第三話 エッチなアンデッドを広める方法 前編
昨夜の雨が朝日で香り、煌めく街を見て休日のモーニングコーヒー。
頭を冷ますために1杯目はブラック。頃合いを見てお代わりする2杯目はミルクと砂糖を3つ。
バターを塗ったトーストとスクランブルエッグは柔らかく、フォークを入れるとサクッとふわっと。一口目は片方ずつを楽しみ、二口目はトーストに卵を乗せてパクリ。サクふわにバターと塩と胡椒と甘み、4つが舌の舞台で代わる代わる挨拶をして見せた。
うん。
こういう優雅な朝食は、1人も良いけど誰か隣にいて欲しい。
「ふわぁぁぁ……おはようさん、サラ、レアル」
「また寝間着で出てきたの? 少しは外面を気にしなよ、エリン」
「いらっしゃい。何にする?」
「ウィスキー。ボトルで」
着崩した隙間に白下着を曝しながら、当たり前のように相席する寝ぼけ眼のロリドワーフ。
今日は世間一般の休日なのだが、朝から酒とはさすが酒乱種族。呑んで酔って騒いでヤって、翌朝ケロっと元気な笑顔。ただ今日は疲れがたまっているのか、未だ眠気が飛んでいない模様。
何があったのか、それともナニをしたのか。
「眠そうだね?」
「ん? あぁ……昨日、アルディエント工房都市から客が来てさぁ……武具の依頼かと思ったらディルドの金型依頼だったんだよ……」
「うん、わかった。試しに作ったのでそのお客とシてたと」
「いやもう、サイクロプス族の娘さんは最高だねぇ。鍛えて締まるのにデカパイは柔らかくて……ひひっ」
「女性向け淫具は販路広そうで何より。ほんと、羨ましいよ……」
「あぁ? なんだよ、文句あるなら言ってみろ」
齧ったトーストから溢れる溶けバターを味わい、噛みしめまろやかなコクを躍らせる。
じっくりじっくり一口一口、食べきって布巾で手を拭いた。小さく陶器の音をカチャッと鳴らし、軽く含んで口内を洗う。ブラックの苦みで味覚が締まり、カップを静かにゆっくりお皿に。
――――ねぇ? 幾ら朝でお客が少ないからって、店のマスターが相席してて良いの?
「うん? お気になさらず」
「で? 淫具の販路が何だって? テメェら死霊術科なんて、国家要請がバンバン飛んでくるだろ? いくら儲けてんだ?」
「アンデッドに頼る国なんて、負けが確定した凋落国家ばっかりだよ。提示金額は確かに良いけど、夜逃げや亡命で支払い能力ありませ~んってケースばっかり。だからお金は前払いで貰えるだけ、後金の代わりに実験場の所有権と材料を頂くんだ」
「結局不動産になってウッハウハだろうがっ。何が羨ましいだっ。ふざけんなっ」
「羨ましいのは販路であって売り上げじゃないよ……」
触手から酒瓶を受け取って、割りもせず口をつける小娘にため息。
ウィスキーは常温水割りが美味しいって聞いたけど?
度数も高くてきつくない?
まぁでも酒の飲み方は人それぞれ。楽しみ方もそれぞれだから、口をはさむことではない。僕も1杯目のコーヒーを飲み干し、隣の店主にお代わりをオーダーする。
心地の良いコポポポポ……に、耳が幸せを感じて震えた。
「死霊術師界隈にとって、販路は最大の悩みなんだよ?」
「ん……生ものだから腐るとか?」
「うん、正解。良質なアンデッドの製造には、死にたて新鮮な死体が不可欠。そんなのは戦場か処刑場か、もしくは裏路地でこっそりくらいが関の山。必然的にホームと収穫所の距離が近くなって、行政に目を付けられて脅される毎日」
「あっ、売る方じゃなくて買う方か。てっきりエロいアンデッドの販売かと思ったよ」
「そっちは……多分、ちょっとの役得で解決できるから……」
「コイツ、新品じゃなく中古品売る気なのかよ……」
『信じらんねぇ……』と上半身を引くロリドワーフは、下着の一部に反語を唱えた。
口ではそう言って身体は正直。酒に酔っていて気付かないのか、それとも気にしないくらいのオープンか。お互い間違いで全部見てしまった仲だけど、隣の店主はそうではないよ?
――――頭の触手が店内を忙しく回り、当の本体はのほほん紅潮。
客のエロ話を楽しむマスターとか、わかっていたけどとんだ変態だ。
「そもそも、新品エロアンデッドは希少だから」
「戦場なら兵士にレイプされんのが普通だし、犯罪者共は貞操観念なんてありゃしない、か。スラムで攫ってって話も聞くけど、実際はどうなんよ?」
「無くはないけど、肉付き悪いよ? その日食べるものすら手に入るかって環境だから、肋骨浮くくらいガリガリってのもいる。エリンのサイズで巨乳か肥満って言われるんじゃない? そのくらいだよ」
「エリン。お酒だけじゃなくもっと食べろって言われてるよ? サラは物足りないって」
「気色悪いこと言うなよっ。私は女以外に興味はないねっ」
ぐびぐび呷って1瓶開けて、エリンはお代わりを注文した。
酔いが回って頬は赤く、嗜好外の話題を酒で流す。彼女はいつもこうで、気に入らないことがあるととにかく酒酒。
悪くはない。
でも、たまに酔い潰れるくらいが魅力を感じる。
「――――っ。ケッ」
「?」
「ふふふっ」
ニヤニヤ顔のレアルに酒瓶を渡されて、こちらを一瞥したエリンは暴飲。
売り上げが上がってご満悦なのか、マスターの笑顔はこちらにも。なのにじっとり粘ついて見えるのは気のせいか、それとも何か含みがあるのだろうか。
わからないけど、気にしなくて良いだろう。
それよりもアンデッドの販路の話だ。会でも議題に上がっているから、2人の意見を参考にしたい。




