第十六話 エッチなアンデッドの特別公共サービス 後編
「お~いっ、もう食べきっちまったか?」
自身より倍は大きな包みを肩にかけ、来店の鈴を鳴らしてエリンが顔を出す。
僕の隣に新しい席を用意して、辛うじて入店できるスペースを確保。焼けるソーセージの匂いに釣られ、強力なロリは軽やかに着席した。そして包みをレアルの触手に渡し、軽くパンッ!と叩いて見せる。
納得いくものが出来た。そういう笑顔。
「注文貰ってた不死殺しだ。派手に使ってやってくれ」
「早かったね。アロンダイトの調達に手間取ってたのに」
「例のクソ商人が調達ルートを妨害してたからなっ。あ、娘の締まりなかなか良かったぞ? おっぱいもたっぷたぷで、最終日の程度次第で競りに参加しようかなっ」
「ここだけの話、競りが開始する時に身体修復をする予定だよ。処女膜まで直して新品同様にね。あっ、その場で現金買取だから気を付けて」
「じゃ、前日までに代金頼むぜ、レアル」
「わかった。注文は何にする?」
「黒ビールとソーセージ3種盛り合わせっ。今日はコレで上がりだからなっ」
「は~い、すぐにお持ちしますねぇ~」
握り拳2つの大ジョッキの、更に倍は大きな特大ジョッキに褐色泡酒が注がれていく。
ビールに必須の泡は極力立てず、別のジョッキにも注いでこちらはぼわぼわ。特大の9割を注ぎ、残り1割に泡を後乗せ。溢れそうで溢れない山盛りにうっとり、酒乱娘の微笑みが見つめる。
同時に、蒸し器、鍋、フライパンからソーセージを5本ずつ。
蒸し、茹で、焼きの3種で調理された極太ソーセージ。並みの太さは指1本、こちらは2本より少し太め。湯に浸けられていた皿に盛られて、付け合わせはザワークラウトと目の細かいマッシュポテト。
――――最後に、乾燥パセリをパラパラパラ。
全体的に白と茶が占める一皿が、緑の彩りで華やかに楽しい。
「おまちどうさまっ」
「おうっ、ありがとよっ――――っと、サラ。今後、死刑囚は刑執行後にアンデッド化して、各種奉仕活動を強制するって話本当か?」
「え? 何それ知らない」
「うちの科長が言ってたぜ。その関係で、アンデッドでもできる単純作業と、人じゃないとできない作業の分類するとか。ま、付与魔術科だとそんなにねぇかな」
「それだったら、街の側溝と下水の掃除でもやらせれば良いんじゃないかな? あぁでも、スラム居住者の貴重な収入源だから反発大きい?」
「単純に割り当てるとそうだね。経験者を監督にして、作業用アンデッドを割り当てる方式が良いんじゃないかな? 事業になって、貧困者が上を目指す足掛かりにできる。学園長とボスに提案してみよう」
「あっ、男のアンデッド限定な。女は女で使い道があるからよっ」
茹でソーセージをパキュッ! 2・3回の咀嚼に泡麦酒をぐびりっ!
真昼間からアフタータイムを満喫する隣を、時計と見比べて羨ましく思う。昼食の休憩はまだあるも、午後の作業はそれなりにハードだ。大量に納入予定の盗賊バラバラ死体を、全部接合してアンデッド施術まで完了させる。
死体の劣化と、時間の勝負。
女以外は廃棄で良いじゃないかっ。野郎の身体なんてどうでもいいでしょっ?
「ん? あれ? もしかして、今後死霊術科って忙しくなる?」
「アンデッドの公共利用が決まると、製造販売だけでなくメンテナンスも必要だね。今の内に人員補充を考えたら?」
「軌道に乗れば、多少アンデッドの認識向上になるんじゃねぇか? お前のエロアンデッドの助けになるだろ?」
「いやでも、汚れ仕事の担当だと『死体』から『汚物』の変化でしょ? エッチなアンデッドは『エロ』じゃないといけないんだよ。『男は汚物』、『女はエロ』って完全に分ければ何とか…………?」
「そりゃ生きてようが死んでようが変わらねぇなっ。ちょっと頑張れば定着しそうだぜっ」
「うぅ~ん…………巡回娼館の部隊作って、人員のスカウトも兼ねるかなぁ…………」
カップを手に甘苦い乳白色を一口啜る。
コーヒーのほろ苦いコク、砂糖の甘いコク、ミルクのまろやかなコク。
3つのコクが混ざり合わさり、味覚に張り付いて薄く覆った。舌を少し動かすだけで、残る後味を確かに感じさせる。だが脂や臭みと違って明らかに、心地良さと安心が殆ど。
…………ブラックのコーヒーだと、残る苦みが気を引き締めるよね。
使い分けの重要性を改めて感じ、僕は追加でブラックを注文する。残りを飲みきり追加を含み、舌を洗って苦さで覆う。これから扱う大部分は男だから、終わってから特上の甘みで上書きすればいい。
――――代金をテーブルに置き、席を立つ。
「ごちそうさま。また明日ね」
「今夜は来ないの?」
「日が変わるまでに終わるかわかんないんだよね。もしかしたらモーニングにディナーを食べに来るかも」
「頑張れよぉ~」
「他人事だと思って……っ」