第十二話 エッチなアンデッドと温泉旅行 後編
『おぉおぉっ、最高だっ! ベッドでは冷たいのに、温泉だとナカまで熱々で最高だよぉおおっ!』
カフェの窓から性的に興奮した男の声がして、興味を惹かれた通行人が開いた隙間からこちらを覗く。
丸いテーブルに3人で座り、小さなグラスで酒飲みながら幻魔術の温泉エッチ鑑賞。
エッチなロリ超乳アンデッドへの貪りは、娼館でスる個室のそれより濃密で激しい。そして気になった『ベッドだと冷たいのに、温泉だと熱々』。アンデッドの冷たい身体に興奮する同志達が、まさか生身の温もりに目覚め堕ちたのか?
だが、男の両の手は女体の首に。
締めてガクガク、するがままされるがまま。
「生身だったら死んでるね。13分ずっと首絞めっぱなし」
「温泉旅行先で絞殺プレイ? 従業員に手形残ってる事後アンデッド見つかって、役人呼ばれて捕まりそう……」
「ま、要するにだ。旅行先ってのは世間的、日常的な生活から切り離された世界。あらゆるものが刺激的に見えて、その中でエッチしたらどれだけ気持ち良いのかって考える。実際にヤるとたまらなく興奮して、普段やらないような内容もヤりまくりが常識なんだよ」
「『旅の恥はかき捨て』って奴ね。ま、素材とアンデッド化の費用は5回程度で相殺できるし、あのくらいなら許容内ってところ? でもナカが熱々のエッチアンデッド……うぅ~ん…………」
「サラにこだわりがあるのはわかるけど、料理も同じだよ? 私は冷やしたワインが好きだけど、温かいのが好きな人もいる。温いのが好きって人もいるかもしれない」
「レアルの店では全部メニューにあるよね……。提供する側として、顧客の多様な好みに割り切る必要がある、か。あぁぁぁぁぁ…………自分用のエッチアンデッドがあれば、逃避先にできるのにぃぃ……」
グラスを持ったままテーブルに突っ伏し、飲みかけを揺らして心中を示す。
新しく素晴らしい味に慣れ、ふと気づいた飲酒後の澄んだ酔い。灰汁のように残る重さがなく、3杯目を半分飲んで『あれ?』ともう1つ違和感に気付いた。
――――さっきと、味が違う?
雪解け水のような味のキレが、少し和らいで香水のような丸さに。香気の抜けでも起こったのか、一度飲み干して4杯目を注ぐ。再度口をつけて冷たい水の鋭さが突き、研究者の好奇心を面白いくらい刺激した。
やったことと言えば、注いで間をおいてちょっとグラスで回したくらい。
思っているより、このお酒の成分は繊細なのか?
「ん……ん? ねぇ、サラ? アンデッドの身体が柔らかくなってない?」
「そりゃ、冷えた身体より温かい身体の方が柔軟性は高い――――あっ、そういうことか」
「どうした? 何かわかったか?」
「アンデッドのナカって、冷たいハードタイプが主流なんだ。ロリみたいなただでさえ柔らかい身体でも、ソフトながらもハード寄りの肉質。それが温泉に浸けて十分温めると、ソフト側に寄って別の味が出てくる」
「あぁ、ベッドのハードと温泉のソフトで両方を楽しめるのか。温泉エッチアンデッド旅行、多分これからかなり流行るね。いっそ娼館にも入浴施設作ったら?」
「環境魔術科に協力要請かな……。この辺りでも温泉って出るかな?」
「温泉じゃなくお風呂で良いと思う。ベッド、ベッドとお風呂、ベッドと温泉。エッチに幾つかのパターンあれば、同じアンデッドでも別のエッチが楽しめる。長期的な運用で有利になるよ」
「飽きの防止か。重要だよな」
レアルの提案に2度3度頷き、エリンは幻魔術の映像を寝室分に切り替えた。
変わらず首絞め組み敷き腰振りぱんぱん。
温泉上がりらしく、上気した肌と興奮が見て取れる。対してエッチアンデッドの身体は柔軟性を欠いてきて、最終的にはいつも通りのハードに戻った。この変化がたまらないのか、男は激しく更に貪る。
…………そうか。ソフトからハードへの状態変化。
コレ、まさしく首絞めエッチの再現になるんだ。
「……現場からのフィードバックって大切だね」
「なぁなぁ、素材調達旅行とか行かねぇっ? 良いの見つけたらその場でアンデッドにしてくれよっ」
「素人の同行は認められません」
「素人ってなんだよっ!?」
「命の危険があるからね。状態の良いアンデッドの殆どは『病死』が死因。外見に影響しない内臓系の伝染病で、身体が消耗する間もなく死に至る強毒即効が理想となる。僕達でも一歩間違えば全滅なのに、エリンの同行なんて認められるわけないじゃない」
「伝染病の流行地に旅行? そんなの死にに行くのと同じじゃないか……」
「でも処女やロリの死体が大量に手に入るんだ。治癒魔術科と環境魔術科と時空魔術科に、進行中案件の賠償金肩代わりして土下座してでもプロジェクトチーム組んでもらうくらい重要。今回の温泉エッチ旅行に送ったのも、カルラリア風邪の流行で全滅した村の娘達だよ」
「あん時に死霊術科が参加してたのってそれかっ! アンデッドに生存者の捜索とか世話とかさせてるのかと思ってたぞっ!?」
「ソレもやってたよ。でも手遅れだったから仕方ないよね。親も子も家族全員死亡で、弔う人がいないなら貰って行っても文句言われないもんね」
「コイツ……白々しい……っ」
疑惑と不審の目をよそに、減ってきた酒瓶を振って残り1杯と推定する。
目の前の2人も水音で同じ判断。テーブル中央にグラスを置き、注ぐ場所はわかるなと圧をかける。にんまり笑顔で自分のグラスに、ちょびっと注いで他の2つも。
――――底に小指1本あるかどうか。
心の底には不足ながら、足りない分は次への活力だ。
「お店に入荷できるよう頑張るよ」
「素材調達も頑張るよ」
「私は…………両方買えるように仕事増やすか……」