第七話
「それで?」
私と彼女こと坂上さんは、二人で同じベッドに横になっていた。
もちろん、色っぽいシチュエーションではない。
「先輩、寝室で話しませんか?」
「何で?」
「寝落ちしてもいいように」
「寝落ちするぐらいなら、もう休んだら?」
「違いますよ。先輩の話が退屈で、寝落ちしたらの話です」
「ああ、そうでしたね」
私は坂上さんを寝室に案内し、ベッドを使うように促したところ、また彼女からクレームが出た。
「何ですか、これは?」
「何もないよ、ただのベッドだけど?」
「おかしくないですか?」
「どこが?」
すまんけど、睨む前に説明してよ。何がおかしいか、本当に分からないんだから。
「だって、ダブルベッドなのに、お布団があんなに小さい。変ですよ」
「変じゃないよ。ひとりで寝てるんだから」
「だったら、ベッドを小さいのにすればいいじゃないですか?」
「面倒だよ」
「お布団は、面倒じゃないんですか?」
「大きい布団はさ、干したりクリーニングするのに手間がかかるじゃん。小さいほうが、運びやすいし」
「ああ、そうですか」
「はい、そうなんです」
「分かりました。それで手を打ちます」
だから、何で君が妥協する必要があるんだい?
「とにかく、ベッドを使いなさい。私はリビングで休むから」
「はい?」
「いや、だから、ベッドは君に譲るから」
ひとりで寝た方が、きっとよく休めるよ。もちろん、私が。
「お話は、どうする気ですか?」
「え?ここで話をするんだったっけ?」
「先輩、大丈夫ですか?ついさっき、お話したばかりですよ?」
「ああ、そうだったかな。明日じゃ、ダメかい」
「明日は明日で、スケジュールが詰まっています。今日できることは、今日するんです」
「ああ、はいはい」
「先輩?」
「ああ、もう分かったから」
「じゃあ、先輩はそっち、私はこっちです」
もう、好きにして。
こうして私と坂上さんは、二晩続けて添い寝をすることになった。
「それで?」
「え?何が?」
「さっきの続きです」
「なんだったっけ?」
「タネ無しです」
「乙女が、そんなことを言うものじゃないよ」
瞬間、顔を叩かれた。
「いったいなあ。何する?」
「先輩が、私にそう言ったんですよ?」
「ああ、そうだったっけ?」
「そうです」
「とにかく、殴る前に注意してね」
「先輩が悪いんですけど?」
「はいはい、私が悪うござんした」
「先輩?」
「はい、以降気を付けます」
「じゃ、続きをどうぞ」
「何から話せば」
「だから、離婚した理由です」
「ええ?プライバシーだよ」
「先輩、もう一度殴っていいですか?」
「ええっと、今から話します、話させてください」
「最初から、そう言えばいいんです」
「はいはい」
「先輩?」
「もう、勘弁して!」
こうして、夜も更けていく。
まだ、今日は終わらない。
いつ、終わる?