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第二十話 エッチなアンデッドを綺麗にしましょう 後編

 エリンが自分のクリームソーダを注文し、運ばれてきた頃に僕のアイスは融け切った。


 いや、溶かしたと言って良い。


 メロンソーダとバニラアイス、基礎の極みは融ける前に十二分楽しんだ。チェリーを口の中でもごもご解し、種をティッシュに出して包む。その間に長いスプーンで緩くステアして、ソーダとアイスのカクテルを1杯。


 ――――エメラルドグリーンにミルクを加えた、まろやかなシュワシュワが口いっぱいに広がって冷たく弾ける。




「そういえば、ギルドの精霊魔術師にアンデッド従者を売ってたよね? 精霊憑依してるアンデッドって、即死洗浄液に入れたらどうなるの?」


「肉体への死だから、憑依は問題ないって実験結果が出てる。でも、好き合ってる相手に即死魔術は精神衛生上良くないよ。洗浄の際は憑依を解いてもらって、もう片方でイチャイチャが基本かな」


「もう片方?」


「冒険者の顧客、2体セットでの購入が殆どなんだよ。ギルドがアンデッドの購入補助を出してて、2体まで総額の3割援助。荷物持ちに援護にエッチに、1体より2体が良いって認識みたいだね」


「生身の女もいれば3人ハーレムか。こりゃ淫魔術科の売上やばいかもな。トップ3人が抜けて冒険者も自家消費出来て、客がごっそり減るのが目に見えらぁっ」


「あぁ、そこは大丈夫。僕と彼女達がくっついたから、娼館とアンデッド娼館を統合して共同運営することになった。彼女達が娼館のオーナーなんだよね。娼婦してたのは、単にエッチが大好きってだけ」


「淫魔術科と娼婦とオーナー業の兼業? おっそろしいな……」




 アイスをパクパク掬っては食べ、ロリの外見と相まって本当に幼女と見紛うエリン。


 相席の僕もストローで啜り、ふと、別の席から視線を感じる。初老の夫婦が食事をしながら、僕達にほっこり穏やかな笑顔。ロリとショタかロリとロリか、友達親友恋人同士の一体どれで見えている?


 ――――こういう時、ロリっぽい自分の外見が判断を鈍らせる。


 レズに言い寄られるほど女に見えて、男として見られないこともしばしば。自身は男とちゃんと認識していて、良いこともあるが複雑な気分。ただ、直接言われたり害がなければ、特段咎める必要はない。


 故意の無知がもたらす安寧。


 長く生きる上で、人生の先輩達から散々思い知らされた。




「その内、エッチなアンデッドの国でも作りそう」


「割といいかもね。敗戦したユクセラの実験場、素体収穫しやすいようにって広めに取ってたんだよ。妊娠アンデッドの研究が軌道に乗れば、あそこを拠点に繁殖実験しようかな?」


「進捗は順調かぁ?」


「生前に孕んだのを1ヶ月後に出産予定。そしたらすぐ再生処理して、妊娠するまで毎日皆で種付けだね。ただ、生殖器が生きてる可能性があるから、他と違って即死洗浄を行わない方針」


「人間と同じでお風呂に入らせないといけないのか。テンタクルスの谷を思い出すなぁ……谷底に川が流れてて、汚れた娘達を触手姦したまま下ろして洗って……」


「うわっ、聞きたくねぇっ」


「下流で溺死体がよく見つかるのってソレが原因かぁ~。全部中古だよって各方面に情報回しとこ」




 ストローを咥えてずぞぞっと吸い、ほんの少し感じた味の薄まり。


 氷が融けて希釈され、いよいよクリームソーダの寿命が近づく。一気に吸って吸って吸って、飲んで飲んで飲んでジュージュゾゾゾカラカラカラッ。


 喉越しを抜けるとろみと甘み、爽やかなコクを最後は含む。


 また次に注文するその時まで、この残り味を噛み締め記憶する。最低でも1ヶ月。出来れば3ヶ月は寝かせたい。週1では食の感動は劣化してしまい、時間をかけるほどに熟成されて震えるほどの大きさに育つ。


 …………あぁ~……子供の頃の嬉しい気持ちぃ~……。


 大人になって社会に揉まれ、忘れかけていた幸せをもう一度……。




「ふぅぅぅぅ…………っ。ご馳走様でした」


「きったねぇ飲み方っ」


「えぇ~? ストローで飲むと最後はこうなるでしょ? 1滴も残したくないって全力で吸うでしょ?」


「私はガッ!て呷るねっ。ストローよりグラスの方が、舌で感じる味が横に広いんだ。一気に吸うと中央を真っ直ぐ通り抜けて、もったいねぇと思わねぇ?」


「あっ、言われてみればっ。最後の一口を口いっぱいに含めるし、そっちの方が良いかも?」


「いやいや。ちょっとお待ちなさい、お二人さん」




 投げかけられた声に顔を向け、僕達を眺めていた初老男性が掌で『待て』の形。


 いつの間にか食事が済んで、彼の目の前にデザートのクリームソーダ。疑念と不審を向けていた直前の自分を恥じ、身体も向けて身なりを正す。まさか同好の士とは心得ず、口に出さずとも大変な失礼をしてしまった。


 エリンも僕の対応を見たのか、ジョッキを置いて姿勢をピシッ!




「グラスとストロー、どちらがより良いのかは私にもわからん。だが、子供の頃の君達は、どちらでクリームソーダを楽しんでいるのかな?」


「子供の頃、ですか?」


「うむ。食の楽しみ方の1つに、『思い出を味わう』というものがある。『味を楽しむ』と違い、初めて体験した感動を再体験する方法だ。特に、少年。君はその傾向が強いんじゃないかな?」


「!」


「なら、どちらが良いかを考えるのではなく、感じるまま楽しめば良い。私なんてほら。ストローでアイスを刺して、そのままメロンソーダをじゅぅうううううっ!」


「あぁああああああああっ! その手があるかっ! その手があるのかっ!」


「懐かしいですねぇ。マスターさん、私にも1つ頂けるかしら? 小さい方で」


「はい。すぐお持ちしますね」




 厨房に向かう触手人間を意識の外に、僕は鮮明に過去を思い出していた。


 あの頃、ストローはただのストローだったか?


 こんな風に、金属製のスプーンを使っていたのか?


 いや違う。ストローの先が下半分拡がって、スプーンストローと呼べる形。アレで掬ってアイスを食べ、掬ってストローから吸ってと遊んだ。思いつく限りやって味わい、だから今でもクリームソーダに幸せを感じる。


 …………なんで……っ。


 なんで、僕は食べきるまでそれを忘れていたのか……ッ!




「あっ、サラ? お代わりする?」


「……っ! ぐ……っ、ふぐ……っ!」




 ダメッ。ダメダメダメダメッ。今日はもうダメだっ。


 僕は、クリームソーダの『思い出』を食べているっ。


 だから、だから――――ッ゛!




「――――エリンっ、一口ちょうだい……っ」


「やらねぇよ。自分で頼め」

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