表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/73

第一節 遠雷が招く光芒 ⑤

「……ユリアの本音を聞いていて、改めてあいつの心の底にある『呪い』は根深いものなんだと実感した。……想い続けることは、あいつの心の負担になりかねない」


 その言葉に、アイオーンは頷く。


「ああ。だというのに、わたしはユリアの優しさに甘えすぎていた。ゆえに、わたしも変わらねばとは思うのだが……具体的に何をすべきなのか、まだ見つけられていない……」


「どうすればいいのかは、俺もまだよくわからん。だが……だからといって、ひとりで思い悩むのは違うと思うぞ。思考が悪い方向にしかいかない気がする──。そうなる前に、誰かと無心に打ち合うか鍛錬をするなりして、気を紛らわせたほうがいい」


「……きみは本当に脳筋なのだな」


「……なんだその目は……」


 呆れと、ある種の安心、そして微笑ましく思うような、そんな目だった。なんとなく馬鹿にされていると感じたのか、ラウレンティウスはジト目を向けてため息をつく。


「無心に身体を動かすことは、意外とすっきりするものだぞ。なんなら、試しに武器だけの打ち合いでもしてみるか?」


「そういうものなのか……? では、せっかくの誘いだ。わたしも剣を持ち、それで打ち合うとしよう」


「剣? 剣術ができたのか?」


「人間への興味が湧きはじめた頃に、一時期テオドルスから教わっていた。わたしの現在の戦闘スタイルは、その時に得た剣術の技能を転用したものだ。物を持って戦うことが煩わしかったゆえ、手を刃に変えているがな」


 まだ大気中に魔力が潤沢にあった時代では、武器などは一切使わず、魔術のみで戦っていたと昔に聞いたことがあった。なので、得物を持って戦うということがなかったために煩わしいと感じていたのだろう。


「そうか。アイオーンが剣術を──」


 心なしかラウレンティウスが浮ついている。稽古好きな性格だから、打ち合うことが楽しみなのだろう。

 アイオーンは、魔術に関することはラウレンティウスたちに教授していたが、武器の扱い方や戦い方に関してはほとんど関与していない。魔術を主体とする戦い方をしていたからというのもあるが、そもそも星霊と人間は身体のつくりが違う。なので人間であるユリアに任せていたのだ。


「あまり期待してくれるな。武器が主体となる戦いは、そこまで経験がない。扱い方など、もはや我流だ」


「ああ。わかってる。──ところで、アイオーン。まだ、抱え込んでいることは言えそうにはないのか……?」


 任務初日から、何かを考えては焦る態度をし、さらにひとりきりになろうとしていた。気になっていたラウレンティウスは、そのことを問う。

 すると、アイオーンは空を見上げた。まだ遠くで雷は鳴っているが、雲はもう薄くなっており、その切れ間から星がひとつだけ見えている。


「──聖杯が人に害を与え、巡り巡ってこのような騒動に発展してしまったのは……私が、『あの時』の選択を誤ってしまったがゆえ……ではないかと、思っている……」


「……少なくとも、聖杯と関係があるんだな」


「ああ……。ヴァルブルク王国ができるよりも、さらに古い時代のことだ。しかし、わたしにも聖杯について判らぬことがある。それを調べねば、何をすべきかも判断できぬのだ……。しかし、まずは、わたしと聖杯についてのことを皆に伝えることが先か……」


 今のあんたじゃ、あの子を幸せになんかできないよ。

 あんたは、愛が欲しくてに甘い言葉を吐く甘えん坊のようなガキんちょに見えるね。

 サンジェルマンからの指摘は、アイオーンに助言をするためではない。事実を突き付けて、他者の怒りに歪む顔を見たかっただけにすぎない。それでも、それがきっかけとなった。その言葉で至らない己を変えるべきだと思ったのだ。


「……そろそろ帰るとしよう。長く留まれば、皆が案ずる」


「……いや、待ってくれ。このままふたりで帰れば、ユリアに言った言い訳といまいち噛み合わない……」


「我々が無事に戻れば、言い訳の矛盾など誰も気にせぬだろう」


「いざ聞かれたらなんて答えるんだ。ユリアのことで軽くバチッて、そのあといろいろ個人的な話をしたことなんか言いたくないぞ。俺は」


「面倒──いや、繊細なのだな。きみは」


「繊細で悪かったな……! それでも俺は言いたくないからな……!」


 駄々をこね続けるラウレンティウスに、アイオーンは小さく肩を落とす。


「ふむ……仕方のないものだ……。ちなみに、何を言い訳にしたのだ」


「アイオーンに買い物を頼まれたと言っておいたが……」


「そうか。ならばスーパーに()き、朝食となるものを買ってゆくぞ。明日の朝食がどれほど多かろうと、ユリアが食べるはずだ。──ということで、きみにも荷物を持ってもらう」


「念のため聞いておくが、『軽い買い物』だよな……?」


「何を言っている。此度の買い物は、ユリアときみの『散々なパーティー』に対する慰労という名目で向かったことにするつもりだ。そのほうが怪しまれることはなかろう。よって、ユリアが満足するほどには食材や菓子パンなどを買い込むぞ」


「は?」


 ユリアが満足するくらいとは、どのくらいだ。すでに宅配サービスにて購入している分もある。訳が分からない。これ以上、何を買うつもりだ。彼の「は?」には、そんな心の声が内包されていた。


「案ずるな。先ほど確認したレーダーによれば、雨雲はこちらには来ない。雷もいずれ聞こえなくなるゆえ、持ち運びが面倒な事態になることはない。そら、()くぞ」


「気にしているのはそこじゃない! ──おいコラ待て!」


 やがて、屋敷に戻ってきたふたりの両手には、たくさんの食料が詰まった袋があった。ユリアは大層喜んでいたが、ラウレンティウスはパーティーの疲労に加えて買い物でも疲労したため、酷くげっそりとした顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