値引シールの使い方
1日が終わるとまた明日が始まる。
寝たらスーパーのパートに行ってまた同じ仕事をするだけだ。
そんなことを考えながら布団の中で目を閉じた。
「…………」
朝、目が覚めるとカーテン越しに陽光が差し込んでいる。
今日は月曜日だからパートだな。
重い体を起こして洗面所へ向かう。
顔を洗い、歯を磨き、
キッチンでパンをトースターに入れて焼き始める。
その間にコーヒーを入れてテーブルに置き、椅子に座ってテレビをつける。
ニュース番組を見ながらパンが焼けるのを待つ。
そうしていると夫が起きてきた。
「おはようキャサリン」
「おはようジョニー」
彼女は笑顔を作って返事をする。
夫は席についてコーヒーを飲み始めた。
キャサリンもコーヒーを飲む。
いつもと同じ朝の光景だ。
チンと音がして数枚の食パンが焼きあがった。
それを皿に乗せてテーブルに向かう。
夫の前に置いて自分も向かい合って座った。
すると夫が言った。
「ずっと前から思ってたがあんた食べ過ぎじゃないか?」
「あら、どうしてかしら?」
キャサリンは不思議そうな顔を作る。
夫は呆れたような顔をした。
「いや、これ以上太られたら健康に悪いだろ? いい加減ダイエットでもしたらどうなんだ?」
「そうしたいんだけど食欲が止まらないのよねぇ~。
困っちゃうわぁ~」
キャサリンは大げさに肩をすくめてみせた。
彼女は食パンの上にピーナッツバターを塗りその上に同じ事をした食パンを数枚、重ねて食べるという行為をしていた。
それはこの上なく美味しかった。
何枚でも食べられそうだ。
「それに私まだ若いから大丈夫よぉ~」
「そうか……ならいいんだが……。まあほどほどにしときなよ」
夫は納得いかない様子だったが、それ以上は何も言わなかった。
それからしばらく他愛もない会話をして朝食を食べ終えた二人は一緒に家を出た。
夫は会社へ行きキャサリンはスーパーマーケットまで徒歩で向かう。
そしていつも通り仕事をこなす。
日が暮れてくると店長のオリーが近づいてきて話しかけてきた。
「キャサリンさん、申し訳ないのだが暗くなってきたから君にはなまものに値引シールを貼る仕事を頼みたいのだけれど頼めるかな?」
「えぇもちろんです! 任せてください!」
「助かるよ、じゃあお願いね」
キャサリンは嬉々として値引シールを商品に貼った。
野菜売り場の端から、端までを何度も往復しながら次々と
貼っていく。
途中でキャサリンは値引シールを自分に貼ってから商品に貼った方が楽だと気づいた。
値引シールを一通りの商品に貼り終わってこんな考えが頭に浮かんだ。
毎日このスーパーに貢献してるのだから少しぐらい店の物を頂戴しても構わないでしょ、と。
そうと決まれば行動あるのみだ。
キャサリンは持っていた90%引きシールをこっそりポケットに入れ10%引きシールをそのまま服に付けて帰った。
倹約家だった彼女は休みの日にこっそり自分が通うスーパーでくすねたシールを使うつもりでいた。
その夜キャサリンは盗んだシールを夫に自慢して見せた。
「見てみてジョニーこれ90%引きシールのシートよ! 凄いでしょ!?」
夫は苦笑いをしながら言った。
「ああすごいな……」
彼はそのシールの価値をよくわかっていたからだ。
「週末はこれを使ってごちそうでも買いに行きましょ♪」
「わかったよ」
そしてキャサリンは、夕食をたっぷり食べ、着替えもせずにそのままベッドに寝てしまった。
翌朝彼女は目を覚ますと、体に違和感を感じて、なんだろうと思い自分の体を見ると、服が緩くなっているように感じた。
それから、体重計に乗ってみると、驚きの数字が出ていた。
体重が、昨日たくさん食べてすぐ寝たにもかかわらず1割軽くなっているではないか。
キャサリンはその日から自分は食べても太らない体質だと思い込み、さらに料理をたらふく食べるようになった。
それを見ていたジョニーがこう言った。
「あんまり食べ過ぎると太ってしまうぞ?」
しかしキャサリンは全く気にしなかった。
なぜならいくら食べてもこれ以上は太らないと思っているからだ。
それに愛想を尽かしたジョニーはある日キャサリンが盗んだ90%引きシールを寝ている彼女の体に貼った。
そしてジョニーはこう言い捨てた。
「人の言う事を聞かないお前の価値なんて90パーセント引きだ」
翌日ジョニーが起きるとキャサリンの姿はなかった。
ジョニーはキャサリンを探したが見つからない。
彼はキャサリンに厳しすぎて嫌われて、家出をしてしまったのではないかと半狂乱になって、家の周囲や家の中を探し回ったがどこにもいない。
ジョニーは警察に捜索願を出したが、結局見つからなかった。
その時キャサリンは家の中で必死にジョニーの名前を
叫んでいた。
彼女の体格はなんと90%引きされて小人の様になってたのだ。
そして半泣きになった夫が家に帰ってきたので必死に呼びかけるが彼は気づかない。
「キャシーーーン!!! どこだぁぁ!! 出てこいぃ!!」
「私はここよぉ~! ここにいるわよぅ!」
「ん? 今何か聞こえたような……」
「私よ! キャサリンよ! あなたの妻のキャサリンよ!」
夫の足音が近づいてくる。
ジョニーは家の中をうろうろした。
「おかしいなぁ確かにキャサリンの声がしたはずなんだが……」
そして次の瞬間プチッという音がしたと思ったら彼の足元に赤い血溜まりができていた。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字の報告、★での評価、感想などいただければ嬉しいです。