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第六話 エッチなアンデッドは童貞卒業になりますか? 後編

 店外の夜が深くなり、店内の明かりも徐々に絞られる。


 柱のランタンを半分消して、テーブルの上のキャンドルグラスが光揺らめく。昼間のカフェと違って大人の雰囲気がそこかしこに生まれ、食欲の次は睡眠欲かそれとも性欲か。


 鉄板に香るステーキの残り香を肴に、僕はエリンと酒を注ぎ合う。




「アンデッドの突然変異って結構あんのか?」


「割と多いよ。不完全な死霊術式を外的要因が暴走させて、色んな変異を発生させる。意志持ち、同族喰い、異常強化に強姦気質…………レアルも冒険者の仕事で、何かしらのケースに立ち会ってない?」


「細胞分裂の異常強化体に何体か。いくら切っても潰しても再生して、完全丸焦げにしてようやっとだったね」


「それ、身体の一部を締め上げると、末端栄養失調ですぐ枯死するよ。枯死した部位は再生しないから、四肢の後に首絞めれば簡単に始末できる」


「え゛っ? そ、そうなのっ?」




 糸目の青年が驚きを浮かべ、手を口元に冷や汗も頬に。


 大抵のことに動じない彼だが、今回ばかりは珍しい。店内に蔓延る触手が捩り、一瞬精細さを大きく欠いた。超の付く一流冒険者でカフェのマスターで、落ち着きの塊に微笑みを向ける。


 ちょっと勝ち誇りを籠め、隣から力強い拳が上から。


 寸でで避けて感じた風に、殺す気かと非難を視線で示す。




「それわかったの、うちの付与魔術科が『不死殺し』を教えたからだろうがっ。売り上げの邪魔すんなっ」


「原理究明してフィードバックしたでしょっ? 次世代型はかなり売れてるって聞いたよっ? 生体にも効果高いってっ」


「まぁまぁ。今度エリンに一振り依頼するから――――でも、不完全な死霊術式ってそんなに多いものかな? テンプレートのような完成した術式が殆どと思ってたよ」


「完成した術式はあるけど、知ってる術師はほんの一部だからね」




 グラスのワインに果汁を注ぎ、軽くステアしてレモンをぽとんっ。


 酒好きにとって邪道と言えど、それほど強くない肝臓にはこのくらい許して。


 味のわからない者からすれば、ワインはブドウより鉄の味が強い。実際の鉄と同じかはわからないけれど、鉄と表現するのが一番合う。かつて鉛を入れていた連中は、鉄と鉛を混ぜて飲んでうまいうまいって舌壊れてるのか?


 あっ、レモン失敗。


 鉄とレモンって全然合わない。




「術式はあるのに術師は知らない?」


「うん。世界各地で死霊術を研究しているけど、どこも我流で劣化と継承を重ねてる。優越と劣等が邪魔して他流派との交流も無し。自分達の術式の問題点に気付かず、使い続けて突然変異を生んでしまう」


「おいおい、じゃあどこに完成した術式があるんだよ? 学園都市の死霊術科だって失敗多いだろ?」


「エッチなアンデッドに向かないから使ってないだけ。『完成』の類義語って知ってる? 『どん詰まり』って言うんだよ」


「それ以上が無いから『極致』とも言うね。良い意味でも悪い意味でも」


「僕達研究者にとっては悪い意味。そういう点では、不完全な術式による突然変異は可能性の塊かな? ギルドに捕縛依頼出したらやってくれる?」


「滅殺だったら」


「けちっ」




 美味しくないのを飲み干して、キープボトルのザクロ酒を棚から出してもらう。


 ザクロの実は酸っぱいが、大量の砂糖を加えた果実酒にすると甘酸の混合が素晴らしい。甘いだけだとくどく、酸っぱいだけだと一口目で噴く。両方合わさって爽やかに抜けて、薄まったアルコールで冷えた夜が温かい。


 …………ザクロを突然変異とすると、砂糖は僕達かな?


 やっぱり、妊婦アンデッドのその後は調査しようと決める。もしアレが妊娠可能なら、詳しく調べれば現在の理論を補強できるかも。お気に入り持ちの仲間に声をかけて、久々に『狩り』と洒落込もうか。


 ちょっとだけ楽しみ。


 しばらく科を空けないといけないけど。




「悪い顔してんなぁ……」


「良いじゃん。妊娠できるアンデッドって需要あるよ?」


「恋人や配偶者を亡くした人とかね。その分、高額報酬を狙った詐欺が横行する気がするよ。社会的な認知と対策が進むまで、表に出さない方が良いんじゃないかな?」


「きっとあるだろうねぇ……。理論の概要だけ聞いて我流で開発して、中途半端が各地でってのが起きそう。場合によっては、死霊術の一般評価が更に下がるかも……」


「今でも毎年ストップ安だろ。今年は新入り来なかったって聞いたぞ?」


「今年どころか4年来てないって。でも来年か再来年はたくさん来るよ。拗らせた童貞が多分たくさん」


「娼館でもやってろっ、馬鹿っ」




 冗談を言ってグラスを空けて、僕に注げとエリンは催促。


 小麦色の幸露を指2本分注いで、もっとと突き出されボトルを店主に。


 今夜はもう遅いから、コレを最後に帰るとしよう。僕達以外の客は会計を済ませ、たった今最後が出て行った。レアルの負担にならない内に、ほろ酔い加減で締めとする。


 それに、酔い過ぎると襲われる危険があるし。


 記憶のない童貞卒業逆レイプはちょっと……ねぇ……。

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