7 ティータイム
ジョーモン・コミュニティとシャングリラ。交錯する2つの世界・・・。
ここにやってきて2週間ほど経ったある日、採集を終えて軽い昼食を取った後、ムムニイとミウムはマイケルを囲んだティータイムの輪の中にいた。
話は自然とソーラークッカーのことになり、やがて皆が疑問に思っているポイントのことに移った。
今のところ上手く付き合っているとはいえ、チップの存在はやはり何となく恐ろしく、どういう条件でポイントが蓄積されるのか——は全員の関心ごとではあったのだ。
マイケルなら、我々よりは知っていることがあるのではないか?
「実はあのシステムを設計したのも私なんです。」
マイケルがそう告白した時、皆が一様に驚きの表情をした。それを自分自身にも埋め込んでここに来たというのか?
「どうして、また?」
ムムニイが皆の代表みたいに、真っ先にその質問をした。
「実は、シャングリラ・システムの雛形ができてね——。」
と、マイケルはまったく違う話をし始めた。
「自分が実験台になって、機械に入ってからまた戻ってきた時——」
「そんなことができるんですか?」
ムムニイが思わず話の腰を折ってしまった。
「できますよ。」
マイケルは、さらりとそう言ってから、少し意味ありげな微笑を見せた。
「生身の肉体であろうと、機械の身体であろうと、意識を載せるシステムとしては同じです。そう言えるだけのものを開発できたという自信はあります。」
「問題はそこじゃないんですね。帰ってきて再び生身の肉体に意識を載せた時、私は『怖い』と思ってしまったんですよ。ムムニイさんやカラムさんたちが感じたようにね。」
「ひとつ質問していいですか?」
と、ムムニイはまた話の腰を折ったが、それはしかし、ただムムニイが他の人よりも少しだけ声をあげたのが早かっただけだろう。
そこにいる誰もが、たぶん、同じ疑問をわだかまったまま持っていたに違いないのだから。
「その時、つまり戻ってきた時、機械の中の方の『意識』はどうなっているんです? そこでフリーズしたまま残ってるんですか? それともそこにはないんですか?」
「機械側には残っていませんよ。基本的には『移動』というワークは、コピー、ペースト、元データの削除、という作業を一連で行うことですから。」
「それは・・・」
ムムニイは自分が唾を呑み込む音を聞いた。
「それはつまり、機械に移っていた間、マイケルさんの身体の中にはマイケルさんの『意識』は削除されていて存在しなかった——ということですか?」
「それは、そう簡単ではありませんね。意識というのは身体と一体不可分なんです。そこを認識していなかったから、AI 開発者たちは人工意識を創ることができなかったんですよ。」
カラムが「さあ、専門分野に入ってきたぞ」という顔をした。
「生身の身体の方の『意識』は脳のシナプスの形状という形で物理的に残ってしまっていますから、削除はできません。それをしたら、戻ってくることができなくなります。一時的に機能を停止するだけです。」
「それは・・・つまり・・・」
と、今度はシャロンが口を挟んだ。
「向こうに移った人たち——というのはただコピーされただけってこと? 本当の本人はこちらに残ったまま、意識を停止させられて——!」
「それは捉え方の問題です。何が『本人』かということについては・・・」
「私たちはそこに疑問を抱いたから、こちらに残ったのよ! あなたは、さっき怖いって言ったわね? それで両方に残ったんでしょ? 開発者の特権を利用して!」
シャロンの大きな声で、ティータイムに参加していなかった者たちも振り向いた。場の空気が急激に悪くなった。
「どうも・・・」
マイケルが苦笑いしながら頭をかいた。
「ティータイムの雰囲気じゃなくなっちゃいましたね——。またにしましょうか、この話題・・・。私も少し専門的なエリアに入りすぎちゃったかも・・・。」
「そんなふうに逃げるつもりなの? 機能停止させられた『本人』たちはどうなったの?」
さらに食い下がるシャロンの肩に、クルムが手を置いてなだめた。
「まあ、少し落ち着いてから、明日にでもまた話そうよ。この小さなコミュニティの中で、そんなこと今さら追求したって——気まずくなるだけじゃないか。
それに、僕たちが今すぐ『向こうに行け』って言われてるわけじゃない。僕たちは若いし、時間はたっぷりあるんだ。」




