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第十三話

 思うのだが、普通の男ならこういう時って、どうするのだろうか?

 美女と寝台を共にするという、こういったシチュエーションなら、どうするだろうか?


 私と咲良さんは、相変わらず一緒のベッドで休んでいる。

 背中から伝わる彼女の体温は、心地よいのは最初だけで、今は暑苦しい。

 怖いから、言えないけど。

 あのイケメン君だったら、この状況をどうするかな?

「先輩?」

「え?まだ、起きてたの?」

「はい。先輩が変なことをしないので、眠れません」

 うん、変なことをしないのでって、逆だよね?寝ぼけている?

「寝ぼけていません」

 そうだった、彼女はエスパーだった。

「先輩は、私をどう思っていますか?」

「前にも言ったけどさ」

「建前はいいです。本当のところ、どう思っていますか?」

「君こそ、どう思っているの?」

「私ではなく、先輩です」

「カワイイ後輩と、そう思っているよ」

「ひとりの女性としては、どうなんですか?」

「ひとりの女性?もちろん、魅力的な女性と思っているよ」

「だったら、何で一緒に寝ているのに、何もしないんですか?」

「するも何も、私が何かしたら、君はどうする?」

「殴ります」

「ほら」

「殴られてもいい、殺されたっていいって思うほど、欲しいものってないんですか?」

 スマンが、聞き違いかな?

