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ユリア・ジークリンデ (2) ―星の聲 薄明の瞳―  作者: 水城ともえ
第一章 凶星
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第六節 パーティーの裏側で ④

「……今のあんたじゃ、あの子を幸せになんかできないよ。〈予言の子〉の記憶を見るかぎり、あんたは、愛が欲しくて甘い言葉を吐く甘えん坊のようなガキんちょに見えるね。悲しませたくなけりゃ、あの人間の男に譲りな。〈予言の子〉は、あの男に人としての憧れを抱いているようだしさ。……あんたは、ただの相棒止まりなようだけど」


「……」


 アイオーンの目が、激しく怒りに燃える。拳を握りしめ、その手に殺気立った魔力をまとわせる。


「その目……いいねぇ。さっきより、もっとキレイになった。見た目麗しいから、余計に美しいよ」


 まるで目を奪われるほどの美術品を見るかのように、サンジェルマンは恍惚とした顔でアイオーンを凝視した。


「言わなくとも判るよ。──あんた、負の感情のスパイラルに陥っているだろう? 足掻けども抜けられず、想いを募らせて身勝手で甘ったるい言葉を与えつづけども、最後は誰かに先を越されて想い人は届かない場所に行ってしまう……。そんな報われない恋になりそうだねぇ……。──ああ、その不幸さにゾクゾクしちまうよ……! ただでさえ、あんたは何千年も孤独だったというのにさ!」


 アイオーンは目を見開き、絶句する。

 自身の心情を見抜かれ、恐れている未来を口にされ、さらに敵はそれを娯楽のように楽しむ──。アイオーンは、拳をさらに強く握りしめていく。しかし、その激情をゆっくりと解いていった。


「──去れ」


 恍惚としていたサンジェルマンだったが、アイオーンの無関心な声を聞いて残念そうに肩を落とした。


「……はいはい、そうするよ。目的だった挨拶は済んだことだし、面白いものを見させてもらったからね。──では、ご機嫌よう」


 サンジェルマンは、大気中から魔力を作り出し、さらに体内で生み出した魔力も指先から溢れ出させた。やがて、サンジェルマンが入れるくらいの縦に長い楕円形の歪みを生じさせる。サンジェルマンはそこに入ると、歪みは一瞬にして閉じた。

 アイオーンは深く息を吐き、しばらく天を仰いだ。そして、踵を返し、屋上から地上を見る。たくさんの洒落た造形をした街灯が、宴会場の庭から門までを明るく照らしている。

 目線を動かしていると、宴会場の門付近にふたりの人の姿があった。男と女。あの後ろ姿は、ユリアとラウレンティウスだ。見慣れた姿だったため、すぐに判った。

 ユリアは、編み込んで結い上げていた髪を下ろし、私服に着替えている。手に持つ手提げ袋にドレスを入れているのだろう。ラウレンティウスは借り物のスーツのままだ。

 どうやら、今から帰るところらしい。それにしても、何かいつもと様子がおかしい気がする。ユリアがラウレンティウスに距離をとっているように見える。どこか遠慮がちだ。

 ふたりが守衛のいる門を通り、去っていく。

 アイオーンは、ふたりの後ろ姿をじっと見つめると、気配遮断と目くらましの術を発動させて姿を消した。



◆◆◆



 ユリアとラウレンティウスは、バスの中にいた。次の次で屋敷に近い停留所に着く。

 宴会場を後にしてから、ふたりは一言も喋っていない。だからといって、無言でいることが気まずく感じるような間柄ではない。一緒にいても、何も喋らないときはある。今回はそれとは少し違うが、屋敷に戻ればまた普通に接してくれるだろう。

 だから、早く着いてほしい。

 次の停留所を案内する自動音声が流れた。その停留所を過ぎれば、次で降りる。

 なのに、予想外なことが起こった。ラウレンティウスが停車ボタンを押したのだ。


「ラ、ラルス。違うわ。もうひとつ先よ」


「……話がある。次で降りたい」


 心臓が飛び出そうなほどに激しく鼓動した。

 おそらく、あの話だ。

 どうすればいい。選べないのに。まだ決められていないのに。もしかして、あえてタクシーを呼ばなかったのは、話す場を作るためだったのだろうか。

 ユリアの頭の中が、また真っ白になってしまった。

 停留所に降り立ち、そこからふたりはしばらく歩いた。ふたりの間には静寂が漂っている。

 歩き始めてどのくらの時間が経ったのだろう。いつの間にか、ふたりは屋敷がある区域に続く橋の上にいた。橋の下には大きな川が悠々と流れ、橋の街灯が淡く道を照らしている。車が通っていないどころか人もいない。旧貴族街に住まいがある人や用事がある人の数などかなり限られているからだ。

 ユリアの前を歩いていたラウレンティウスが足を止めた。振り返り、ユリアと向き合う。


「誰にも聞かれたくないから、ここで言いたい。……本当は、もっと雰囲気の良い場所を選ぶべきなんだろうけどな……」


 また、『あの雰囲気』をまとう。

 ユリアはたじろぎながら目を逸らした。


「な……何を……」


「とぼけるなよ……。少し前くらいから、お前だって気付いてるんだろう……? 俺の気持ちに……」


 何かを(こいねが)い、溢れる気持ちを抑えた声。そして、緊張と期待と、恐怖。

 どうして気付いているとわかったのだ。意識しないようにして、顔には出ていなかったはずなのに。

 真っ直ぐ彼を見るべきなのに、見れない。

 顔が、熱い。


「……お前が、俺の気持ちをわかっていても……弟のようにしか見られていなくても──はっきり言葉にして、直接言わないと後悔しそうだと思った。……だから、言わせてもらう」


 ユリアは、驚きのあまり彼を目に映した。彼も顔が赤くなっている。目線が合うと、ラウレンティウスはゆっくりとユリアに一歩近づき、覚悟を決めた目つきに変わる。

 息を吸い、溢れて止まらない想いを言葉に乗せた。


「──俺は、ユリアのことがずっと前から好きだ」

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