第十話 エッチなアンデッドは冒険者のバディかエチィか 後編
僕達の疑問を一旦置いて、レアルは重ねていたビスケットを剥がして置いて剥がして置いた。
食べ物で遊ぶのは行儀が良くない。しかし、彼は彼なりの考えを披露する為に敢えてしている。叱るのは内容を聞いてからにするとして、触手の動きをつぶさに観察する。
「このビスケットとジャムの連なりを技Aとして、技Aには個別の動作が幾つもある。その個別動作を連続させれば、超一流の精度で技を繰り出せるんじゃない?」
「うぅ~ん…………着眼点は良いんだけど、現実的じゃない」
「なんで?」
「上段、中段、下段の突き。相手が僕かダレス殿として、全部高さと角度が違うでしょ? 視覚等の情報を判断し、正確に動かすのが脳であり神経。足場のぬかるみや不安定さの対処も含め、何万何億って制御を人はしてるの。それ全部を術式に組み込むなんて、何千年かかってできるかどうか」
「え゛? そんななのっ?」
「そんななの。でも、性技に関しては実用レベルだよ。膣内の蠢きなんて、何百何千ってパターンのループをアンデッドの判断で行える。次世代のエッチなアンデッドから組み込んでいって、娼館での反応を見ながら改良していく予定」
「エロと戦争は世界発展の礎、か。いっそのこと、アンデッドに床での暗殺術を仕込む方が簡単ではないだろうか?」
「ヴァギナ・デンタータはエッチなアンデッドに組み込みたくないなぁ……」
レアルが分解したジャムビスケットを拾って纏め、所有者の口に一気に放り込む。
勢い余ってむせ始め、紅茶を渡して飲ませたら派手に噴いた。割と濃い目で冷めていて、苦みが強く出てしまっていたか。熱い、温かい、温い、冷たい、全てで味が変わるのは本当に面白い。
というか、お子様舌なのが良くない。
苦みを楽しめてこそ大人だよ?
「げほっ、げほっ、げほっ!」
「当面は依頼先での食事、宿泊、娼館の利用を控えさせるしかないか……」
「あっ、戦闘以外ならエッチなアンデッドがおすすめですよっ。裏切らない、寝首を掻かない、気持ち良い、ご飯いらない、一般人は避ける。最悪使い捨ての殿にもできますっ」
「ふむ……ちなみに料金は?」
「買い取りはこちら。時間貸しはこちら」
「ギルドから購入費用補助を出すとして…………2体まで3割と言ったところか。期間限定を明示しないと、際限なく申請が来そうだな……」
「購入補助を目当てに、他の都市から流入もあるかも?」
「そうなると依頼実績が必要か…………レアル。むせてないで、お前の意見も聞かせろ」
「この……ッ。サラは後でおしおきだからねっ?」
恨みがましい瞳に手を振り、ナイフでスコーンを真横に半分に。
単品ならもそもそとした食感が、多めのジャムと一緒に食べるとしっとり口の中でとろけて混ざる。
小さい頃はこれが苦手だった。経済的に豊かでなく、ハニーシロップをケチっていたのもあるかもしれない。大人になって十分以上をつけられるようになり、本物を知れてからお茶会は楽しい。
他科との交流も、お茶会でやってみようか。
治癒魔術科の娘達は喜んでくれる。淫魔術科は媚薬混入に目を光らせないと。時空魔術科は茶葉保存用の魔容器を開発してくるか? 精霊魔術科――――あっ、アンデッドに精霊を憑依させるのはどうだろう?
いやでも、精霊と親密に交流してる研究員ってそんなにいた?
っていうか、在籍者の半数も研究室にいないよね?
「ダレス殿。ギルドに精霊魔術師は何人いますか?」
「ん……確か5人だった気が…………覚えてるか?」
「えぇっと…………A級に2人、B級に1人、D級にA級の弟子が2人です。みんな良い子達ですよ。精霊との仲が良すぎて、彼女ができないってぼやくくらい」
「あっ、そうなんだ。じゃあ丁度良いかも」
「…………一体何を考え付いたの?」
「うん。アンデッドの身体に精霊が憑依したら、そのまま戦力になってエッチも出来て魔力供給も効率良くなって万々歳かなって」
煮出して薄くなった茶葉をティーポットから出し、すすいで別の茶葉を新しく入れる。
お湯を注いで揺らして蒸らし、カップに注ぐと濃く透き通った茶。
前の枯れ葉を精して燻した香りから、若葉を精して搾った香りに。ポットが同じでも色も味も、『紅茶』という一点以外別の代物。一口含むと雨上がりの青がそよ風に吹き抜け、夕暮れの秋から夏に変わる。
この変化は、良い変化だ。
しかして、アンデッドと精霊は如何になるか?
「一度打診してみて頂けますか? その筋が上手くいけば、ソロの冒険者にアンデッドパーティを組ませられるかもしれません」