 だいたい、殺されてもいいなんて普通は思わないし、思う奴は気持ち悪いと思うよ。

 でも、欲しいものか。

 ひとりの時間。

 言えないけど。

「唐突だねえ。私には何も無いよ」

「家族が欲しいって、思ったことはないんですか?」

「昔は、あったなあ」

「今は?」

「贅沢だよ、私には」

「意味が分かりませんけど?」

「慰謝料を払い続け、住宅ローンも払い続けた結果が、今の私だ」

「もう、終わったんですよね}

「慰謝料はね。住宅ローンは、まだ少し残っているよ」

「だったら」

「だからだよ。もう、他人の人生に関わろうって、思えないんだよ」

「大げさではありませんか?」

「私の二十代を返せって、今でも夢に出るんだよ」

「関係ありませんよ」

「大ありだよ」

「どうして?」

「だって、好きだから、愛していたからこそ、結婚したんだよ」

「だから、結婚は怖いと?」

「違うな。その人の人生を、間違った方向に向けてしまうのが、私には怖いんだよ」

「結婚に、間違いとかあるんですか?」

「現にあっただろう?」

「タネ無しですか?」

「そう。こればかりは、努力でどうにかなるものでもないし、時間の制約がある」

「思い込みでは?」

「二十代でママになり、早くて四十代でおばあちゃんになる。これが出来なければ、結婚は失敗なんだよ」

 妻にとってはね。

「私には、分かりません」

「君も、もうすぐ分かるよ。今はまだ、若いからね」

「分かりたくもありません」

「まあ、私だって分からないよ。ただ、妻を悲しませた責任は、あると思う」

「勝手に離婚して、勝手に悲しんだだけでは?」

「それを含めての、結婚なんだよ」

「それで、私のことはどう思っているんですか?」

「もう、寝なさい」

「先輩?」

「お願いだから、もう寝なさい」

「・・・・・おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。いい夢を」


 女性が泣いている。

 妻だと思ったけど、咲良さんだった。


「・・・・ぱい、・・・せ・ぱい、せんぱい?」

「ああ、おはよう」

「おはようございます。朝ごはん出来てますから、顔を洗ってきてください」

「ああ、ありがとう」

 何だったんだろう?昨日の夢は。


「時間差をつけて、出勤しよう」

「どうしてですか?」

「噂になったら、君も困るだろう?」

「困ると思うぐらいなら、先輩をお泊めしません」

「多分だけど、噂の怖さを、君は知らないんだろう」

「知ってます。一応、SNS世代ですから」

 知らないんだろうな。

 人の悪意というものを


「あ!咲良ちゃん、おっはよ~!」

 イケメン君は、相変わらず爽やかだけど、私はスルーかい?一応、君の先輩なんだけど。

「おはようございます。昨日はありがとうございました」

「え?何のこと?」

「勝呂先輩のお仕事を、引きついでくれたことです」

「ああ、大丈夫だよ。他の女子社員にお願いしたら、喜んでやってくれたから」

「そうですか」

「ところで、ミシュランの三ツ星レストランの予約が取れそうなんだけど、週末はどうかな?」

「結構です。手伝ってくれた、女子社員を連れて行ってください」

「あいつらとは、身分が違うよ」

「身分?」

「そう、身分。君は総合職、彼女たちは一般職だったり非正規労働者だったりするから」

「それって、倫理規定違反ではありませんか?」

「うん?みんな、そう言っているよ」

「みんなって、誰ですか?」

「ええっと、どうしたの?大丈夫?」

「答えてください。みんなって、誰ですか?」

「どうしたの?らしくないなあ。咲良ちゃん、もしかして怒っている?」

「私を咲良って呼んでいいのは、勝呂先輩だけです」

「そういやあ、今日も勝呂さんと一緒に出勤してきたけど?どうして?」

「私の自由です」

「次からは、僕と一緒に出勤しようよ。今夜は、家に来なよ。母も喜ぶよ」

「嫌です」

「そう言わずにさ。何だったら、咲良ちゃんのご両親に、ご挨拶に行こうか?咲良さんをくださいって」

「私、人を差別する人って、虫唾が走るんです。消えてください」

 驚くほど、冷たい目をイケメン君に向けていた。

 側で見ていた私ですら、すくんでしまった。

 イケメン君は最初は驚き、次いで狼狽し、最後に逆切れをしてしまった。

 おいおい、会社の入口でまずいだろうと思ったけど、どうも止まらなかった。

「おい!人が親切に言ってやっているのに、何を図に乗っていやがる?」

「どっちがですか?」

「女の癖に、生意気なんだよ」

「その女にいきがるのが、あなたの倫理ですか?お里が知れますね?」

「このアマ!いい加減にしろ!」

 イケメン君は咲良さんに、平手打ちをしようとした。

 私は気が付いたら、彼女とイケメン君の間に立ちふさがっていた。

 イケメン君は、驚いた表情をしていた。

 まるで、あんたまだ居たのと。

「え?勝呂さん?」

「いい加減にしなさい」

「だって、このアマが」

「このアマではありません。坂上さんです。それに、どのような理由があろうとも、女性に手を上げるのはどうでしょうか?人として、男として最低ではありませんか?」

「だって、このアマが生意気言うから。勝呂さんだって、聞いていたでしょう?」

「ええ、聞いていましたよ。あなたが、しつこく言い寄るところも」

「このオンナの、味方をするんですか?ああ、そうですよね。このオンナを助けて、気に入ってもらおうって、そんな魂胆ですか?いい年して、ホント最低ですね?だいたい、人に仕事を押し付けておいて、ふたりで仲良く帰る訳だ。いい年して、気持ち悪い」

 やれやれ。この男の頭には、男と女の関係しかないのか?

「でもね、勝呂さんのようなおっさんは、咲良ちゃんみたいな女性の相手になんかされないですよ。俺みたいな、将来有望な男子こそが相応しいって、勝呂さんだって分かっているでしょう?」

 よく分かっているよ、君に言われなくてもね。

「だから?」

「だから、オレと咲良ちゃんとの仲を、邪魔しないでください。最初が、肝腎なんですから」

「君さ、女性をモノと見ているようだけど、女性も意思のあるひとりの人間なんだよ。分かる?」

「そうですよ、だから俺みたいなエリートが、きちんと導いてあげないとダメなんですよ」

「君のそれは、DVって言うんだけど?」

「はい?」

「よっぽど、甘やかされてきたようだね。もう一度、人生をやり直した方がいいよ」

「な、なにを」

「このままだとね、誰からも相手にされなくなるよ。君は若いから、やり直せるうちにやりなおしなさい。まずは、親元から離れることだ」

 何だ、顔が赤くなって来たぞ。もしかして、地雷踏んだか?

「あんた、俺のママを悪く言ったな!」

「言ってないけど?」

「言った。俺のママは、世界で一番優れているママなんだ。それをお前!」

 イケメン君改め、重度のマザコン君は私の胸倉を掴んで、殴りかかってきた。

 私は、そのまま吹っ飛んだ。いえ、そのまま倒れました。体幹鍛えないと。

 そんなことを、考えている場合ではない。

 イケメン君改め重度のマザコン君は、私に馬乗りになって、殴りかかってきた。

 マウントを取られた格好なので、ちょっとやばかった。

 正直、ここまでやるかと思った。上には上が居るモノだと、感心した。

「お前なんてな、ただの老害なんだよ。会社の役立たずなんだ。自覚しろ!今死ね!今すぐ死ね!オレが殺してやる!」

 ああ、まずいなあ。マジで、死ぬかも。

「オレと咲良ちゃんとの仲を邪魔して、いい気になるな!」

 いや、いい気も何もねえ。

 そう思っていたら、重度のマザコン君は抱きかかえられていた。

「離せ!オレを離せ!こいつをぶっころしてやる!八つ裂きにしてやる!」

 重度のマザコン君を抱きかかえていたのは、わが社の警備員と、何と警察官だった。

 彼は暴行の現行犯で、緊急逮捕された。

 通報したのは、咲良さんだった。

「先輩!」

「ああ、無事だった?」

「無事です。先輩こそ、何でそんなに頑張るんですか?」

「さあね。よく分からないや」


 私は、気を失った。


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