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夢見る機械  作者: Aju


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14/22

14 ポイントシステム

「首筋のポイントのことなんですが・・・・」

 マイケルはその話題に移った。


「皆さんが心配するほど簡単には増えませんし、安易に考えていいほど甘くもない設定になっています。」

「設定した本人だから、ああいう冒険もできるわけなんですね?」

 シャロンの問いには、少しばかり非難の響きが混ざっていた。マイケルは少し苦笑いして頭をかいた。

「まあ・・・、そうとも言えますが・・・。ズルですかね、やっぱり?」

「そんなことはありません。設計者のマイケルさんがリスクを冒してくれてるから、私たちの村はソーラークッカーでこうしてお茶を飲むこともできるんじゃありませんか。」

 ミウムがすかさずマイケルを庇ったことにムムニイは少し驚いた。


 妻はこんなに積極的な発言もするんだ——。こちらに来てから、ミウムは以前より溌剌としてきているような気がする。

「俺もそう思いますよ。このコミュニティにマイケルさんがいてくれることは、俺たちにとっては幸運なことだと思います。」

 トオルも援護する。


「これは——」とカラムが首筋に手を当てて言った。

「センターからコントロールされているんですか? つまり・・・」

「どこからもコントロールされてはいません。最初に設定されたままです。ポイントを加算、減算していって50ポイントを超えたら破裂する。ただそれだけの単純なシステムです。」


「ポイントはどうやって計算されているんですか?」

 セリナ・テブルスという60代くらいの女性が、このお茶会で初めて発言した。不安そうな表情を隠せていない。

「私たちの脳は、自身の行動を認識します。その認識されたクオリアを受信して評価し、環境負荷を計算して、それが許容レベルを超えると1ポイント加算される——というだけのシステムです。ですから———」

 マイケルは自分の首筋をぱちんと叩いて笑った。

「認知症になっちゃうと、もう破裂機能は作動しません。」


 マイケルはミウムが入れた柿の葉茶を一口飲んでから、もう少し踏み込んでもついてこれるかな?——という顔で、皆の顔を眺めまわした。


「環境負荷は、消費エネルギー量に換算された上で、皆さんご存知の数式によって計算されます。」

 この計算式は、30年以上前から繰り返しニュースなどで報道され続けてきたから、知らない人の方が珍しいだろう。

 この計算式に社会の現状が当てはめられては何度も何度も計算が繰り返され、その都度人類社会に絶望を与え続けてきたものだ。


 それが希望へと変わったのは、今、目の前にいる天才=マイケル・ダンが「移住プラン」を提唱してからだった。

 そのプランが実現すれば50億の人類が丸ごと救われる——という計算結果は、半ば以上諦めかかっていた人々の心を鷲掴みにしたのだった。


「この数式内の n の部分に自然保護区のヘクタールあたりの人口比を入れます。

自然保護区への移住者はセンターでは管理しない規則ですから、その数値は平等に、全く同じ数値での初期設定です。」

「初期設定値はどうやって決めたんです? 自然保護区への移住者が増えても更新はしないんですか?」

 カラムが経済学者らしく数字の疑問を口にした。

「更新をしようとすると、どうしてもセンターが管理しなくてはいけなくなりますから、我々委員会は議論の末、全世界で5万人程度——という予測値で設定しました。」


「30億人がシャングリラに移住した現在、ジョーモン・コミュニティ側に移住したのは2万3千人ほどらしいので、予測値を下回っています。」


「さて——と。」

 マイケルは両手をぐっと前に伸ばしてひとつ伸びをすると、声調子を変えた。

「たぶん皆さんがいちばん心配なのが、どの程度まで何をやったら『ぱちん』になっちゃうのか——ということですよね?」


 そう、それこそが、皆いちばん知りたいことなのだ。そこにいる全員が、ほとんど無意識にわずかに身を乗り出した。


「そもそもこのシステムを埋め込むことになったのは——僕は反対だったんですがね——自然保護区への移住者がルールを守らず、21世紀の技術知識を利用してまた傍若無人に振る舞い始めてしまうと、せっかくのシャングリラ・システムが無意味になってしまうことを委員会が恐れたからなんです。」


 陽が傾き始めている。

 北半球では陽の長い季節になってきているとはいえ、もうそろそろ夕食の準備にもとりかからないといけない時間が近づいてきていた。

 マイケルもそのあたりを意識したんだろう。話の締めに入ろうとした。


「皆さんが考える『常識的な』ジョーモン・テクノロジーで暮らしている限り、これが弾けるほどポイント加算は起きません。ただ、甘く考えていると蓄積される危険はありますが——。

そうですね。たとえば、もし弾けさせようとするならですが、どこか整理されていない博物館で昔のガソリン車を手に入れ、それにどうやってか手に入れたガソリンを入れて乗り回し、やはりどこからか手に入れた火薬式の銃火器で野生動物を狩って回れば、すぐに破裂します。

でも、自殺したいなら、そんな面倒なことをせずに、がらんどうになったビルの上から飛び降りればそれで済みます。

こちらでは、肉体システムの停止とともに意識も消し飛びますから。」


 マイケルは講義を終えた大学の先生みたいに、両手の平を合わせて皆を見回した。

「だから皆さんは、そんなに心配しなくていいです。皆さんが考える『人類生態系を守る行動』をとっている限り、これは有っても無くてもほとんど変わりないです。

それで僕は、こんなもの入れるのには反対してたんです。こちらに来ようというような人に、20世紀の幼稚なエゴイストみたいな人がいるとは思えませんから。」

 それからマイケルは小さく苦笑した。

「でも、委員会はそこまで『人間』を信じられなかったんですね——。」



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