6.親友
11月。
碧はやっと学校に馴染めてきて、幸せな日々を送っている。
それは毎日会って話しかけてくれる優と美琴や、毎日連絡をくれる結、時々お金や日用品を送ったり連絡をくれる遥のおかげだろう。
そして現在。
碧は優と美琴と一緒に那覇空港にいる。
東京に住む結が、沖縄へ遊びに来るからだ。
さかのぼること1週間前。
碧は結にいつものように連絡をしていた。
[やっほ~、結。いつも連絡ありがと! で、何かお願いがあるって聞いたんだけど……?]
碧がメッセージを送信する。
するとすぐに既読になった。
[あのさ、急だけど……私来週の連休使ってそっちに遊びに行きたいんだ。で、厚かましいけど、空港まで迎えに来てほしくって……]
[ずいぶん急だねΣ(・ω・ノ)ノ! でも何で急に?]
[そりゃ碧の様子とその……碧がよく話す優ちゃんって子に会いたいから!]
[へえ……別にいいと思うけど……]
[ホント!? ありがと‼ 飛行機のチケットはとってあるし、宿泊するのはは碧の家って考えてるから!]
結から交互にトークをする。
「……ハ!? 私の家がホテルって……」
結のメッセージを読んだ碧が苦笑いをした。
そんな成り行きで、何時の便なのかなどと、碧と結は打ち合わせをした。
そのことを碧が優と美琴に2人の部屋で話すと
「そうなの!? じゃ、私たちも空港へ行っていい? 車で送るから!」
と、美琴が顔を嬉しそうにさせながら聞いてきた。
「えっ、別に大丈夫ですけど……」
碧は何故美琴がウキウキしているのか分からず、困惑しながら返事をした。
「みこ姉、碧が困惑してるじゃん」
優が美琴に注意する。
「え、あ、ごめんね。もう、碧ちゃんは私の家族みたいなもんだからさっ! 友達連れてくるって聞いたら母親みたいに嬉しくなっちゃうじゃん? それに、私もその子に会ってみたいし」
そう言って、美琴がニカッと笑った。
「私も結ちゃんって子に会いたい! ね、碧。もう1回聞くけど、空港行くのついて行っていい?」
「うん、いいよ! 結にも伝えとくね」
そのあと3人で雑談し、碧は2人の部屋を後にした。
碧は自分の部屋に戻ってから、しばらくボーっとしていた。
『家族』。
その言葉が耳にこびりついて離れない。
何度も何度も美琴が言っていた言葉を脳内で再生し、碧は嬉しそうに笑った。
そして現在に至る。
碧と優は美琴の車に揺られ、約2時間で那覇空港に到着した。
「何時の便だっけ?」
空港内に入り、国内線到着口前で美琴が時刻表を見ながら尋ねる。
「えっと、10時半到着の便です……」
碧は結とのトーク履歴を確認し、スマホ画面上記の時計を見る。
「今、10時28分なので、もうすぐですね」
「じゃ、碧は結ちゃんが、その結ちゃんって子が居るか見といてよ。ウチらは顔知らないし」
優が話し終わった直後、ぞろぞろと到着口から人が出てきた。
碧は目を凝らしながら結の姿を探す。
人々の最後尾で、結を見つけた。
碧が呼ぼうとしたが、結の方が早かったようだ。
「あ、碧~!」
結がブンブンと大きく手を振りながら碧たちのもとに駆け寄ってくる。
「久しぶり!」
結は碧に勢いよく抱きつく。
そのまま数秒たち、結が碧の首に巻きつけた手を離した。
「会えて良かったあ! ……あ、この人たちって……」
結はようやく優と美琴の存在に気付いたらしい。
「えと、私の親友の優と、その……」
保護者……と言いかけようとしたところで、碧はピタリと止まった。
「私は優の保護者の美琴です。よろしくね」
碧の言葉を引き継ぐように美琴が喋った。
碧は美琴に向かって代わりに喋ってくれたことへの感謝のため、アイコンタクトを送った。
「あ、そうなんですか。私は、碧の親友の結です……!」
結が恥ずかしそうに自己紹介をした。
「よろしくう! じゃ、結って呼ばせてもらってもいい!?
