一章 第十四話 第二ステージ(3)
本編でも書きましたが、第二ステージもいよいよ終盤です!!
この結末を、そしてこれからの結末も、全力で駆け抜けていきますので応援よろしくお願いします!!
「ああ、これで終いだ……」
そうウィットに言い放つと、ゼロは剣を前方に構えた。
結界内Bブロック。手に汗握る白熱の攻防は、まもなく決着を迎えようとしてしていた。
(よい。実によいぞ、二人共!! 高き志を持つ若き才能のぶつかり合い。……さあ、私に魅せてくれ!! 諸君らの青き終着点を!!)
……一体、監督官の役目はどうしたのだろうか。
武隠士はその任をそっちのけで二人の闘いを見守っていた。
「おい、アザラシ!」
「なんだション!?」
「先に二人の所へ向かってくれ。本当にライトがやられたのなら、リンが危ない。お前がいるだけでも違うはずだ」
「だけど、君は……」
「コイツに勝ったらすぐに行く! 頼む……(ニッ!!)」
無邪気な笑顔で≪ルーニション≫を見送り、ゼロは再度前を向いた。
気を緩めれば負ける。今相対しているのはそれほどの相手だ。
初任務の時以来の緊張がゼロに走る。額の雫が頬を伝い、地に滴り落ちた。
「談笑は終わったかい? それじゃあ、僕ちゃんもそろそろいかせてもらうよ!!」
「ああ、待たせたな。……行くぜ!!」
観戦中の生徒たちも同様、その一戦に釘付けとなっていた。
二人の闘いは熾烈を極め、もはやそれは生徒のレベルに留まることを知らない。
その頃Bブロック内では、大気中の魔力濃度が急速的に跳ね上がっていた。
蒼碧の織りなす魔力の層が満ち溢れ、まもなく交わろうとしている。
此処に至るは両者のみ。ならばもう……、遠慮は無用だ。
──この一撃にありったけを……!!
『『出力最大……』』
『百二十パーセント 貫通剣!!!!』
『烈拳・風塵!!!!』
(ドオオオオオオ────ン!!!!)
※CHANGE
── 数十分前 結界内Fブロック ──
アルジュナートが去ってからも、ライトに未だ目を覚ます気配はなかった。加えて酷く魘されている。
リンは思慮を重ねていた。このまま一人でもポイントを稼ぎに行くべきか。
いやそれは違う、自分はこの競技で敗退しなければならないのだ。……母様の言伝通りに。
それに、彼が動けない以上、むやみにこの場を離れる訳にはいかない。
一体自分はどうすれば……。気づけば自問自答を繰り返している。
──だがその時、背後から聞き覚えのある狂声が上がった。
(ヴヴオオアア──!!)
「……なんで!? さっき倒したはずじゃ……」
倒壊した建物の影から現れたのは、先程とは別の個体の≪ミノタウロス≫だった。
仲間の死を嗅ぎ付け、この場所におびき寄せられたのだろう。
反撃の猶予はもはや残されていない。
今の自分にできるのは、その振り下ろされた鉄槌をただ見つめることだけだった。
……ああ、きっとこれは報いなのだ。天の配剤とはこの事を言うのだろう。
仲間が傷ついても何も行動に起こさず、ただ傍観していただけの臆病な自分。
家の方針に背いて、母様の憤りを買った未熟な自分。
何事も一人では決められない優柔不断な自分。
これは、そんな私への報いであり、戒めだ。
でも、もういいか……。
疑念を募らせるのはもううんざりなのだ。
ならば、いっその事、ここで……。
『……炎粒子 不知火!!』
燃え盛る火柱が≪ミノタウロス≫の心核を貫いた。
黒のローブと手首に巻いた赤の帯が、風に揺られなびいている。
紅蓮の髪を逆立てながら、その場に背を向け立っているのは……。
「女の涙の音には敏感なんもんでなあ。……大丈夫か、リン? 助けに来たぜ!!」
「……バルド!? アンタ、なんで……」
※CHANGE
≪西貴族街≫のバーナード家、≪東貴族街≫のフレミア家。
両者は代々犬猿の仲にある。それぞれが貴族街を代表する名家だからだ。
……そして私は、そんなフレミア家のご令嬢として生を受けた。
西部と東部では、あらゆる事象が異なっている。
西部では、地方から来た上流階級の者や商人に対して、基本大らかな態度を示している。
不易流行、徳量寛大。
良い品、目新しい品物は積極的に取り入れる、それが西部の習わしだそうだ。
そのため人口は南部の市民街に次いで多く、街は活気に溢れているらしい。
一方比較的寛容な西部に比べ、東部には純血主義を掲げた排他的思想の持主が多い。
頑固一徹、唯我独尊。
卑賎の者は愚か、非術師には目もくれない。東部では、魔術師以外の人間に価値はないのだ。
物々しい雰囲気の街並みがそれを物語っている。
だが人口は少ないものの、優秀な魔術師が数多く輩出されていることもまた事実である。
この通り東部と西部では何もかもが食い違っている。
だがそれでも、年に一度は必ず顔を合わせる機会がある。
その舞台となるのが、西部と東部の代表者両名が主催する舞踏会だ。
当然、各貴族街の代表として私とバルドも幼少期から出席していた。
上流階級における社交辞令というやつである。
無論、私から相手方に話しかけたことなどない。
何を言われるか分からないし、西部にも東部を嫌う過激派は多くいるからだ。
……だがアイツは、軽々しく私に話しかけてきた。
無鉄砲で、恥知らずで、己の立場もまともに理解していない。
私が避けようとしてもついて来るので、余程の愚か者なのかと思った。
──そして、いつも笑っている。
──何で……?
