第二十四話 エッチなアンデッドとアウトローネクロマンサー 後編
トクトク注いでシュワッ!と泡立ち、香りを立てる楽しみ方。
傾けたグラスにゆっくり注ぎ、炭酸の抜けを抑えて口で舌で味わう楽しみ方。
零下まで温度を下げて、キンッ!と鋭い冷たさを際立たせる楽しみ方。
幾つもの方法でスパークリングワインを楽しみ、僕が好きなのは冷やしてゆっくり注いだ2種混合。キンキンの冷えと弾ける炭酸、口内の熱を吸って噴き出す爽やかな熟成。準備も手間もかかるのだが、かけた分だけの感動を約束してくれる。
高尚に言えば、作法。
炭酸飲料の作法は、常に感動と失望が隣り合わせだ。
「サラの先生って死霊術科長じゃないの? あの人もあの人で札付きだけど、表立って賞金はかけられてないよね?」
「うん、違うよ。ボスもボスで教会相手に勇者遺物争奪戦をしてるけど、先生はもっと世間的にヤバい。好みの女体をリビングデッドにして飼ったり、身体パーツを選りすぐって自分だけの最高のエッチアンデッドを作ったり」
「完全に『マッド』の付く死霊術師だね……」
「一番の問題は、それをちゃんと自覚してることだよ。自分の理想を追い求めて、考えて研究して社会そのものが邪魔になったタイプ。表向きは社会の内にあって、特に隠してないけど裏社会で好き勝手やってる」
「強いの?」
「初めて会った時、勇者と魔王のタッグをしばいて、エッチなアンデッドに逆レイプさせてた」
斜めに傾けたグラスにワインの瓶口をつけ、伝わせるように底の楕円へ溜めていく。
勢いよく注げば増す嵩が、1mmも増えず3本指の高さに。鼻を近づけても香りは少なく、視覚嗅覚の評価は星1つ未満。しかし一度口に入れたなら、溜め込まれた香りと刺激が爆発か噴火かと思わせる突き抜け方。
口を焼き、喉を焼き、目頭を熱く涙を流させる。
火傷を一瞬疑って、感じるのは頭を締め付ける痛みと冷たさ。続けば辛いが刹那の後、冴え晴れ渡る解放感で意識が澄んだ。アルコールの高揚も相まって、現世の素晴らしさがこの1杯に詰まっていると知る。
――――普通に飲めば、ココに至れない。
正しい所作を知り、作法を身に付けなければ……。
「えぇぇ……? 勇者と魔王って、世界最強の一対だよね……?」
「無力化して捕縛して、1ヶ月間搾り取るのを手伝ったよ。死霊術とエッチなアンデッドを教わって、勇者のアレを買いに来たボスと知り合ったのもその頃だね」
「アレって……」
「うん、アレ。勇者と魔王のとなるとすごく高かったよ。払いきれなかったボスが僕に借金して、利子代わりに魔術学園都市に通ってたのは公然の秘密」
「学費が勇者のアレ…………うん……なんていうか……」
「汚いお金だよね。特に男からすると――っと」
僅かばかり手元が狂い、注ぐワインから泡がシュワワッ!
それ以上をやめて軽く回し、泡を落ち着かせて一気に呷る。あれほど強かった食感快楽が、野生馬から飼育馬の如き大人しさに堕ちた。基礎となる甘みが重く厚く出て、駆け抜ける草原を狭い柵内に幻視してしまう。
人工的に繁殖させ、育てている馬が悪いとは言わない。
問題なのは特質の合致。野生は野生の良さがあり、飼育は飼育の良さがある。野生を飼育に無理矢理したり、飼育を野生に捨てる行為が最悪のミスマッチを生んでしまう。
…………スパークリングワインは、ワイン界の典型。
独特の爽やかさを失えば、重厚な味わいを持つ他銘柄に勝てはしない。
「あぁ~……もったいない」
「もう1本いる?」
「そんなに飲めないよ。ケーキも終わったし、この瓶が終わったら帰ろうかな。あっ、ケーキ4人分とワイン3本テイクアウトで」
「なんだかんだ言って、真っ当にハーレムしてるよね。寿命違う所は対策考えてる?」
「そのままで良いとも思うけど、最終的には彼女達の判断に合わせるよ。先生なら有無を言わさずアンデッド化してレイプ三昧だろうね。僕はそこまでにまだなれない」
「サラの先生、本当になんで捕まってないの?」
「捕まえられる人がいないから。単純な話」
最後の1杯をグラスになみなみ、静かに持ち上げゆっくり含む。
弾ける刺激を口内で耐え、冷たいワインに熱を吸われる。温まって抑えられなくなった香気が、出口を求めて鼻腔を満たす。出かけを吸って内に戻して、口から上がってくる追加と合流。
目を閉じ、ブドウ畑で溺れている感覚。
香りに溺れる贅沢は、なんと心地良く眠りを誘う。一瞬気を失いかけ、ふらついた頭を目を開け正した。流石に今夜は飲みすぎて、先にテーブルに代金を置く。
――――スッと差し出される大きな編み籠。
中にはケーキとワインが収まり、少しの隙間もないキツキツギチギチ…………?
あれ? 今、僕以外の手が籠を持って行った?
「……ねぇ?」
「振り返らない方が良いよ」
「ねぇ?」
「あっ、栄養剤も入れといたから頑張って。うん、頑張ってね。いろんな意味で頑張って」
「ねぇっ?」
複数の手に肩を掴まれ、腰を掴まれ、引かれ立たされ抱きかかえられる。
掌の感触から相手方は知れ、僕は『バイバイ』する触手に必死に縋った。
確かに帰りが遅かったかもしれない。待たせていたかもしれない。でも仕事と友情の付き合いは大事なのだ。いや、男女の付き合いも大事に違いないのだけれど……。
でも、ちょっとっ。
相手の意思に反する無理矢理は良くないと思うんだけどっ?
「今夜は朝までコースねぇ~っ」
「ゴム全部捨てといたから」
「死霊術科長に休暇申請も出しておいたぞ」
…………今度、先生に相談しに行こう。
淫欲と理想の両立、どうすればいいのかって。




