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第二話 エッチなアンデッドはちゃんといます 後編

 テーブルの上に光が集まり、4つの形の幻を作る。


 人型の骨の塊、スケルトン。


 腐り損ないの死体、ゾンビ。


 生者の肉を喰らう死体、グール。


 透けた脚を持つ霊体、スペクター。




「死霊術で最も有名なのがスケルトンとゾンビ。コレは今後100年は覆らない事実だね。でもそれは、戦乱の時代に『最も効率が良かったから』って理由なんだ」


「効率?」


「兵士が戦って死んで、ゾンビにして壊れて、スケルトンにしてもう1回。1つの命で計3回戦わせられる。これは良いって世界中の権力者が死霊術を求めた」


「うわっ、胸糞わりぃっ! テメェらでやれって言ってやりてぇっ!」


「その極致はリッチだよ。自ら死霊を操るアンデッドになった典型。で、僕達『エッチなアンデッドを求める死霊術師の会』は、スケルトンでもゾンビでもスペクターでもなく、このグールに目を付けた」




 幻の3つを消して1つ残し、肉喰う死体は少し上へ。下に矢印を3本引き、その先に3種の幻を作る。


 裸体で男に跨る青肌の女死体。


 目に光はなく、剣と盾を持つ戦士の死体。


 知性を感じさせる動きで血を啜る娘の死体。


 どれも分類の上では『アンデッド』で、スケルトンやゾンビと同列に扱われる。しかし、死霊術師達からすれば全然違う。その違いが分かる者こそ『エッチなアンデッド』の研究者たりえるのだ。


 僕は、2切れ目のピザを食むロリドワーフに続けた。




「グールは生肉を糧とし、壊れた細胞を再生すると言われている。でも、実は食べられる物なら何でも良いんだ」


「は? じゃあ何で肉ばっかり喰うんだよ?」


「最も生を感じる食べ物は、生きている肉だから。もう調理した肉や野菜は、彼らからすれば『死んだ食事』。生を求める死者として、グールは生物の肉を優先的に食す」


「あぁ、だからグールってゾンビを食べないのか。今度冒険者仲間に教えてあげよう」




 いつの間にか同席していたレアルは頬杖を突き、花蜜の炭酸割りを口に運んだ。


 この細目で細身の優男は、魔術学園都市でも有数の実力者。カフェ経営の傍ら、冒険者として有害モンスターの狩りをする。横の繋がりはそれなりに広く、ギルドの上層部に顔が利くとか。


 また、店で使っている食材の一部は、彼が狩ってきた獲物とも。


 ワイバーンステーキとか、その辺りかな?




「あっ、続けて続けて」


「ちゃんと仕事するんだよ? で、グールの派生として、肉以外を食するアンデッドを試作したんだ。精液、魔力、血液と、特に栄養価が高いのを一通り。結果として亜種グールはどれも機能し、生者を襲っても殺すことはなくなった」


「いやいやいや、血液はやべぇだろ? 吸血鬼みたいに吸い殺さねぇ? あと伝染しねぇ?」


「伝染……そう、伝染だったんだよねぇ……」




 上のグールを消して3種アンデッドを上に、更に下に3本の矢印を1つの幻に集約する。


 いや、1つではあるが、1体ではない。


 何体も何体も大量のグールの群れ。それに対して剣を持ち、杖を持って抵抗する者達。お互いに数を減らしていき、グールは殲滅されるも一面焼け野原。


 いやぁ、あの時は大変だった。




「死体をアンデッドにする死霊術が、魔力接触を通じて感染するってわかってね。魔力耐性が低いと、セックス、魔力供給、吸血のどれでもアンデッド化しちゃった。おかげでユクセラの戦線が崩壊しちゃって、うまいこと滅んでくれないと賞金かけられちゃうかも?」


「ぶっふぉおっ!」


「あぁ……近隣のアンデッドハンターに招集状が回ってたのってそれかぁ……。スケルトンとゾンビの軍勢は別?」


「別だよ、別。提供の対価に、捕虜と犯罪者で実験して良いって条件だったの。最初はうまくいってたんだけど、実験場の警備と監督が精液供給型のアンデッドを勝手に使っててね。見事に感染して他の女囚人レイプして更にって感じ」


「馬鹿だろっ!? 馬鹿だろ、お前っ!」


「いやぁ、研究パートナーはちゃんと選ばないとダメだね。少なくとも警告を聞き入れて、職務に忠実な人じゃないと……」


「それで、そこで終わり? 続きがあるんじゃない?」




 糸のように細い目をうっすら開けて、怪しく光らせるレアルに悪寒。


 もしかして後始末に参加してた? いやでも悪いのはユクセラの馬鹿共だから。こっちはただのとばっちり。とばっちりだって。


 幻を手で払って消し、僕は2切れ目のピザを手に取る。




「あるにはあるけど、まだ研究段階なんだ。死霊術式の感染不活性化、死体の欠損復元に身体改変、消費エネルギーの効率・簡略化に、知性と意識を持たせるかどうか」


「知性はいらねぇだろ。レイプ感染の二の舞だぞ?」


「会のメンバーもほぼ同意見。でも、ねぇ? 自分だけの都合の良い恋人アンデッド…………作れるかもって思うと……」


「あぁ、うん…………わかる……」




 真っ当以上の性欲を持つ彼女も彼も、ふと見回した店内の客達も静かに頷いた。


 異性と付き合い、結婚する。それは確かに理想の1つ。


 ただし、その際に発生する様々な困難と苦難は、正直なところ遠慮したいのだ。お手軽に何の憂いも心配もなく、好みの娘とエッチできれば一番良い。当然だ。




「…………世界的な普及は、まだしばらくかかりそう……」




 何せ、解決しなければならない問題は山とある。

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