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家出〜首都圏逃亡劇〜

作者: 兎

 ガタンゴトンという音とともに窓から見える景色が流れていく。五分ほど経つと見慣れた景色も無くなっていた。

 揺れる電車の中、この車両に乗ってるのは僕だけだった。隣の車両からは酔っぱらいの声が微かに聞こえてくる。

 夜十時、僕は家出をした。

 家出。ひそかに家庭から抜け出し、帰らないこと。僕は今それをしている。

 理由は一つではないが、一番大きいのは家での暴力だ。俗に言う虐待、と言うやつかもしれない。と言うかそうだ。

 中学校側もまともに取り合ってくれない。どれだけ必死になって訴えてもだ。僕がどうやって中学校側に本気だと主張することが出来るのかと考えた時、家出しか思い浮かばなかった。

 それに気づいた僕はいつ家出したらいいか、どこに隠れればいいか考えた。あいにく家に泊めてくれそうな友達はいなかったが、埼玉に住んでいるため終電は場所によって日を越すこともある。親が寝た後こっそりその電車に乗って東京に行けば一日は行けるだろう。

 問題はその後だ。僕の親は毎日十時くらいにはぐっすり眠って七時前までは起きてこない。だから充電を百パーセントにしておいたら運が悪くない限り七時までは使えるだろう。

 一回Twitterで匿ってくれる人を探してみるか? いや、履歴見られたら終わりか。

 思い切ってど田舎に行ってみる? まぁまぁの都会育ちの僕がそんなところ行ったら野垂れ死にそうだ。うーん。

 そうだ。一旦ネットカフェに居よう。そこで匿ってくれる人を探そう。実は

 僕はよく周りから大人っぽいと言われる。たまに高校生から大人料金の遊園地に行くと、疑われてしまうのだ。そのためにいつも身分証明証を持ち歩くようにしているのだが、今回は全く意味がない。むしろ職質で見つかったら終わりだ。ネットカフェでは高校生と偽ったらいい。ダメだったら他のところに行けばいいし。何より今僕にはお金が大量にある。毎年使ってこなかったお年玉を持ってきたからだ。

 親戚が多いからお年玉を多くもらうのだが、お母さんに奪われていた。それで数年前から取られたらその日の夜に取り返すようにしていた。

 たまに無くなっていたりするが、隠し場所を変えたりしてなんとか耐えてきた。

 中学三年生。受験がある大事な時期だがそんなこと考えてない。親に志望校を決められて一日中勉強をさせられている。そんな受験まっぴらだ。

 学校に行ってもいじめられたりもしてしんどいのが休ませてくれるわけない。

 前は熱を出して中退しようとしたらお母さんがダメと言って保健室の先生と喧嘩をした。なんだかんだそのまま学校にいることになり家に帰ったらゲンコツで殴られた。

 前は学校の最上階から飛び降りようとしたが学校の先生が止めて隠蔽していた。

 電車の中で今までのことを回想していると行きたいところに着いた。池袋だ。調べているとネットカフェが多い街として取り上げられていた上、最寄駅から一本でいけるところだ。。

 電車を降りて改札を通った。いつもはPASMOを使っていたのだがバレそうだったので普通の切符を使い出た。

 駅を出ると噂通り大量にネットカフェがあった。僕は一回もネットカフェに行ったことがなかったのでどこに行けばいいかわからなかった。

 ただまだ夜の十一時前。人混みは多い。たまに酔っ払って寝ている人もいるし吐いていた後もある。ガヤガヤした音の中で、僕は携帯を手に取った。まだ携帯を触れる時間帯だ。

 調べてこの近くで評価が良かったネットカフェに行ってみた。レビューの中には、『家出でお世話になりました』と言うものも少なくはなかった。

 歩いて十分ほどだったためそこにはすぐについた。

 もうあたりも真っ暗になっているはずなのに眩しいほどに明るい。これが大都会かと感じた。明るいは明るいのだが流石に夜だ。もう秋という九月下旬、シャツと薄いジャケットで夜歩いていると流石に寒い。

 急いで建物の中に入ると、そこには受付の人が立っていた。

「いらっしゃいませー……。あら、高校生?」

 おばさんの店員が話しかけてきた。やっぱり高校生に見えるようだ。高身長で老け顔がコンプレックスだったけどこんなとこで役立つとは思ってもいなかった。

「あのー友達と遊んでて時間遅くなっちゃって、お母さんに連絡したらネカフェで泊まっていいって言ってたんで……」

 僕は繋ぎ繋ぎでなんとか嘘をつけた。

「あ、そうなの。高校生ってこの時間から明日の四時まで使えないんだけど〜。まぁ親御さんがいいならいいよね。警察も来ないと思うし」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

