第七話 エッチなアンデッドの娼婦はいかが? 前編
今日のお昼は、エビとトマトのピリ辛パスタ。
オリーブオイルにニンニクと唐辛子、香りを付けたら四つ切のトマトを入れる。油と汁が混ざり始めたところにソフトシェルのエビを投入し、程良く炒めてゆで汁を少し。
菜箸で混ぜて乳化させ、パスタを入れて絡めたらお皿。
仕上げの乾燥パセリを二抓みし、触手が乗せて運んでくる。テーブルに置かれていただきますして、真っ先にエビにフォークを刺した。
柔らかだった殻が炒められてパリッ。
口に運んでぱりぱりもぐもぐ、エビってなんでこんなに美味しんだろう?
「おいひぃ~っ」
「おうおう、最近羽振り良いじゃねぇか。エビなんて久しぶりに見たぞ?」
「今日のは環境魔術科からの仕入れだけど、決して安いとは言えないね。その一皿でディナーコースの半額はするよ」
「高過ぎはしねぇけど安くはねぇな…………で、何があった? 一枚噛ませろ」
「この前言ってたでしょ? 『娼館でもやれ』って」
唐辛子の穴にフォークを通し、麺に潜らせ回して一巻き。
辛みは種の方が多いと言っても、実の方も相応に辛さを有する。本来なら残す物だが、僕は唐辛子自体も好きなのだ。試行錯誤を何度も続け、オイルたっぷりの麺と一緒なら舌へのダメージを抑えられるとわかった。
わかってからは、ずっとそうしている。
多分、新しい方法を見つけるまで。
「は? まさか、マジで?」
「うんっ。死霊術科で試作したエッチなアンデッドを体験できる、お試し娼館を始めてみたんだっ。相互協力してる治癒魔術科の知り合いが最初のお客っ。Oカップ超乳アンデッド2体で、おっぱいサンドイッチは最高だったってっ」
「はぁ!? Oぉっ!? Oってマジかっ!? 買い取りいくらだっ!?」
「はいはい、エリン落ち着いて。サラは一応食事中だから」
掴みかかろうとするロリドワーフに触手が巻き、口に入れたトマトの大きさと比較。
小さくはあるが女であり、女性を感じさせるふくらみかけ。
ぺったん好きなら大きすぎると評するが、僕は『嫌いじゃない』と札を付ける。おっぱいは大きさ、形、重み、柔らかさとソムリエが多い。膨らみかけは『形』の分野で上位に位置し、時として大きさを凌駕する雌を醸す。
――――まるで、トマトとミニトマトの違いのようだ。
同じトマトで形は違い、硬さが違ってどっちも美味しい。
「くわっ、しいっ、はなしっ! きかっ、せろっ!」
「落ち着いて、落ち着いて」
「もぐもぐんぐ…………そんなに慌てなくても、アンデッドの超乳加工は難しくないから安心して。好みの死体を持ってきてもらえば、おっぱいもおしりも筋肉の付き方だって指定できるし」
「なんだそれっ、なんだそれっ!? お前一体何を開発したっ!?」
「身体改変魔術。治癒魔術科と共同でね」
僕はフォークを置いて詠唱し、テーブルの上に幻覚魔術を行使する。
塵のような光が集まって、全裸の女性を形作った。身長は157、体型は72と53と69、ショートヘアーで脚と胸部に大きめの斬痕、全体的に筋肉質で傭兵か兵士だったとすぐわかる。
他のテーブルから覗く目が、生唾を飲んだのを確かに聞く。
「仕入れはこんな感じで、アンデッド化してから栄養補充して、体細胞の分裂を偏らせて理想の体型に。髪とか瞳の色は変えられないけど、外見だけなら結構変えられるよ」
「この女美味そうじゃねぇかっ。今どんな感じだよっ?」
「筋肉の付き方は少し強めて、おっぱいは下乳がここまで、垂れは少な目。ボリュームいっぱいでお尻もバランス合わせてるけど大きすぎず。髪の毛はショートからロングにして、服はスラム風の穴あき一枚布」
「いくらだっ? いくらだよっ? 極上の雌にロングソードの斬り傷良いよなっ。脚を斬って倒して心臓一突きかっ。やった相手も相当な使い手だなっ」
「はいはいはいはい、女の子に興奮するか剣士に興奮するかどっちかにしようねっ。にしても、ここまで研究進んでたんだ? 人気出るのも頷ける」
「でも問題はあるんだよ。具体的には身体改変の回数制限」
幻の女体を巨乳、爆乳、超乳に変え、逆に貧乳無乳まで落として再度大きくまた小さく。
3度行き来したら肌が黒く、褐色とも黒肌とも違う黒がぽつぽつ。誰にでもあるほくろが全身至る所にでき、あっという間に増えて真っ黒。そしてぼろぼろ身体が崩れ、骨すら崩れて塵と消える。
非日常の一連を見せられ、店内の興奮は一気に冷めた。
それどころか引きまでして、青ざめ冷や汗ガクガクブルブル。男も女も同じように、一様同じなのはなかなか面白い。性癖の多様性を擁していても、根本の良識は一緒のようだ。
ま、僕も最初はかなりきつかった。