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第十五話 エッチなアンデッドの特別公共サービス 前編

「ねぇ、サラ? 噴水広場のアレって、何か知ってる?」




 お昼のホットドッグと甘々コーヒーに舌鼓を打ち、もぐもぐしている僕を引き気味のレアルが尋ねてくる。


 彼の作ったトマトサルサは良い味で、刻んだトマトと潰したトマトと生の玉ねぎに炒めた玉ねぎ。


 同じ食材を異なる状態で混ぜ合わせ、不均一なのに統一された味わいを奏でる。特に生のトマトと玉ねぎの新鮮さが、火を加えられたトマトと玉ねぎによってマイルドな仕上がり。粗引きの胡椒もピリッとカリッと、味と食感に絶妙なアクセント。


 ――――うん、そう、胡椒。


 胡椒が全ての原因だ。




「盗賊と組んだ商人が、胡椒を積んだキャラバンを襲わせて値を吊り上げようとしたんだって。いろんなところに被害が及んでて、その見せしめ」


「家族全員アンデッド化して、男は投げナイフの的で女は公共用性処理用具? いくら何でも人間的な良識に欠けるっていうか……」


「僕達にとっては今更だけど、確かに一般向けにはちょっとね……。ただ、今回の件は各魔術科と自治部門の総意って話だよ? うちのボスもかなり怒ってた」


「死霊術科長が怒るって何やったの……?」


「多分、勇者関連じゃない? あの人、勇者の遺体収集に人生全力だから」




 焼き目のついたソーセージに歯を入れて、パリッ、グジュッ、ジュワッの3拍子。


 溢れた肉汁が口の中で弾け、一部は流れ踊り、一部はパンの気泡に染みて混ざる。豚肉100%の暴力を、角切り野菜入りソースが受け止めてスッキリさっぱり。飲み下した後は別乗せのパセリをほんの少し齧り、残る脂を苦みで中和。


 …………子供の頃は、苦手だったんだけどね。


 効能と適量を知ると、ハーブは肉料理になくてはならない。




「ま、ちょっともったいなくはあるよ。商人の娘、良い環境で育ったおかげかおっぱい特盛のスタイル抜群だったから」


「凄かったね。Lカップはあったよね」


「今週いっぱい大広場で公開して、最終日にその場で競りにかけるって。売り上げは被害者救済の予算に回す。施術した僕達には銅貨の1枚も入ってこない……」


「宣伝にはなるでしょ? エッチアンデッド娼館、2号店オープンしたんだよね?」


「それ、レアルが原因だからねっ? わかってると思うけどっ」


「んん~? 私、知らない~」




 コレで許してと言わんばかりに、焼き立てソーセージを2本置かれる。


 カリカリに焼かれた皮の中で、融けた脂がジュクジュク泡泡。破けるギリギリまで熱された限界は、中身の熱々と香ばしさを物語る。既に香る肉汁の匂いに、食欲が刺激されフォークを突き刺す。


 『ぶしゅっ!』の勢いで噴き出す輝き。


 後で残らずパンに染みさせるとして、『パリッ!』少し越えの『カリッ!』で怒りを解す。




「もきゅもきゅ…………んぐっ、おっぱい鑑賞ディナー会用に、アンデッド娼婦をストックしようとしたら本店舗だけじゃ足りなくなったんだからねっ?」


「エッチなアンデッドのクライマックス生本番、反響凄かったよね~。次回以降の開催は抽選方式かな? 敗北超乳女騎士3姉妹は、天井から吊り下げて触手レイプオブジェとして展示するよ」


「よくもまぁ纏めて落札できたよねっ」


「魔物の討伐依頼受けまくって、依頼先で高ランクの魔物も狩りまくったから。高い買い物だったけど、ウェイトレスも任せられて本当に助かってる。むしろ楽すぎて、うちも店を拡げようかな?」


「超乳ウェイトレス目当ての客が増えたよね…………おっぱいもお尻もだぷんだぷん揺らして、女性客すら目で追ってるもん……」


「女性もおっきいおっぱいは好き。もっと早く知りたかったね」




 張った皮の音をもう一度響かせ、後ろを向いてフロアの満席。


 テーブルの間を滑らかに優雅に、3体の長身超乳ウェイトレスが料理を運ぶ。給仕服は着て下着はつけず、明らかな尖りを浮かせて主張。覆われていても隠し切れないエッチな雌を見つめ、連れの女性に蹴られる男はなんと微笑ましく和やかなこと。


 パリパリカリカリのソーセージが、茹でたジャガイモのようにホクホク感じた。




「アンデッドの雇用とか出てくるのかな?」


「その辺りの制度的な物を、学園長と理事長とボスで作ってる。でも、他者への貸し出しや就労は制限されると思うよ。あくまでもアンデッドは所有物であり、適切な管理の下で扱われるべきって」


「それには私も同意かな。自分の目の届かないところで、何をされるかわからないって不安が付きまとう。盗まれて売り飛ばされてってこともあるんじゃない?」


「現にあったよ。娼婦アンデッドの連れ出し旅行プランで、駆け落ちみたいに行方を眩ますの。事前に想定して対策してたから、ちゃんと戻ってきたけどね」


「怖いねぇ……」




 粒マスタードの小瓶を渡され、皿の端に盛って2本目の端をつけて口に。


 ツンと来る酸味と辛味が脂と交わり、棘を抜かれて肉に合流。酸で締まったコクはまるで、鍛えた女騎士の乳房を思わせる。


 重く、張りがあり、柔らかいのに濃厚。


 苦みのパセリとは違ったアピールは、乱れかけた心に刺激と落ち着きを供してくれた。二口三口、四口で丸っと。こぼれた肉汁は食べかけのホットドッグに吸わせてガブッと、もぐもぐ一気に胃の中へ収める。


 ――――コーヒーの前に、苦い緑。


 幸せと苦しみの交互は幸せ。




「ま、仕方ない。人間、信じすぎるのは毒ってね」

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