私の事も呼び捨てでいいから!」
優が元気に話しかける。
碧は自分が優と初めて会った時と変わらない態度見て、クスっと笑った。
「い、いいよ! よ、よろしく、優!」
一方、結は緊張していてカチコチだが、とても嬉しそうだった。
「……じゃ、自己紹介も済んだし、観光しよっか! せっかく結ちゃんが来たのに、沖縄観光しないなんてもったいないしぃ、碧ちゃんも沖縄に来て遠出はしてないようだから。ハイッ、決まり! このためにわざわざ旅行、計画したんだから‼ もちろん日帰りだけど」
美琴のいきなりの宣言に、碧と結はポカンとしたが、すぐに自分たち以上にこの日を楽しみにしていた美琴をみて、フフッと笑った。
「さ、早く行くよ! 結ちゃんの荷物はトランクに積んじゃうから!」
「あ、荷物受け取るの忘れてた……取ってきますね」
結が預けていた荷物を手荷物受取所で受け取ると、4人は足早に空港を出た。
その後――――
以前碧が見向きもせずに通り過ぎた美ら海水族館へ行ってジンベエザメを見たり、沖縄そばを食べたり、グァバジュースを飲んだり、海洋博公園のエメラルドビーチを眺めたりした。
帰る頃には午後8時を回っていた。
「ごめんねえ。案外遅くなっちゃって……」
「ホントごめん! みこ姉がはしゃぎすぎちゃって……」
「アンタが一番はしゃいでたでしょーが!」
そう言って、美琴が優の頭を軽く殴る。
「いてっ」
「今日は楽しかったよ、2人とも! 結ちゃんは明日もう東京へ帰っちゃうんだよね……寂しいなあ。ホント、碧ちゃんと結ちゃんは優しくて穏やかで……ウチの優ももう少し穏やかになってほしいもんだわ! ……あ、もちろん帰りも空港まで送るからね! じゃ、おやすみ~」
優の頬をつねってから、美琴は自室に入ろうとする。
「あ、待ってください! 今日の分のお金、支払うので!」
「私も! 払います!」
碧と結が美琴を呼び止める。
そう、今日の旅行の旅費は、全て美琴が出したものなのだ。
すると美琴は振り向いてニコッと笑うと、
「いーの、いーの! 私たちが付き合ってもらっただけだし。こっちがお礼言う側だよ~」
「そ、そんなあ……」
碧と結が困った声を出す。
「いいから! ね?」
「あ、ありがとうございます……!」
2人はぺこりと頭を下げた。
そのあと、美琴はもう一度おやすみと言って自室の戻った。
「じゃあね、碧! 結!また明日~」
優も2人に手を振ると、自室に戻り、ドアをパタンと閉めた。
碧と結も手を振ると、碧の部屋に入った。
「窮屈だけど……あ、布団も用意したから」
「ありがと~。こんなに用意してもらっちゃって……あ、でもおかまいなくね!」
碧の部屋にはいかにも新品の敷布団と羽毛布団が碧が使うベッドの隣に用意されていた。
「さ、シャワー浴びちゃお。先に使って!」
「ありがとう!」
2人は順番にシャワーを浴び、今までの出来事をスナック菓子を片手に話していた。
話が終わるころには午後11時過ぎになっていた。
「うわ、もうこんな時間かあ。なんかあっという間だね。明日には帰るの寂しいなあ」
結が明るくふるまって話す。
だが内心はやっぱりとても寂しいらしく、最後の方は消え入りそうな声だった。
「……ね……」
碧は寂しさを隠しきれず、悲しそうな声同調した。
そこから数分沈黙する。
「……ねえ。この窓から見える星、キレイだね」
沈黙に耐えきれなかったのか、結が口を開いた。
「……うん、キレイでしょう?」
碧が答えた。
「ねー……」
結はしばらく星を眺めてから、話し出した。
「あのさあ、碧。水族館に行って、碧と美琴さんだけで魚を見に行ってた時あったじゃん?」
「うん……?」
「あの時、優と家庭の事を話したんだよね、それぞれのこと。こんなこと言っちゃ失礼だけど、同じ境遇の人がいて少し安心したんだ。自分の話を凄くわかってくれたからさ。
……だからさ!碧と同じ境遇にはいないし感じ方も考え方も違うから、分かれないこともあるけど……いつでも話聞くからね。もしも辛かったら、頼ってね! 東京と沖縄なんて、近いんだから!」
結が碧の目をまっすぐ見つめた。
その目はまるで星のようにきらきらと輝いていた。
「うん。ありがと……!」
碧は嬉しさなのか寂しさなのか分からないぐちゃぐちゃな感情に浸り、涙が少しこぼれた。
「何泣いてんだよ~。涙は似合わないぞ!」
結は笑いながら軽口をたたいた。
その後2人は眠りにつき、短い夜が明けた。
朝6時半。
碧と結はリンゴジャムを塗った食パンと即席コーンスープを食べる。
荷物をまとめ、8時頃に優と美琴に会い、車で空港へ向かった。
車内では話が絶えず、笑い声であふれていた。
空港に着いた後は空港内のショップでお土産を買ったり、レストランで昼食を食べたりした。
午後12時半。
そろそろ結が飛行機に乗る時間だ。
「美琴さん、何から何までありがとうございました! 優もありがとう。私も碧の事助けるけど、今碧にとって1番の存在は優だから、碧の事よろしくね。1番の存在を取られるのは悔しいけど!」
「任せて! たとえ碧にとって2番の存在でも、碧の事助けるから!」
優が結に胸を張って答えた。
碧は大真面目で「碧を助ける」と言う2人の言葉にこそばゆくなる。
結は優に向かって「頼もしい!」というと、碧の方を向いた。
察した美琴は優を連れて近くの椅子に座る。
結が口を開く。
「……碧。私にとっては碧は1番の親友なんだから、いつでも頼ってね。寂しいけどいつでも会えるし、何かあったら駆けつけるから。……なんか、漫画みたいなクサいセリフ言っちゃったな」
そう言って結はハハッと笑った。
「……私にとっても、結は1番の親友だから。勿論優もだけど。そ、それに私だって結に頼ってほしいんだからね!?」
「アハハ。ありがと!」
必死に頼ってとアピールする自分たちがおかしくなって、碧と結は顔を見合わせて笑った。
その直後、結が乗る便のアナウンスが入る。
「そろそろ行かなきゃ。じゃあね、また来るからね!」
そう言って結は搭乗待合室に向かった。
椅子に座っていた優と美琴も立ち上がり、碧とともに結に手を振った。