16 コミュニティ
季節は秋を迎えていた。
食糧は豊富に入手できる季節でもあるが、この先には冬が待っている。それに備えるための食糧や薪集めと保存の作業に、コミュニティは忙しかった。
自然、以前のような「お茶会」をする余裕も少なく、話は作業で隣り合った人か、同じ住居の人とすることが多くなった。
秋に入ってからは午後も全員が何かの作業をしている。マイケルとムムニイとトオルの3人は今、冬場に利用するための乾燥した柴を倉庫に積み上げていた。
雪が降る季節になる前にできる限り柴や枯れ草を集め、倉庫に蓄えておかなければならない。
ムムニイはこのごろ、こちらに来てよかったな——と思うことが多くなった。
ジョーモン・テクノロジーだけの原始生活、というと、もっと過酷なものかと思っていたが、それは意外にも「豊か」だった。
人はこれほど「自然」と一体化して暮らせるものなのだ——。ということに半ば驚き、半ば感動しながら、日々新鮮な気持ちでこの数ヶ月を過ごしてきた。
もちろん、ここ自然保護区には、都市の侵食によって寸断され、汚染されてしまった「自然」とは違って、まだ人類生態系が、か細いとはいえ残っている。そうだからこそ、この「豊かさ」がありうる。都市の廃墟や、都市文明による侵食地域、またはそれからの回復途上地域ではこうはいくまい。
それにしても・・・。とムムニイは思わざるを得ない。やはりこのコミュニティが最初にあってムムニイたちを迎えてくれたればこそ、こうして「豊か」に暮らしてもゆけるが、もし彼ら夫婦2人きりだったらどうなっていただろう?
このコミュニティは最初、いったい何人でどのようにして始まったんだろう? 最初の1人だか2人だかは、ムムニイたちのように途方にくれたりしなかったんだろうか?
「ここは、最初は植物学者のケインさんと建築技師のトオルさん、それにセリナさんと私の4人でスタートしました。
ジョーモン・テクノロジーの基礎知識は私が持っていましたが、やはり植物に詳しいケインさんと建築技師のトオルさんの具体的、実践的な知識は大きかったです。セリナさんの料理のセンスもね。」
「それは・・・・」と、ムムニイは柴の束を胸の前に抱えながらマイケルに聞いた。
「ラッキーな組み合わせでしたよね。それとも最初からそういうふうになるように計画して、移住場所を決めるんですか?」
マイケルも柴の束を2束両手にぶら下げてムムニイの横を歩きながら答える。
「コミュニティの最初の核は3〜4人で、その中に必ずジョーモン・テクノロジーについてのレクチャーをひと通り受けた人が1人は配置されます。
さらに、それぞれ別種のスキルを持った組合わせになるように選ばれて、各コミュニティの核は十分な距離をとって自然保護区の周辺に送られます。
委員会が関与するのは、ここまでです。」
「他所にも同じようなコミュニティがたくさんあるんですか !?」
ムムニイは口に出してしまってから、バカなことを聞いた、と思った。2万5千人もの自然保護区への移住者がいるというのに、コミュニティがここだけのはずがないではないか。
「単純計算でも、今現在は全世界で7000ほどのコミュニティがあることになりますね。」
トオルが倉庫の中から柴を受け取りながら言った。
「30〜40人くらいが、1つのコミュニティとしては適切な大きさだと言われていますからね。」
建築技師らしく、数字の計算で説明する。その後をマイケルが継いだ。
「ムムニイさんも経験されたとおり、ジョーモン・テクノロジーの卓越したスキルでもない限り、1人では生きてゆけませんからね。
人間は、ホモ・サピエンスという種は、社会を作って生きてゆく動物ですから。」
「しかしまだ、他のコミュニティの人とは会ったことはないですねぇ。」
トオルが柴を倉庫に積み上げながら言った。
「そりゃあ、十分な距離をとって配置されていますからね。この先、少しずつ保護区の奥の方に移動するようになると、どこかで会うかもしれませんね。」
マイケルが倉庫の梯子を下りながら、楽しそうに言った。
「移動?」
ムムニイが続いて梯子を下りながら、お尻の方を振り返るようにして聞く。
「ええ、ここも36人になりましたし、来春にはもっと奥に移動しようかと思います。1箇所に長く居過ぎると、生態系が疲弊しますからね。
例のポイントの初期設定値は、そのローテーションのための面積が基準になっているんです。何年かしたら、またここに戻ってくることもあるでしょう。その時まで、半栽培の作物が自生しててくれるといいですね。」
「ハァイ!」
クルムとシャロンが採集から帰ってきて皆に声をかけた。
「見て、見て!」
クルムが野ウサギを片手に持って、高くぶら下げて見せた。
「初めて獲れた! 燻製とソーセージ作るよぉ! ポイント上がったら、途中で交代してねー!」
「それくらいじゃ、上がっても2ポイントですよ。」
と、これはマイケル。
みんな、なんだかウキウキしているようだ。
「冬は文化の季節です。これから、屋外ではたいした採集も狩猟もできませんしね。他にすることがないんです。でも、人間の『意識』は、そんな時でも貪欲にクオリアを求め続ける。
だから、冬は僕たち人間にとっては『文化』の季節なんです。シャロンさん達の出番です。彼女、歌、上手いんですよぉ——!」
ああ、それで——。
作業が増えたというのに、古いメンバーがみんな楽しそうに働いているのか。
まもなく、ここにも冬がくる。




