表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/27

第一話 エッチなアンデッドはちゃんといます 前編

 リンゴンリンゴンリンゴンリンゴンリンゴンリンゴン――――!


 都市中央の時計塔からはた迷惑な鐘が鳴り響き、本日の終礼をカフェの窓際で迎える。


 石畳でほぼ一面舗装され、清掃も行き届いたレンガの街並み。平和と戦乱が入り交じる世の中にあって、この魔術学園都市『パルパノン』は剣戟も魔法合戦も城壁の外。生徒や教師や研究者達の喧噪はそこそこで、夕日を浴びながらカップのコーヒーに砂糖を3杯。


 2でも、4でもない。


 3。一杯のコーヒーには3杯の砂糖こそ至高だ。




「おっ? まぁたお子様コーヒーかよ、サラ?」


「ごきげんよう、エリン。相変わらずロリロリしいね」


「テメェも他人のこと言えんのかっ? このロリ偽装ショタダークエルフッ」




 布で巻かれた長物を肩にかけ、130cm代の赤髪ドワーフがテーブルに同席する。


 ろくに手入れをしていないぼさぼさのショートヘアーと、全く育つ気配を見せない膨らみかけは相変わらず。


 いくら外見ロリから成長しないドワーフ族でも、残念で可哀そうで手を差し伸べたくなるスタイルだ。いっそ僕好みの超乳に肉体改造しようか。治癒魔術科と共同開発した肉体操作魔術は、既に実用段階に至っている。


 ――――うん、やっぱり砂糖3杯のコーヒーは美味しい。




「ショタをロリと間違えて、手籠めにしようとしたレズドワーフに言われたくないね」


「アレはもう手打ちになっただろっ!? それと思い出させるなっ! 一生の恥だっ!」


「はいはい、喧嘩しないでオーダーしてね。そろそろディナータイムだけど、食事はどうする?」




 髪の毛の代わりに30本の触手を伸ばし、カフェ内の給仕片付け清掃と調理までこなす優男が声をかける。


 テンタクルスと呼ばれる触手人間で、レアルという名を持つ彼が店のマスターだ。


 本来は森の奥地で女性を捕らえ、繁殖に利用する害悪種族。しかし理性と協調性と社会性を持ち、無害な彼は外に出てきた。迫害に遭って流れに流れて、今はこの都市でカフェを経営している。


 ついでに、僕達はお互いにお得意様。


 僕は死霊術、彼は飲食店でそれぞれを提供する。




「厚生地ピザを大サイズで1枚。コーヒーもお代わりで」


「サラだけで食べきれる?」


「大食いドワーフがいるから大丈夫」


「おっ、ラッキー! ありがとよっ、ごちごちっ!」


「はいはい、現金なんだから……」




 触手の1本がカップを持ち、他の1本がコーヒーを注いで、もう2本がピザ生地を伸ばし中空で回す。


 『バイトを募集しても来ないから、一人で全部できるようになった』は彼の言。


 悲しい現実を脇に置いて、僕は残りのコーヒーを一気に干した。溶け残った砂糖を舌で掬い、僅かな苦みと圧倒的な甘み。この甘苦バランスこそ砂糖3杯の神髄で、これを知ってから毎日味わい楽しみ微笑む。


 …………火酒のボトルがエリンの前に。


 キープボトルらしく、ラベルに名前がでかでかと書いてある。




「そういやサラ。ユクセラの戦争に行ってきたんだって?」


「『ゾンビとスケルトンの軍勢を寄越せ』って脅されてね。ちゃんと提供してきたよ。運用できてるかはわからないけど」


「ま、死霊術なんて骨と腐肉と肉喰いと死霊がメインだもんな。お手軽に大量の戦力ってわけだ」


「死霊術師としては誇らしく、同時に悲しいことだよ。費用対効果と効率を求め、最短の研究を続けた成果ってね」




 お代わりのコーヒーを受け取って、砂糖を3杯山盛りドパドパ。


 ピザも続けて運ばれて、湯気立つ熱々をナイフで切り分ける。縦に1本、横に1本。間の斜めに2本で8枚のピースに。そっと手に持ちチーズがとろぉっと、黄色の粘っこい滝が落ちる。


 軽く手首をスナップさせ、落ちかけチーズを生地の上へ。


 下で狙っていたエリンは不満の声を上げ、満面の笑みで僕は口に。もちもち厚みのある生地に、バジルとトマトとチーズのハーモニー。肉や魚などの重みのある食材を使わなくても、十二分の満足を食し味わう。


 うん。シンプルなのに、味わい深い。




「もぐもぐ」


「本当、こうして見てるとショタじゃなくてロリなんだよな、テメェは。治癒魔術科で性転換しねぇ?」


「もぐもぐもぐ……やだぁっ。僕は男で、ちゃんと女の子が好きなんだよ? でもお付き合いとかは面倒だから、都合の良い女体があれば一番」


「それで『エッチなことをしたいから死霊術師を目指す』? 腐りかけの雌で抜けんのか? それとも骨でもイけんの?」


「全く……アンデッドに対する偏見だよ、ソレ……もぐもぐんぐっ」




 ピザの一欠けを食べきり、僕は指に付いたチーズの油を舐めて取った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