──ああ、そうか……。彼も緊張していたのだ。
それはそうだ。知らない大人が大勢いるあの空間で、身震いしない方がおかしい。
足元を見れば分かる。震えていた。今はそんな事はないだろうが、幼い頃はそうだった。
でも今思えば、そんな彼に私は励まされていたのかもしれない。
知らず知らずのうちに、私の閉じた心を緩和させてくれていたのかもしれない。
実際、彼に対して好きとか嫌いとかそんな感情は持ち合わせていない。
一年に一度、家の都合で顔を合わせるだけの、ただの腐れ縁なのだから……。
※CHANGE
「なんで助けたのよ……。アンタとまともに顔を合わせるのなんて年一くらいのものじゃない……」
「理由なんて必要か? 幼馴染を助けるのに。……それにお前、なにやら様子がおかしかったからな。何かあったのか?」
「仲間が負傷して……、あとは別に、何も……」
「……そうか」
喉の奥に突っかかるような何かがあることを、バルド本人は理解していた。
だが、他人の事情に不用意に首を突っ込むのは野暮というもの……。
今は次善を尽くすべきだ。
「……にしても酷い傷だな、こりゃ。おい、ヘイン、回復薬余ってたろ? 飲ましてやってくれ」
「貴方の頼みなら仕方ありませんね……」
そう言って、仲間の一人がライトの口に回復用のポーションを含ませた。
顔の傷が少しずつ癒えてゆくのが分かる。
一方バルドは、道端に落ちていた剣を拾って戻って来た。
「アンタ、敵に塩を送るつもり!? 一応言っとくけど私たち敵同士なのよ!?」
「今はそんな事言ってる暇ねーだろ。……傷ついた奴がいれば助けてやる。西とか東とか、平民だからとか……、そんなのは全部、俺にとっては二の次なんだよ!!」
(ガッシャ──ン!!)
リンの押し問答に答えながら、バルドはライトに繋がれていた四本の楔を叩き斬った。
拘束が解かれると、全身の力が抜け落ちたようにライトはその場に横たわった。
と、次の瞬間……。
(──ブウウウウン!!)
先刻も見た光の柱がバルドたち一行に降り注いだ。
「それにな……、お前は敵に塩を送るとか言ってたが、この魔獣を倒した時点で、俺たちのポイントはすでに上限に達してんだ。だから別に助けた訳じゃねえ、……ただの好みってやつだ。お前のお望み通り、次はちゃんと敵同士だぜ……」
「……言っとくけど、礼は言わないから! アンタに助けられたなんて知れたら、それこそ厚顔無恥だもの」
「へいへい、別に構いやせんよ。……でもなリン、俺はお前とも戦いたい! そん時は西とか東とか関係なしだ! だから精々上がってこい。気張れよ、こっから!! (グッ!!)」
親指を立てながら、相変わらずの憎たらしい笑顔を撒いてバルドは光の中に消えていった。
(そーゆう所が嫌いなのよ……。全く……)
面倒なのがいなくなって清々した気分だ。彼との対話は疲れるのだ、いろんな意味で……。
そうは思いながらも、リンの口元は緩んでいた。
今までの窮屈な心持ちは、いつの間にか錠が外れるように解けている。
何故かは敢えて言わないでおこう……。
……大丈夫、まだこれからだ。
澄んだ瞳を取り戻し、少女は前を向き立ち上がった。
読んでいただきありがとうございました。
いつも読んで下さる読者の皆様のおかげで、創作活動が続けられています!
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── 本話のおまけ キャラクター紹介 Part 3 ──
⑥リン=フレミア:東貴族街を代表する名家であるフレミア家のご令嬢。また、ライトと同様ゼロのパーティーメンバーの一人でもある。家柄も相まって、魔術の才はライト同様ピカイチだ。非常にツンケンした性格をしており、平民には容赦のない態度を取っている。しかし色恋沙汰などにはめっぽう弱いようで、羞恥心が現れる場面では顔をすぐに赤らめてしまう超がつくほどのツンデレ。……かわいい。
※固有魔術:水魔術
⑦ミア=ロゼリア:西貴族街の出身で、ゼロのパーティーの担当教師。貴族でありながら、泥仕事も厭わない非常に真面目な性格をしているが、基本ニコチンを摂取している。ちなみに生徒たちが禁煙を勧めた所、ものすごい勢いで睨まれたらしい。魔術学校の教員って大変なのね、いろいろと……。酒癖なんかも悪そうだなあ……。
※固有魔術:土魔術