第十一話 エッチなアンデッドと温泉旅行 前編
遠い異国の透明なお酒。
米を精して発酵させ、濾して余計の一切を省く。余計は余計で味があるのに、10を2に分ける減算の至高。果たしてそれは省いただけか、10を5回味わいたい強欲の極みか。
ちなみに、僕はどちらかと言えば強欲寄り。
酒の絞り粕に砂糖を加え、水で煮込むと甘くておいしい。
「うぅぅぅんっ、良いお味っ」
「でも肴が難しいね。お店で出す料理と合いそうで合わない」
「白身魚が合うって話だったけど、ムニエルは微妙だよね。単なる塩焼きの方がずっと合う」
「おっ!? なんだよなんだよっ、美味そうな香りしてんなぁっ!? 私にも瓶で寄越せっ!」
「これ1本しかないからグラスでね」
「けちぃっ!」
原料が米と信じられない澄んだ糖とアルコールの香りで、褐色の肌を煤と汗で汚すロリドワーフが釣れた。
お酒と一緒にもらった小さな器に、持てばこぼれそうなくらいなみなみ注ぐ。親指と中指で輪を作ったくらいのガラス製。曇りも淀みも一切ない透き通りで、液体の光屈折が無ければ空と見紛う。
そっと手を差し伸べると、文句と困惑を混ぜた戸惑い1つ。
「ぇぇ……なぁ? 普通のグラスで普通にくれれば良いんだけど……」
「こぼしちゃだめだよ?」
「鬼かっ!?」
「産地では『口で迎える』って風習があるらしいよ。こっちでは『器に口を寄せるのは家畜みたい』って印象があるけど」
「『食に敬意を持ってお迎えする』から、向こうでは一種の作法だとか。あっ、時空魔術科のゲネマ先生のお土産だよっ。あとで味の感想を教えてあげてっ」
「あの陰キャ野郎と仲良いよな、サラ」
「そりゃもう。大口のスポンサーで女体の趣味も合うし」
いつものようにテーブルの上で幻魔術を使い、グラスの酒に全裸青肌ロリ超乳アンデッドを下乳表面まで浸からせた。
遠く東の地の山奥に、自然の湯が湧く『温泉』がある、と。
時空魔術科が総力を結集し、現地まで旅して転移移動マーカーを設置したのが先週の事。実に半年に渡る長旅であり、派遣部隊の1人がロリ超乳愛好家として親交が深いゲネマ時空魔術主任教授だ。提携する科全体で祝いをし、労をねぎらう為にエッチなロリ超乳アンデッドを人数分送ってあげた。
――――酒の中の幻アンデッドが、男の手に弄られる。
何が始まるか察して急ぎ、エリンの口がグラスに吸い付いた。
「じゅるるるるっ――――っかぁあっ! なんだこれっ!? 喉はカッ!とくるのにスッキリしてて辛くて甘いっ!」
「似た感じのお酒はあるけど、ここまでの爽やかさと酒精、甘みを合わせたのはそうないよね。ワインのようなコクじゃなく、蒸留酒の突き抜ける強さでもない。なんだろ…………炭酸水で割った白を、炭酸なくして3割濃くした感じ?」
「個人的には7割じゃないかな――そうだ、エリンっ。向こうだと爆乳娘の谷間にコレを注いで、飲みながらヤるプレイがあるんだってっ。ゲネマ先生、ヤり過ぎて赤玉出そうって言ってたよっ」
「転移門固定したんだよなっ? 私用に超乳アンデッド用意しろよっ。1週間くらい行ってくるっ」
「娼婦アンデッドの連れ出し旅行プランで出払っててねっ。素材も無いからかなり待ってっ?」
「むぎゃぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」
騒いで暴れる淫酒乱雌ドワーフにお代わりを注ぎ、こぼれるギリギリまでやって酒好きの力で黙らせる。
本当の酒好きは、ただの1滴すら一生惜しむ。
製造年、原材料、製造中と保存中の温度湿度日照、道具に工程の微細な違い等で1本1本の味は変わる。普通なら気にもしない差ではあるが、酒好きはその差を個性と楽しむのだ。一期一会の火遊びの如く、今宵の一杯は渇くか湿るか。
女と酒好きの友人は言う。
『一口目は娼館の新人指名と同じだ』と。
「くっそっ! 限界まで注ぐしっ、よく見たら器もかなりの代物じゃねぇかっ! もっと一度に飲ませろって文句しか言えねぇっ!」
「でもドワーフがこのお酒知ったら、大勢で転移旅行して買い占めてくるだろうね。転移料金高くなって、店への仕入れ値も上がりそう……」
「うちの娼館もフル稼働だよ。向こうで何かあった時用に、出張メンテセットと要員の半分を送ってる。まだ話が広まって3日経ってないのに。エッチなアンデッドと温泉エッチ旅行するのが原因不明の大人気。何が理由なのかなぁ……?」
「本気で言ってんのか? 泊まりで旅行って言ったらするのはエッチだろ?」
目を離した一瞬でグラスを空にし、中をアピールして早く注げとエリンは急いた。