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第四話 エッチなアンデッドを広める方法 後編

「話の続きだけど、現状のアンデッドマーケットは閉鎖的に過ぎる」




 甘々ミルクコーヒー入りのカップを持ち上げ、1口啜って放してキープ。


 会話で乾く喉を濃密な露で潤し、3度繰り返して十二分に。はちみつ未満の潤いで今日一日くらいは安心だろう。これといった予定はないけれど、未定の備えはした方が良い。


 …………はちみつコーヒーっておいしいのかな?




「でも聞いてる限り、発送前のお手付きで多少長持ちするんだろ? 遠くまで売れるなら良いんじゃねぇか?」


「問題なのは、顧客の保守性が生産側にまで及んでること。この前話した『お手軽な戦力』ばかり求められて、『死霊術はゾンビとスケルトン』って術師すら思ってる。世間からの死体への嫌悪も合わさって強まって、エッチなアンデッドは『でも死体だろ?』ってマイナスから開始」


「コピ・ルアクみたいだね。知ってる人からすれば最高級コーヒー豆。知らない人からすれば猫の糞」


「あぁ、そっか。売りたいのは『エロ』なのに、顧客も同業者も『死体』って面しか見てないのか。『死体売り』からすると『エロ』なんて場違い、マーケットに持ち込むなって嫌悪すら抱く」


「そういうこと。だからこそ、現状だとエッチなアンデッドは僕達の会でしか扱ってない。妊娠しないしスタイル抜群にできるし病気にならない最高の品なのに。安定した販路を確保しないと、このままだと先細りになる」


「それこそ戦争で良いんじゃないかな?」




 埋まってきたテーブルに触手を舞わせ、尚余裕を見せるレアルは明るく微笑む。


 現在進行形で戦い争う人々なら、不謹慎だと断じるだろう。


 だが彼からすれば、親しい知人友人以外は自分達を迫害する敵。有効活用できるなら資源として、相応の扱いを約束する。エッチなアンデッドも同じであり、必要があれば積極的に協力してくれる。


 いわば、発言の基となる価値観が『新しい』。




「物騒なこと言うなよ、マスター」


「そうかな? 妊娠しない。スタイル抜群。病気にならないエッチは戦争需要高いよ? 精神を病んだ兵士からすれば、女なら生死はあまり気にしない。使えてスッキリできれば万事オッケー」


「それ、どこ情報?」


「この前、サラ自身が言ってたでしょ? 『エッチなアンデッドの実験場で、警備と監督がお手付きしてた』って」


「アレの事? うん……? そういえば、一部の兵が女兵士の死体持ち込んで実験材料に提供してくれてたっけ」


「使いたい女体を持ってきてって、兵達に頼めば調達はクリア。アンデッドにして兵か軍に卸し、販売もクリア。終戦してエッチなアンデッド中毒の兵士が帰還して、専用のが欲しいって需要が産まれて万々歳」


「うわ……麻薬並みにえげつねぇ…………」




 酒瓶を抱いて顔を青ざめ、すっかり酔いがさめたエリンは引いた。


 周りの客達も3割同じ。残り7割は『ソレってありだな』の倫理感皆無納得顔。流石同じ穴のムジナ達で、テーブルごとに各々の分野で話を拡げる。


 でも、うん。レアルの言う通りだ。


 エッチなアンデッドの需要が無いのは、誰も彼も知らないから。大勢が知って大勢に広めて、初めて潜在需要と顧客が産まれる。購買欲求を抱く絶対数も増え、徐々に徐々にベッドの上のアンデッドは普及する。


 加えて、僕が温めてきた案も使えるのでは?




「でもよぉ……現場指揮官って大体貴族だろ? 女に困ってない連中が、エロ用アンデッドを許すもんか?」


「おや、知らないのかい? 真っ当な貴族なんて戦争を起こす国にはいないよ。いかに私腹を肥やし、兵の不満を抑えるか。お手軽な性処理方法があれば、多少の横流しで目を瞑ってくれる」


「なぁんか経験があるような言い方だなぁ……聞かない方が良いかよ、レアル?」


「お任せしようかな」


「……ダルマ棺」


『『『『!?』』』』




 店内の前後左右、あらゆる方向と距離から『ガタッ!』の音と集中視線。


 口に出してしまった僕のエッチなアンデッド普及案を、『信じられない!という瞳』と『その手があったか!の瞳』の2種が凝視した。


 数にして前者5割後者5割。果たしてそれはダルマに関してか棺に関してか。1人、また1人と席を立ち、僕達のテーブルに寄って立つ。


 最前列の3人が、強く強くテーブルを叩く。




「おう、足コキ未経験か? 良いタイツあるぞ」


「脚のどこまで残すのかで戦争が起こる。腕はどうでも良いが脚は気を付けろ」


「いくら何でも女性を軽んじすぎですっ! M字開脚後ろ手縛りこそ戦場の女性の極美ですっ!」


「サラッ! 早くそれ作ってくれよっ! 隠して持ち運べるエロアンデッドなんて最高だろっ!」


「研究に投資したら試作品貰えるか? 金貨100枚なら今すぐ出せるぞ」


「テメェら性欲に忠実過ぎだっ! 外歩いてる女共が引いてんぞっ!」




 エリンの大声にハッとなって、開いた窓の外は反射の驚き。


 話の一部か始終か今来たか、反応様々だが女性の大多数は赤面して逃げた。


 男達に見つめられて恥ずかしくなった? エッチな話に恥ずかしくなった? エロ用アンデッドの話で休日の朝から興奮する性欲男共に幻滅しつつレズに走る?


 ちょっと待ってほしい。


 彼らのような性欲権化から、貴女達を守るのがエッチなアンデッドなんですよ。




「いずれにせよ、どうなっていくのか気になるね。進展があったら教えてよ」


「レアルって大物だよね……自分の店でこんなことになってるのに……」


「だって、今更じゃない?」




 空いた皿を触手乱舞で片付け洗い、逃げ帰る客の会計までしながら笑う店主。


 この図太い性根を見習いたいと思いつつ、詰め寄ってきた男共から要望を聞いていく。彼らもまた需要の1つで、多少なりの参考になるだろう。なにせこの魔術学園都市に住まうくらい、知と智と学を修めた者達だ。


 …………試作品の体験発表会、早めようかな?


 味を占めた何人かが、素材提供をしてくれるかも。

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