第二十七話 エッチなアンデッドが僕は欲しいんです…… 前編
ウナギの蒲焼、ナマズの天ぷら、マムシの生き血酒に蒸し牡蠣レモン搾り。
精の付くものを片端から頼み、じっくり噛み締めるように味わい取り込む。命を糧として命を作り、生きる僕らの正しい当たり前。それをしっかり認識して自覚して理解して、時間をかけて身に血に心に自分の一部に。
――――2時間前と比べ、生気は戻ってきた筈。
うん、その筈だ。その筈と思いたい。
「…………なぁ? サラ、どうした? いつもより血色悪いぞ? 青白いっていうか……」
「もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ…………んぐっ。リビングデッドの魔術式、覚えてるでしょ?」
「サラの先生が送ってきたやつだよな? それがどうしたよ?」
「僕がかけられたの」
「ぶふっ゛!」
飛んだ唾にきちゃないと思えないほど、僕は真剣に命を喰らっている。
食とは命を奪い、喰らい、取り込んで受け入れる生の儀式。口から入れた生命の残滓を、消化吸収して自分の命に。一口一噛みに感謝し謝罪し、欠片も残さず全身に回す。
……こんなにも辛い食事は今までにない。
泣き出しそうな自分を叱咤し、生きる為に食べるんだよと檄を飛ばす。
「それで、施術前後で何か変わった?」
「なんていうか、感覚が研ぎ澄まされて動きの無駄が無くなった。『生きてる』っていうより『動いてる』って感じ。それでいて疲労は感じず、エッチの快楽が施術前の数倍くらいに高まってる」
「いやいやいやいや、そんなことよりなんでそうなったっ? お前が誰かにかけたんじゃなく、なんでお前がかけられてんだよっ?」
「…………あの3人がね。先生からボス経由で手紙貰ってたの。『寿命と老いの差を解消したければ、僕と自分達にかければ解決するよ』って」
「あぁぁぁぁ…………犯人共は?」
「快楽数倍って言ったでしょ? 緊縛目隠しで玩具突っ込んでお仕置き中」
大根とごぼうのお吸い物を啜り咀嚼し、僕は今朝の一連を思い出した。
いつもの気怠い朝の行為に、ひどく新鮮な強い快感。
戸惑う中で3人の肌が、白と褐色に若干の青を宿していた。まるでアンデッドのそれであり、問い質してリビングデッド術式の施術を知る。そしてそれは彼女達だけでなく、僕も含めた4人に施されていた、と。
『これで、ずぅっと一緒だねぇ~』
『置いていかれることも、老いて逝くことも無くなったわ』
『言いたいことはわかる。だが、今は私達の愛を受け止めろっ』
…………なんていうか、こういうのを僕は『面倒』って避けてたんだよね。
「結局、僕の覚悟が足りなかったんだろうねぇ……」
「何言いたいのかわかんねぇけど、心境は察するよ……」
「あんまり落ち込んでないで、次はエビ食べる? 酒乱海老と塩焼きとどっちが良い?」
「両方」
「現金なんだから。ちょっと待ってて」
加熱用の小型魔術コンロをテーブルに置かれ、その上に透明な蓋の鍋がコトリ。
店奥から紙巻きの酒瓶が触手に乗って、封を開けられ鍋いっぱいに。加熱が始まり香りが立ち、澄んだ糖とアルコールの海に沈んでいるかのよう。鋭敏になった嗅覚が味覚が、過去に味わったソレを思い出させてくれる。
コレは確か、時空魔術科の温泉旅行のお土産に呑んだお酒。
「良いの? これ、まだ高いよね?」
「ん? いや、違うよ? コレは酒乱海老用の安いお酒。前に呑んだのとは別だよ別」
「え? でも、アレより香り凄いよ?」
「おいおい、加熱始めたばっかでまだ全然だぞ? 燗の香りはこれからだよ、これからっ」
「え? これから? え?」
既にこれまで感じた事がない、芳醇な香気の満ちに気付いていない?
…………いや。徐々に、徐々に更に香りが増していく。
まさかと思い、鍋の上で自分に向けて手を扇いだ。ふわっなんて生易しいぶわぁっ!が噴き付け、『吹く』が誤字と思えてしまう酒香の濁流。こんなに嗅いだら匂いだけで酔いそうなのに、ただただ感じ楽しめる現実が夢のよう。
果たして、コレは夢なのか?
頬を軽くつねってみて、痛くてすぐに指を離した。
「あれ? あれ?」
「なんていうか、らしくねぇな――――っと、そろそろエビ入れようぜ。良い感じの燗だろ?」
「エリン、よろしく」
「おうよっ。おらっ!」
生きたままの大ぶりのエビが、お燗の鍋に入れられ即蓋閉め。
中で暴れ赤くなる殻が、飛び散る雫と溶けだしたうま味が、嗅覚と繋がった味覚で間接的に叩き込まれる。
活きエビを燗で茹でる酒乱海老という料理。これまで食べたのは2回だけで、ぷりぷりの身と染みた酒で深い味わい。しかし、あの時は直接舌で味わい、鼻で感じている筈の今が涎止まらない感動的初体験以上。
これを?
これを食べるの?
僕、死ぬんじゃない?
「――――ん? うわっ、きたねぇっ!」
「サラ、よだれよだれっ」
「あぅぅぅぅ……あぅぅぅ…………」




