう!? 人口呼吸ってあの口づけてやるやつよね!? それって、それって……、キ、キ……、やっぱむり──!!)
「ためらってる時間はないション!! 彼が死んでもいいション!?」
「そ、そうね…… (落ち着け、落ち着くのよ、私……。これはあくまで治療の一環であって……、決してやましい事なんかじゃ……)」
身を屈め、片側の髪を耳に掛ける。近づく度に心音が激しくなってきた。
だけど、もう覚悟は決めた。リンの清らかな唇が触れようとした次の瞬間……!
……案の定、ライトが目を覚ましたのであった。
「リ、ン……? どうしたの、顔なんか近づけて?」
「……ッ!?」
リンはまるで驚く猫のように仰け反ると、途端に顔を赤く染めた。
顔から火を吹くとはこの事である。貴族様に色恋沙汰はまだ早かったようだ。
「ち、違うのよ、ライト!? これはあくまで治療の一環であって……、そのー……、あ──!! 死ね──、このバカアザラシ──!!」
(ぼぎゅっ!!)
リンの拳が≪ルーニション≫に炸裂した。
「君は……、ゼロの方にいた子かい? ゼロは……、彼は今どうしてるの!?」
「……ゼロ君は今、最後の闘いに挑んでいるション……。君の魔力反応が消失したと聞いて、先に僕をこの場に送ったション」
「……なるほど、そうだったのか。(この魔力反応からして、相手はあの風使いか……)」
「アンタ、本当に大丈夫なの? まだ安静にしていた方が……」
「残念だけど、そんな悠長な時間はないかな。妖精君、残り時間は何分だい?」
「十五分だション!!」
(僕が眠っている間に大分時間が流れたな……。このままだと通過は厳しいだろう。ゼロの方へ加勢に行きたい所だけど、生憎時間に余裕はない。今はポイントを稼ぐことの方が先決だ。僕のポイントもアイツに加算されちゃったみたいだし、それなら……)
「妖精君、この結界内で最も魔獣が集中しているブロックを教えてくれるかい?」
※CHANGE
(────ピピピッ)
「お、ネルバからだ! もしも……」
「ちょっと!! ウィット!! アンタ今どこにいんのよ!? 何回掛けても通話に出ないし、せっかく通信用の魔道具持ってきたのに、これじゃあ意味ないじゃない!! 全く、目を離すとすぐどこかに行っちゃうんだから!! もう……」
受話器越しに怒鳴り声が聞こえてくる。
競技が始まって早々、自由奔放な行動をするウィットにネルバはご立腹であった。
「……ごめん、ごめん。今度なんか奢るからさ、今回は許してよ。ね?」
「じゃあ≪グル・シャール≫の……、イチゴとバナナの果肉が入ったチョコレートチョコチップチーズケーキね!」
(ながい……)
「……それで、当初の目的だった奴には会えたの?」
「うん!!」
「勝った?」
「もち!! ……まあでも、もう一度闘ってみないと分かんないかな。彼も他の事に気を取られていたようだし。ぜひまた拳を交えたいね! いやー、楽しかったー!」
「そっ、アンタがそう言うなら良かったわ。……ところでウィット、そっちにまだ魔獣がいたりする? この妖精が言うには、あと<50pt>で第二ステージを無事に通過できるのだけど、私たちの近場はもう魔獣が狩り尽くされてしまって……」
(そういえばこれ、ポイント制だったか……。ゼロとの闘いに夢中ですっかり忘れてしまっていた)
そう思い、ウィットが辺りを見渡すと……。
「いた!! 魔獣!! (えいっ!)」
(────ブウウウン!!)
