表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/27

第三話 エッチなアンデッドを広める方法 前編

 昨夜の雨が朝日で香り、煌めく街を見て休日のモーニングコーヒー。


 頭を冷ますために1杯目はブラック。頃合いを見てお代わりする2杯目はミルクと砂糖を3つ。


 バターを塗ったトーストとスクランブルエッグは柔らかく、フォークを入れるとサクッとふわっと。一口目は片方ずつを楽しみ、二口目はトーストに卵を乗せてパクリ。サクふわにバターと塩と胡椒と甘み、4つが舌の舞台で代わる代わる挨拶をして見せた。


 うん。


 こういう優雅な朝食は、1人も良いけど誰か隣にいて欲しい。




「ふわぁぁぁ……おはようさん、サラ、レアル」


「また寝間着で出てきたの? 少しは外面を気にしなよ、エリン」


「いらっしゃい。何にする?」


「ウィスキー。ボトルで」




 着崩した隙間に白下着を曝しながら、当たり前のように相席する寝ぼけ眼のロリドワーフ。


 今日は世間一般の休日なのだが、朝から酒とはさすが酒乱種族。呑んで酔って騒いでヤって、翌朝ケロっと元気な笑顔。ただ今日は疲れがたまっているのか、未だ眠気が飛んでいない模様。


 何があったのか、それともナニをしたのか。




「眠そうだね?」


「ん? あぁ……昨日、アルディエント工房都市から客が来てさぁ……武具の依頼かと思ったらディルドの金型依頼だったんだよ……」


「うん、わかった。試しに作ったのでそのお客とシてたと」


「いやもう、サイクロプス族の娘さんは最高だねぇ。鍛えて締まるのにデカパイは柔らかくて……ひひっ」


「女性向け淫具は販路広そうで何より。ほんと、羨ましいよ……」


「あぁ? なんだよ、文句あるなら言ってみろ」




 齧ったトーストから溢れる溶けバターを味わい、噛みしめまろやかなコクを躍らせる。


 じっくりじっくり一口一口、食べきって布巾で手を拭いた。小さく陶器の音をカチャッと鳴らし、軽く含んで口内を洗う。ブラックの苦みで味覚が締まり、カップを静かにゆっくりお皿に。


 ――――ねぇ? 幾ら朝でお客が少ないからって、店のマスターが相席してて良いの?




「うん? お気になさらず」


「で? 淫具の販路が何だって? テメェら死霊術科なんて、国家要請がバンバン飛んでくるだろ? いくら儲けてんだ?」


「アンデッドに頼る国なんて、負けが確定した凋落国家ばっかりだよ。提示金額は確かに良いけど、夜逃げや亡命で支払い能力ありませ~んってケースばっかり。だからお金は前払いで貰えるだけ、後金の代わりに実験場の所有権と材料を頂くんだ」


「結局不動産になってウッハウハだろうがっ。何が羨ましいだっ。ふざけんなっ」


「羨ましいのは販路であって売り上げじゃないよ……」




 触手から酒瓶を受け取って、割りもせず口をつける小娘にため息。


 ウィスキーは常温水割りが美味しいって聞いたけど?


 度数も高くてきつくない?


 まぁでも酒の飲み方は人それぞれ。楽しみ方もそれぞれだから、口をはさむことではない。僕も1杯目のコーヒーを飲み干し、隣の店主にお代わりをオーダーする。


 心地の良いコポポポポ……に、耳が幸せを感じて震えた。




「死霊術師界隈にとって、販路は最大の悩みなんだよ?」


「ん……生ものだから腐るとか?」


「うん、正解。良質なアンデッドの製造には、死にたて新鮮な死体が不可欠。そんなのは戦場か処刑場か、もしくは裏路地でこっそりくらいが関の山。必然的にホームと収穫所の距離が近くなって、行政に目を付けられて脅される毎日」


「あっ、売る方じゃなくて買う方か。てっきりエロいアンデッドの販売かと思ったよ」


「そっちは……多分、ちょっとの役得で解決できるから……」


「コイツ、新品じゃなく中古品売る気なのかよ……」




 『信じらんねぇ……』と上半身を引くロリドワーフは、下着の一部に反語を唱えた。


 口ではそう言って身体は正直。酒に酔っていて気付かないのか、それとも気にしないくらいのオープンか。お互い間違いで全部見てしまった仲だけど、隣の店主はそうではないよ?


 ――――頭の触手が店内を忙しく回り、当の本体はのほほん紅潮。


 客のエロ話を楽しむマスターとか、わかっていたけどとんだ変態だ。




「そもそも、新品エロアンデッドは希少だから」


「戦場なら兵士にレイプされんのが普通だし、犯罪者共は貞操観念なんてありゃしない、か。スラムで攫ってって話も聞くけど、実際はどうなんよ?」


「無くはないけど、肉付き悪いよ? その日食べるものすら手に入るかって環境だから、肋骨浮くくらいガリガリってのもいる。エリンのサイズで巨乳か肥満って言われるんじゃない? そのくらいだよ」


「エリン。お酒だけじゃなくもっと食べろって言われてるよ? サラは物足りないって」


「気色悪いこと言うなよっ。私は女以外に興味はないねっ」




 ぐびぐび呷って1瓶開けて、エリンはお代わりを注文した。


 酔いが回って頬は赤く、嗜好外の話題を酒で流す。彼女はいつもこうで、気に入らないことがあるととにかく酒酒。


 悪くはない。


 でも、たまに酔い潰れるくらいが魅力を感じる。




「――――っ。ケッ」


「?」


「ふふふっ」




 ニヤニヤ顔のレアルに酒瓶を渡されて、こちらを一瞥したエリンは暴飲。


 売り上げが上がってご満悦なのか、マスターの笑顔はこちらにも。なのにじっとり粘ついて見えるのは気のせいか、それとも何か含みがあるのだろうか。


 わからないけど、気にしなくて良いだろう。


 それよりもアンデッドの販路の話だ。会でも議題に上がっているから、2人の意見を参考にしたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