第十八話 エッチなアンデッドで壁尻はいけません 後編
「んでもよぉ……抜くだけだったら壁尻じゃなくて、それこそホールでも良いわけだろ?」
最後のバゲットを皿に残し、アヒージョを肴にワインを楽しむ。
食事でもあり、酒の宛て。
どちらも務められる優秀な料理の、柔らかくなったニンニクの欠片を1つぱくっ。臭み消し兼風味付けの食材は、食べすぎ禁物ながらつい食が進む。性力増強の目的もあって、1日3欠けが個人的な目安。
――――エッチなアンデッドの具合を確かめるのに、最も簡単なのは使うこと。
メンテナンス後の1発の為、性欲管理は欠かせない。
「壁尻性処理はともかく、公衆浴場でホールオナは公開処刑と変わらないよ」
「そういうもんか? 女湯だと、娼婦連中がディルド持ち込んで騎乗位のレクチャーしてるぞ? 男はそういうのやらねぇの?」
「やらないよっ。尻とホールって全然違うからねっ? ホールは抜きに特化してて、生と全然違うんだからっ」
「慣れちゃうと生身で感じなくなるって。パールとかカリブラシとか、色々ついてるディルドあるでしょ? あんなのと同じ」
「マジ? ホール中毒って奴?」
「結構馬鹿にならないよ? 僕の同級生なんて100個以上使い込んで、淫魔術科に転科した後もホールでしかイけてないって話。イけなかった娼婦の相手して、相手だけイかせて虚しくって辛いって言ってるよ」
『いやもう、彼の件はごめんなさいとしか……』
触手がグラスを娼婦席に持って行き、彼女達のボトルから1杯注ぐ。
超乳アンデッドウェイトレスがトレイに乗せると、僕の目の前に丁寧に置いた。それなりに高い銘柄だったので、お詫びの一杯には少し高すぎる。レアルに一言小さく告げ、グラスの足持ち香りを一嗅ぎ。
…………爽やかでまろやかで、透き通ったブドウ香。
金属臭は欠片も無く、管理の行き届いた良い熟成だ。媚薬混入を疑いつつ、確かめる一口を舌で転がす。辛いながらほのかな甘みが衣を剥いて、まるでベッドで誘う娼婦の脱衣。
うん。これ、結構好き。
「こっわ……」
「稀な事例ではあるけどね。で、壁尻は抜き性能でホールに勝てない。最初は新鮮味があるけど、尻だけでやっていけるほど風俗は優しくない。エッチなアンデッドの一般評価が壁尻になるのは、どうあっても防がないといけない」
「気にし過ぎじゃない? 格安全身アンデッドも置くんだし、娼館も生エッチディナー会もある。そこまで評価は下がらないと思うけど……」
「評価ってのは『こうあって欲しい』っていう願望が方向性を決めるのっ。どんな剣士でも良い剣を求める。そこそこの剣は繋ぎとしか見ない。エッチなアンデッドを『まぁ抜ければいい』って下向き評価にしたくない」
「低価格競争は質の低下を招くしな…………鍛冶師としては同意しかねぇわ」
「飲食店も同じだよ。――――っと、出来上がり」
エビたっぷりのアヒージョが皿に盛られ、触手が持って運んでいく。
行先は娼婦達の席。
ワインのお返しに精の付く一品。感謝の言葉を後頭部に受け、軽く手を振ってそれとなく返す。あんまり愛想を良くし過ぎると、彼女達はマジの逆レイプをしかねない。
だから、ニンニクは少な目。
客商売で、息が臭くなっても良くないし。
『あぁ~っ、いけないなぁ~っ。ニンニク食べたら今夜の仕事は行けないよねぇ~?』
『責任重大ね。3日は連れ出してもらわないと』
『代金はアンデッド娼館にツケとくからなっ! 今の内に溜め込んでおけっ!』
「レアル、臭い消しのお茶あったよね? あちらのテーブルにお願い」
「たまには生身も良いと思うよ?」
「僕の信念を折ろうとしないでっ。アンデッドの妊娠も実用段階に入ったし、良い素体が入れば専用のを作れるのっ。最低でもそこまでは生身エッチダメっ。特に彼女達は絶対に溺れるっ」
「そりゃ淫魔術のエキスパートだもんなぁ」
『今期売り上げ1位よ』
『2位だ』
『3位でぇ~すっ! サラくんなら身請けもだいかんげぇ~いっ!』
『『抜け駆けは許さん』』
「あっ、こりゃダメだ」
『まぁ頑張れ』の背叩きをしつつ、隣の雌ドワーフは門出祝いのボトルを寄越す。
やめてよしておねがいだからぼくのことをみすてないで。
そりゃそれなりに親しいけど。付き合いも長いけど。エッチなアンデッドの内部動作術式とか、彼女達の混合サンプルをメインに使わせてもらってるけど。
だからって、本懐を遂げるまでに果てたくない。
僕はエッチなアンデッドでエッチなことをするために死霊術師になりました。エッチな娼婦のお姉さん達と良い関係になって、なんやかんやしてなんやかんやするのは予定表にありません。
だから、ね?
わざと聞こえるように足音立てないで?
「最初は私で良いな?」
「次は私よ?」
「最後に全部搾り取っちゃうぞぉ~っ?」
「だれかたすけておねがいします」