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ユリア・ジークリンデ (2) ―星の聲 薄明の瞳―  作者: 水城ともえ
第一章 凶星
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第二節 不吉な流れ星 ①

 その後、ユリアたちは屋敷に戻った。

 屋敷に到着すると、ダグラスはアヴァル国の警察機関から貰っていた森の位置と黒い霧の発生場所を確認した。黒い霧が発生している森は、交通機関を使うよりも、車やバイクに頼ったほうが行きやすい場所だった。車とバイクは、両方ともアヴァル国から支給されているが、今回は小回りの利くバイクを使うことにした。ユリアがさりげなくバイクで行きたいことを主張し続けたという理由もあるが。

 翌朝、ユリアたちは地図の場所に向かった。広い平原に舗装された長くて広い道路には、八台の光沢を放つ暗い色味をした銀色のバイクが走っている。八台のバイクはすべて大型であり、デザインも同一のものだ。力強さと洗練された意匠を兼ね備えたスタイリッシュなもので、重厚感と品格がある。何台ものバイクが走っているとツーリングをしているように見えるが、厳しいデザインのバイクが八台も走っているため、雰囲気はどことなく鬼気迫る雰囲気を醸し出していた。


「姫さーん、かっ飛ばさんでくれー」


「え……? かっ飛ばしてますか?」


 しかし、そんなバイクの見た目とは裏腹に、運転手はそんな感じではなかった。車体と同じくスタイリッシュなデザインであるヘルメットの内側に内蔵されている無線では、ユリアとダグラスの気の抜けた声が飛び交った。


「ウチらと結構離れとるで」


「えっ」


 アシュリーの指摘に驚いたユリアは、ちらりと後ろを振り向いた。仲間が乗るバイクが小さく見える。どうやら無意識に猛スピードで飛ばしていたようだ。すると、無線から「あーあーあー!」と、数名の男女が同時に焦る声が響き渡っ。


「ど、どうしたの? 焦った声を出して」


「後ろ向くなって! 危ねぇから」


 注意の言葉を投げてきたのはクレイグだった。バイクの腕前を信用されていないように感じたユリアは、少しむくれた声色で返事をする。


「気をつけてるわよ。けれど、どうしてそんなにも離れているの……?」


「ユリアよ。制限速度を守れ」


 珍しくアイオーンがユリアに対して呆れ口調になっている。

 制限速度を守れ? そんなことは──と、ユリアはバイクの速度メーターに目をやった。メーターの針は、高速道路でのみ許される速度を指している。その事実に、危うく心臓と目玉が飛び出しそうになった。


「あ、あら……?」


「風を切るのが好きなのはわかるが、夢中になりすぎだ。安全運転を心掛けなさい。他に車やバイクが走っていなくともね」


「……」


 テオドルスの注意の仕方は、完全に子どもに叱る親のようであった。ユリアは、子どもじゃないのにと言いたげな顔をしながら、速度を落として仲間の近くに寄っていく。その時に、思わず不満が隠せなかった唸り声を小さく漏らしてしまう。


「不満そうに唸るな」


 ラウレンティウスが呆れている。無線に拾われたようだ。


「唸ってないわよ」


 そう否定したが、ユリアにとっては珍しく拗ねているのが丸分かりな口調だった。


「拗ねよった」


 らしくないユリアの雰囲気に、アシュリーが面白そうに零す。が、ユリアは無視した。すると、そんな彼女の対応に対してダグラスが不思議そうに呟く。


「なんつーか……。姫さん、ヴァルブルクの一件から、ちょいと子どもっぽいワガママをはっきり見せるようになった気がするな。あんま欲を我慢しなくなったってかんじで」


「おそらく、テオドルスが傍にいるゆえに無意識にそう振る舞ってしまうのだろう。昔のユリアは、テオドルスにのみ己の素顔を見せることができたゆえ。それが無意識に出ているのやもしれぬ」


 アイオーンに指摘され、ユリアは思わず無言で驚いた。たしかに、昔はそうだったかもしれない。が、今でもテオドルスがいるかいないかでそんな違いを出していたつもりはユリアにはなかった。


「ユリアちゃんは、昔からすごく頑張り屋で真面目だからね。危なすぎるのはダメだけど、ちょっとくらい羽目を外してもいいとは思うよ」


 イヴェットがフォローを入れると、ふとテオドルスはユリアについて語り始めた。


「まあ……確かに、アイオーンと仲良くなるまでは、この子がワガママを言えるのは、私くらいしかいなかったかな……。他の人には、甘えづらかったみたいでね。戦争を終わらせてくれる戦乙女だと予言されて、そのように期待を寄せられていたから、情けないと思われる一面は見せたくなかったんだろうけど」


 たしかにそうだけど、とユリアは思う。

 しかし、自分のことを推察されたり、話題にされるのはなんだか落ち着かない。恥ずかしさが込み上げてきたせいか、なんとなく顔が熱い気がする。


「いろんな意味で、テオさんが一番甘えやすかったんだと思いますよ。──ユリアちゃんにとったら、テオさんってお兄ちゃんみたいな感じじゃない?」


「えっ……。まあ……そうかもしれなくもないかもしれないわね……」


「どっちやねん」


 恥ずかしさゆえに濁せるだけ濁した返事をすると、アシュリーが笑いながらツッコミを入れた。身内であるみんなの前とはいえ、テオドルスを兄のようだとはっきり言うことに、今更ながら恥ずかしい気持ちになってしまった。先ほどから、別の内容で恥ずかしさを抱いているせいだろうか。ふたりきりなら素直に言えるのだが──。


