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第二十五話 エッチなアンデッドとリビングデッド 前編

「おう、サラ。手紙預かってるから渡すわ」


「ん? んん?」




 ボイルされたロブスターの胴を『ぱきゃっ!』と、真っ二つに折り千切り尾側をがぶりゅっ。


 ぷりぷりみちみちの締まった身が、一噛み一噛みに張り満ちの歯応え。


 若干の臭みはガーリックとパセリで消えていて、香ばしい匂いと味わいが素晴らしい。エビとどちらが優れているかと問われれば、明確な答えを僕は控えたい。エビとカニは全く違うのに、エビとロブスターは甲乙つけ難いうま味の近似を持つ。


 強いて言うなら、エビは塩、ロブスターはソースが合う。


 多分、生育環境による違いじゃないかな?




「……なんで先生からの手紙をエリンが持ってるの?」


「従姉妹経由だ。詳しくは知らねぇけど、一緒に住んでるんだと。ギルドの監査部に勤めてたのが、すっかり雌の顔をしてたぜ」


「あっ、ふぅ~ん?」


「で? 中身なんだよ? 早く開けろ開けろっ」




 エリンの従姉妹の現状を察しつつ、僕は手を拭いて封を開けた。


 入っていたのは文が1枚、魔術式と解説のまとめ書きが5枚。


 久々の連絡にしては大分簡素で、エッチと研究以外面倒くさがりなのは変わっていない。もう少し愛想が良ければ、学園都市で教鞭も取れるだろうに。『そんなことよりエッチが大事』と、真面目な顔できっと言うんだろうなぁ……。


 ――――コップの水を一口飲んで、舌と思考を切り替える。


 多分、誰かさんから僕のことを聞いてお節介を寄越した筈だ。




「んん~…………『やっほぉ~、サラ。エッチなアンデッドの研究進んでる? 良い死体が手に入らなくて、お気に入りのオナホアンデッドを作れなくて悶々としてない? そんなあなたに朗報ですっ! 僕のリビングデッド術式を送るから使ってみて! 注意とすると、生殖機能は残ったままだから妊娠しちゃうの気を付けてねっ!』」


「お前の先生、随分フランクだな……って、リビングデッド?」


「なんか不穏な言葉が聞こえてきたけど、窓閉めて遮音する? ゲリラおっぱい鑑賞会と勘違いして、逆効果になるかもだけど」


「倫理的にはアウトだけど、学術的には大丈夫。昔からある不死研究の一種だから」


「不死ぃ? 完全にアウトだろうがっ」




 ドカッと座ってテキーラを頼み、受け取って栓を開けてエリンは駆けつけ一口ラッパ飲み。


 昼食でなければ酒も良いが、ロブスターに合う酒は一体何だ?


 定番の白ワイン、ハーブ強めのカクテル、ウィスキー辺りは良いだろうか。もしくは純粋な味の蒸留酒類? あまり度数が高すぎると酔い潰れる可能性が高い。


 『迷ったら水』に逃げるのも一手?


 醜態を晒すより、堅実な選択の方が僕には合うか。




「エリン。不死研究自体はどの国も禁止してない。不死を確認する為の殺傷行為に対し、傷害と殺人の罪が適用されるだけだよ」


「そうは言ってもよぉ、レアル…………」


「制度的に問題なくても、人道的に大問題なのは僕も先生も知ってるよ。でも理論があり、仮説があり、実験と研究の末に完成した術は単なる手段。必要があれば使い、必要なければ使わない。それだけ」


「そんなに割り切れるもんか? 生きてる奴を弄り回して作り替えるんだろ? 死体とはちげぇだろ?」


「極論、治癒魔術科の身体改変施術も同じだよ。向こうは身体だけ作り替えて、こっちは命そのものも弄るけどね」


「何となくわかるけど納得したくねぇ」




 割れない程度に瓶でテーブルを叩き、エリンは尚も食い下がる。


 感情論は議論を平行線にする愚考であり、理論を捻じ曲げる門外漢。目の前にいても一先ず脇に置き、魔術式と解説をしっかり読み深めた。そしてすぐに理解した、なりふり構わないアウトローの高すぎる問題解決力。


 そっと、お詫びのロブスターをエリンの前に。


 これから先、彼女の琴線に触れかねない。




「……お前が何も言わず飯を寄越すってことは…………」


「うん。凄く実用的なんだけど、広まっちゃいけないね、コレ。2人はアンデッドとリビングデッドの違いって分かる?」


「いいや、知らねぇ」


「ギルドの依頼だと、リビングデッド関連は総じて『殲滅』対象になってるよ。しかも大体が冒険者指定依頼」


「死体に施術するアンデッドに対し、生体に施術するリビングデッドは『人を魔物にする』技術だからね。設計者は効率を求めて感染性を付与するケースが多く、蔓延防止に殲滅は正しい選択だ。でも……リビングデッドは、その人の意識と魂がそのままなんだって」


「おいっ、おいおいおいおいおいおいおいおいっ! おいっ!?」




 怒りと忌避感が2人だけでなく、僕達の会話が聞こえる距離全てに広がった。

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