ウィットが素手で中型の魔獣を倒すと、天から光が降り注いだ。
それは予選突破の合図である。
(これで終わりかあ……。もう少し楽しみたかったけど、時間的に仕方ないね。最終ステージは一対一の一騎打ち。だから上がって来てね、ゼロ。僕ちゃんと君の決着は、まだ真の意味でついちゃいない。その時こそが本当の闘いだよ……)
※CHANGE
チーム戦であり個人戦、おそらくそれが本競技における最も重要な項目だろう。
パーティーでの強さのみならず、個々の力量も隈なく測っているという訳だ。
そうでなければ、最終ステージの舞台に立つのにふさわしい者かどうかの判断基準が曖昧になってしまう。
だがこの競技の仕組みには、実はもう一つ注視すべき点がある。
それは……、たとえ一度戦いに敗れたとしても制限時間内であれば、生徒は戦線に復帰できるという点だ。
おそらく一人で気絶していて魔獣に襲われる危険性がある、あるいは余程の重症を負っているなどの場合は、結界内に配置された監督官によって事前に救出されるのだろう。
だがその場合は、当然脱落扱いとなってしまう。
そう考えると、リンと一緒にいた僕はまだ運が良かったね。
結界内Iブロック、ライトは上空から戦況を俯瞰していた。
(下には多くの魔獣、幸い人の気配はない。……ということは、割と脱落者も出たみたいだね。まあどっちにしろ、今の僕にとっては好都合だ。このままじゃ、ゼロに合わせる顔がないからね。それじゃあ少し、本気を出そうか……)
──≪詠唱≫には二つの段階が存在する。
一つ目は、≪第一詠唱≫と呼ばれる簡略化された詠唱。
そして二つ目は、≪第二詠唱≫と呼ばれる整合性のとれた完全な詠唱。
後者は確かに技の発動時間に多少遅れが生じるが、その威力や精度は飛躍的に上昇する。
一時的ではあるが場合によっては、結界内における強化の効果さえ上回ることが可能だ。
そして今回、ライトは≪詠唱≫の言の葉、その一切を省略しない。
下方に向け、指先に魔力を集中させる。
「赫の星は単体用だけど、こっちは全方位の範囲攻撃……」
──「彗星の使徒・蒼き恒星・破滅の均衡」──
正真正銘、全身全霊の……。
『光粒子 蒼の星・リゲル!!』
彗星の如く放たれたその一撃は、その場の全てを焼き尽くし、辺り一面を荒野と化した。
結界の魔力防壁が軋むほどの魔力圧。神童が制限を解除したが故の一撃。
小型から大型までを含む魔獣、計二十一体をおよそ一分で殲滅。
──ライトは結界内Iブロックにおいて、最早に<500pt>を獲得した。
※CHANGE
(────ヒュオオオオ!!)
一方その頃ゼロは、というと……。
ウィットの渾身の一撃により吹き飛ばされ、宙を舞っている最中であった。
だが同じような状況はラビとの修業で幾度となく経験済みだ。
そのためたとえ上空であろうと、ゼロには物事を考える余裕があった。
「いやー! 勝てなかったな! まさか≪貫通剣≫が押し敗けるとは……。そう言えばライトが言ってたな、風使いの魔術師はわりと手強いって。次闘ったら、勝てっかな……?」
そんな事を呟いていると、まもなく地上に落下した。
(あいたた……)
場所は結界内Aブロック。
当てもなく重い腰を上げ立ち上がると、そこには見覚えのある人影が……。
先日、偶然出会った王族の少女の付き添い人。
白のローブをはためかせ、腕には王家の紋章が刻まれた金の腕章が見て取れる。
荘厳な剣を腰に携え、その人物はゼロの前に立ちはだかった。
「お前は確か、あの時の……」
「来たな、ゼロ=ノーベル……」
読んで下さりありがとうございました!!
最近字数が少ないですが、物語の時系列の関係で仕方なくそうなっております。申し訳ないです!
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── 本話のおまけ キャラクター紹介 Part 4 ──
⑧マリーちゃん:トウカの専属秘書であり、いつも忙しい彼のために学校関連の事務処理のほとんどをこなしているしっかり者。だがその外見は幼い少女であり、それが彼女の魔術によるものなのか、それとも単にトウカの趣味なのか詳しいことは分からない。あと甘いもの大好き。
⑨ラビ:ユダヤ教において師または聖職者を示す名を持ち、王都最強の魔術師と謳われている。そんな彼は郊外でゼロと出会い、そのまま修業に付き合うことに。トウカとも面識があるようだが、果たして彼は何者なのか?
※固有魔術:?