 僕は何度も頭を下げた。流石に時間の制限があることまでは考えていなかった。

 ネットカフェは意外と居心地が良かった。ドリンクバーなどもあり、ネットなども使えた。

「ついたにしろ、どうしよう……」

 僕は考えていた。そうしてネットサーフィンしていると、匿名掲示板にて、『ネカフェで出られなくなった』と言うものを見つけた。

 そこでは何人かがその本人に合って助けに行こうとしていた。これだ。僕はそう思い匿名で新しく『家出したけどかくまってくれない?』と作った。

 すると最初は、『冗談だろ』とか、『嘘つくな』とか言ってたけど、今まであったことや、今どう言う状況かを話した。

 するとだんだんその人たちも信じて来てくれて、『行けたら行きたいんだけど……』とか、『場所教えてくれん?』と信じてくれるようになってきた。それで明日の朝になったら話そうと思ってその日は寝ようとした。

 だが事件は突然やってきた。

 僕が寝ていると、朝方の四時ごろ、電話がかかってきた。

 起きてみると、お母さんからの電話だった。それを見た僕は一瞬で目が覚めた。電話をそのまま放置していると、電話が切れ、LINEのスタ連が来た。

 そのあと、お母さんはLINEで、『快斗 早く出て来い』や『居場所はわかってるぞ』や、『早く出て来い』などと送ってきた。

 そのうち僕は涙がポロポロ出てきて、携帯の主電源を切り、掲示板に、『親に見つかったから新宿駅にいる。これる人がいたら来てほしい』とだけ伝えてネカフェを出た。

 親がネットを見ていることも考えて、嘘を言ったのだ。

 ネカフェを出る時、さっきの店員に

「泊まらないの?」

と聞かれたが僕は

「お母さんが迎えに来るって言ってくれて」

と作り笑いを見せた。

僕はお金を払うとそのままネカフェを全速力で出て、逃げるように走り回った。自分でもどこに向かっているのかはわからない。ただ一つ分かっているのは、池袋から遠ざかっていることだけだ。

 走っていると涙が出てきた。これが何かの予兆なのか、ただただ怖いだけなのかもしれない。ただ、今僕ができることはそれしかなかったのだ。

 ほぼ神頼みのまま、僕は走り続けた。すると前から警察の人が来た。

「え、君高校生?」

と言われた。この時僕は今までにないほど頭が働いた。ただ働いてもわからないことはわからない。この状況で本当のことを言うと補導されてしまう。本当のことを言わなければ親に連絡がいくだろう。ここは親にやられていることを正直に言うしかないな。

「あの……。僕……。」

 さっきから涙が出ていたため僕は大袈裟に泣き出すことにした。

 それから僕は大袈裟に泣き、たまに過呼吸の真似をしながら今までのことを言った。

「それで……僕家出しようと思って……」

 最初の方が嘘だったが後半からだんだんほんとに泣き出して今は完全に過呼吸の状態だ。一時間くらい話したかもしれない。

 こうすれば警察の人も流石に何か対処してくれるだろう……と思っていたのだが、警察官は予想外のことを言った。

「はいはい。そう言うのいいから。どうせ嘘でしょ。それより早く、電話番号教えて」

 こいつ人の心ねぇのか。

 さらに、

「こっちだって夜に仕事させられてるんだよ! お前がちゃんと従ってくれたらこっちの功績になるんだよ!」

と怒鳴ってきた。

 この人働きすぎたのか知らないけど人格おかしくなってる……。

「もう……こっち来い!」

 その警察が思いっきり腕を引っ張ってきた。肩が外れたのかと思った。

 空を見ると少し明るくなってきていた。もう六時はすぎていただろうか。もう秋だからもっと時間が経っているかもしれない。もしかしたら始発が出るかもしれない。タイミングを縫って逃げるしかない。

 僕はそう思いながら引っ張ってくる腕に身を任せていた。

 十分ほど歩いただろうか。ついたのは池袋駅の目の前の交番だった。

 隙をついて逃げ出したらあとは大通りを駆け抜けて駅の構内に逃げ込めばあとは見つからないだろう。今でも交番の前の人混みはすごいしもう電車の音もしている。あとはうまくいければ……。