「あ。姫さん、ちょっと照れてるな?」


 ダグラスも茶々を入れる。


「いや、そんな……」


「テオ兄ちゃんのこと大好きやろ」


「テ、テオは……私の恩人だもの。もちろん好きよ」


 アシュリーからの追撃に、さらに恥ずかしそうにしていると、ついにテオドルスからサラリと特大の爆撃が落とされてしまった。


「何を今さら照れているんだい? 国王様と王妃様のお墓を作りに行った日に、君は『テオは兄さんみたいな存在だわ。愛しているわ』ってはっきりと言ってくれただろう?」


「テオォォォォォッ!!?」


 無線から響くユリアの悲鳴は、仲間たちの耳を猛攻した。羞恥心のあまりに慌てふためくユリアは、器用にバイクを操作して手を伸ばせば身体が届く範囲までテオドルスのバイクに近づき、並走しながら彼の身体をバシバシと片手の手のひらで殴っていく。


「なんなのあなた! なんなの!? 本当になんなの!? たしかに言ったけどそれはふたりだけだったから言えたのよ!? 堂々とみんなの前で言う!?」


「可愛い妹からの愛の告白を自慢できそうな機会がやってきてしまったからね。仕方ない。だって、自慢しないと損だろう?」


 テオドルスは、微笑みながら胸を張る。しかし、とうとうユリアの顔から火が出てしまった。


「知らないわよ前言撤回よ! あなたなんか最低最悪だわ!」


「とか言いつつ、嫌いになんてなれないくせに」


「もう知らない!!」


 叩くのを止めると、ユリアは彼を視界に入れないようバイクの速度を上げてテオドルスから離れていった。


「──急にイチャイチャしだしたな 」


 クレイグは、ニヤけた顔で近くを走るラウレンティウスを見た。だが、彼は我関せずといったふうに無視を決め込んでいる。


「……もう止めろ。うるさい」


 そして、明らかに呆れではなく不機嫌な声色でぼそっと言葉を紡いだ。そして、その言葉に反応したのは、意外にもアイオーンだった。


「ラウレンティウスよ。あれは、ふたりにとっては普通のやり取りだ。『そういった感情』は皆無ゆえ、拗ねる必要はない」


「べ、別に拗ねていない!」


 アイオーンは、ユリアとテオドルスとは長い付き合いであるため、ふたりの仲の良いやり取りを見ても嫉妬はしていなかった。だが、これが他の誰かだと、アイオーンも彼と同じく嫉妬の目を向けていたことだろう。


「過激派ガチ勢のアイオーンの次は、兄バカのテオドルスか〜……。ユリア……アンタって罪な女やなぁ……」


「罪な女って……」


 アシュリーが意味深に含んだ言い回しをし、ユリアは度重なる羞恥心でそれしか言えなかった。

 事態はまだまだ収まらない。次にテオドルスから放たれた言葉は、ユリアすら知らなかったことだった。


「──実はね、その『罪』は血筋からくるものの可能性が高いんだ。なんでもヴァルブルク家の血筋の人は、『星霊たらし』かつ『人間たらし』の人が多くて、ちょこちょこ星霊同士か人間同士、あるいは星霊と人間との修羅場が発生していたらしい」


「何ですかそれ!?」


「キタわコレ。なんかオモロそうな話!」


「ちょっと詳しく頼む」


「えっ? なんだなんだ? ヴァルブルク家って、もしかして人間と星霊を魅了していく無自覚小悪魔たらし系一族だったりすんの?」


 イヴェット、アシュリー、クレイグ、ダグラスが順に喜々として反応していく。相変わらず面白そうな話題にはすぐさま飛びつく身内たちに、ユリアはガクッと肩を落とした。


「……無自覚小悪魔たらし系一族って何ですか……」


 くわえて、ダグラスの口から自身の一族をそんなふうに称されるとは思わず、さらに元気を無くす。


「案外、そういう系かもしれませんね。ユリアのお母様である王妃様は、国王様との結婚前に、国王様命な星霊と決闘したみたいですし」


 さすがに予想が斜め上をいくエピソードが飛び出し、アイオーンとラウレンティウスも好奇心がうずいたのかテオドルスへと目線を向ける。


「何をしているの!? 父上は止めなかったの!?」


 まさか実の両親にこんなハチャメチャなエピソードがあるとは思わなかったユリアは、話題に勢いよく飛びついた。


「王妃様とその星霊の勢いと熱意が凄すぎたようでね。間に入ることができなかったとおっしゃっていたよ」


「不信派には立ち向かえるくせに何やっているのよ!?」


 キレのあるツッコミに、ユリア以外の全員が吹きかけた。


「まあまあ。ちなみに、決闘は王妃様が勝って、その星霊と王妃様は好敵手(とも)となったらしいよ」


「……マジで何してんの……?」


 母の意外過ぎるエピソードを聞いて呆気にとられたユリアは、口調を盛大に乱れさせてしまった。

 こうして、ヒルデブラント王国軍極秘部隊の特務チームによるゆるゆるでぐだぐだな移動時間は、目的地に着くまで続くのだった。

テオドルスとダグラスもメインキャラとなったことだし、わちゃわちゃしたギャグ回が出来るなと思った結果生まれた話です。

ユリアがテオドルスに振り回されっぱなしですが、きっとテオドルスが側近だったころから振り回されてばかりだったと思います。でも、ユリアにとってはそれが救いでした。

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