 チャンスは意外と早くきた。

 交番には三人人がいて、さっきの人がその一人だったようだ。後の二人にも事情を話すと、

「大変だったねぇ。これからお母さんと話し合ってみてもいい?」

と聞いてきた。するとさっき連れてきた人がその二人を奥の部屋に連れて行き、

「分かってんのかぁ! こいつは夜な夜な歩いてたやつやぞぉ。こんなやつに同情して何がある! まずあいつを助けたら俺らの手柄にならんからなぁ!」

と言っていた。そこからも話が続きそうだったので、僕はこっそりと警察署を出た。なんか鈴みたいなやつがあったが、怒鳴り声で全てかき消されていた。

 そこから僕はダッシュで大通りを走った。時間帯的に遅刻しそうな社会人や学生も多かったため紛れ込むことができた。

 どこまで行こうか悩んだけど流石に親に申し訳なくなってきたので一旦埼玉の方向に帰ることにした。

 最寄り駅までは結構近くて乗り換え一回で二十五分くらいで行ける。

 はっと起きた。どうやら乗り換えてから寝てしまってたようだ。

「次は〜高崎ー高崎〜。次で終電です。お忘れ物のないようご注意ください。The next station is takasaki。」

 一瞬普通に聞こえたのだが、少し経ってから声が出そうなほど驚いた。終電に来てしまったのだ。

 え、高崎ってどこだろう……。

 財布は取られてなかったので、駅を降りると乗り越し計算機で乗り越した分を払い、駅を出た。

 駅の外にマップがあったので見てみた。

「群馬!?」

 地図に堂々と、『群馬県中南部 〜高崎市〜』と書いてあった。

 地元の埼玉に戻ろうとしたのに群馬……。こんなことある?!

 まぁ家出……してるしいいよね。いや……こんなはずじゃなかったのに……。

 複雑な心境になりながら僕は歩き出した。

 やりたいことも特にないし、やっぱり家のほうに戻ろうかな……。

 そう思っていてもしょうがない。僕はその地図を手に歩き出した。どこか遊びに行きたいな。

 そう思いながら街を歩き始めた。群馬県って案外都会なんだな。山と畑だけかと思ってた。それにしてもなんか見覚えあるなぁ。何回か来たことあるようなこの街並み。

 歩いているとその薄浅い記憶は確信へと変わった。

 親戚の家が視界に入ったのだ。そしてその親戚一家も視界に入ったのだ。そして目が合った。

 そうだ親戚の家族は僕の高校受験に賛同だ。こんな時間帯に外にいることがバレたら終わりだ。

 そうして僕は用事を思い出したかのように走り出した。

「快斗!」

と言う親戚のおじさんが自分の名前を呼ぶ声も聞こえてきたがそんなものを無視して全速力で走っていった。

 あの呼び方、確実に何が合ったかを知っている声だ。あんなのに捕まったらまた勉強地獄だ。なんでそこまでして勉強させるのかがわからない。急いで次の電車に乗ろう。駅は目の前だ。

「快斗! 待ってくれ!」

 そんな声が聞こえた気がしたが僕は切符を買いホームに入った。するとすぐ来た電車に乗った。

 だが親戚のおじさんの声はいつもと違った気がした。

 勢いで五駅分だけ買ったのだが、たまたまさっきと同じ方向に向かえるようだ。

「はぁ、はぁ、」

 急いで走ったので、汗だくだった。時間はもう午前十一時だった。一回頭を冷やそう。そう思って頭の中で整理していた。埼玉から東京の池袋まで行って、そこから交番から抜け出して戻ろうとしたら寝過ごしちゃったってことか……。それから親戚に見つかって、今か……。

 そう思いながら電車に乗っていると、想定外のことが起きた。

 池袋の交番の人が電車に乗ってきたのだ。僕を引っ張った人ではなく、僕に優しくしてくれた人だった。

「あ、いたいた。僕のこと、覚えてくれてるよね」

 そう言って僕の隣の席に座ってくれた、

「大丈夫。さっきの人に腕引っ張られたけど僕そんなことしないし」

 その人は信用していいと心が言っているように感じた。

「信じてくれる?」

「はい……」

 僕は小さい声で返事をした。

「じゃあまずなんだけど、さっきあった君の親戚いるじゃん。あの人と連絡取ってたの」

「え、なんで?」

「なんか交番に家出したって情報が入って、あーまたかーと思ってたけどその子と特徴が一致してる子が交番に来て、逃げたから確信したのよ。夜勤だったからもう仕事終わりなんだけどなんか本部の人に言ったらその子の親戚がその子虐待されてるかもって言ってたって情報が来て、その親戚の人と連絡取ることになったの。そしたらなんでか知らないけど高崎駅に来たって言ってくれて、そっちに向かってたら電車乗ったって聞いたから待ち伏せしてたの。お母さんとかのことはちゃんと信用できる人に相談してあげるから、もう大丈夫だよ」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

 その日から僕は親戚の家に泊めてもらえるようになった。親戚のおじさんは、

「LINEではいっつも快斗が意欲的に勉強してるように見えてたんだけど、まさかあんなことがあったなんて。家出したから向こうも焦って言っちゃったんだね。気づいてあげられなくてごめんね」

と言っていた。

「ありがとう!」

 九月下順だったものもあり、ちょっと首都圏とは外れるけど自分の行きたい高校を見つけていくことができた。今まで勉強してきたのもあってか受験にも合格することができた。

 入学から一ヶ月くらい経った頃だろうか。お母さんとお父さんが実兄判決で捕まっていた。嬉しい気持ちと悲しい気持ちが入り混ざったが、あの家出はしてよかったと思ってる。

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