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中編

 いくらフクロウたちが夜目がきくとはいえ、長いこと暗い森の中で、時計もなく過ごしていれば、だんだんと時間の感覚はくるっていきます。フクロウ森では日の光も届かないので、いったい今が朝なのか、それとも夜なのか、それすらわからなくなってくるのです。フクロウたちは知るよしもありませんでしたが、長針と短針が旅に出て、ちょうど一か月がたちました。すると――


「そろそろお茶の時間か……。って、おい、お前もう狩りに出かけるのか?」

「なにいってるんだ、今から狩りの時間だろう? お茶の時間はとっくに終わったじゃないか」

「いやいや、今からだろ? 待て、まだえものたちもばっちり起きて動き回ってるだろ? やつらが寝静まってからが、狩りの時間じゃないか」

「だから今からだっていってるじゃないか。これから一番えものが寝ぼけて捕まえやすいっていうのに、のんきにお茶なんて飲んでるなよ!」

「うるさいなあお前ら、そんなぎゃーぎゃー騒ぐなよ、こんな真夜中に」

「真夜中? いや、今は昼だろ?」

「いや、もうとっくに寝る時間じゃないか。それなのに、お茶の時間だの狩りの時間だの……」

「ふわぁーあ、やぁ、おはよう。お前らも今目が覚めたのか?」

「お前、まさか眠ってたのか? いやいや、朝じゃないだろ!」


 あちこちでフクロウたちはケンカし始めるしまつでした。誰も本当の時間を知らないので、足並みがそろわないのです。今までは懐中時計をオウルじいが見て、お茶の時間ならお茶の時間だと、狩りの時間なら狩りの時間だと、教えてくれていたのですが、今はそんなこともできません。誰もが本当の時間を知ろうとして、そして誰も本当の時間を知ることができないのでした。と、そんなごたごたがフクロウ森じゅうで繰り広げられているときでした。


「あーっ、もう、じれったいなぁ! こうなったらおれが、森のてっぺんまで飛んでいって、今が朝なのか夜なのか確かめてやるぜ!」


 若いフクロウの内の一匹が、他のフクロウたちにそう宣言したのでした。これにはみんな驚き、そしてすぐに止めるのでした。


「バカバカ、やめろ! お前だって知ってるだろう? このフクロウ森の木は、空に近づけば近づくほど、枝が針のようにとがって、羽を傷つけるんだ! それにうわさじゃ、雪もめちゃくちゃ積もってて、どうにもならないってことじゃないか!」

「だけどよ、このままじゃらちが明かないじゃないか! 誰も本当の時間を知らないんだぜ、それならこの目で確かめてやろうじゃないか! それによ、おれたちフクロウ森のフクロウは、誰も太陽を見たことがないんだ。オウルじいのじいさんのじいさんが、ずっと昔、この森の木々がまだほんの子供だったころに、見たことがあるだけだろう?」

「やめろって! 太陽なんてただの伝説だろう? そんな燃えるように明るい火の玉が、空に浮かんでたらみんな燃えて死んじまうだろ!」

「だけど、誰も確かめたことがないんだろう? それならおれ、確かめてやる!」


 いうが早いか、その若フクロウは、ものすごい羽ばたきで、一気に木々の屋根へと飛んでいったのです。みんなその様子を、あわれみとあざけり、そしてちょっとのうらやましさをこめて、見あげるのでした。




「ふぅーっ、やっぱり気持ちいいな、飛ぶっていうのは。じいさんたちが話してくれた昔話じゃ、昔も昔、大昔、この森がもっともっと小さな木ばっかりだったころは、それこそどこまでも飛んで行けたらしいからな。それならおれだってイテテッ!」


 若フクロウは、つばさに突然痛みを感じたので、すばやく近くの枝にとまりました。とたんに今度は、足に鋭い痛みが走ったのです。


「イタタッ! な、なんだここ、この枝、トゲばかりじゃないか! イテッ、イタタタッ!」


 ぴょんぴょん飛びあがると、若フクロウはその場でバタバタと羽ばたき、上をにらみつけました。フクロウたちが暮らしている森の中とは全く違い、びっしり枝がはびこっていたのです。その様子は、まるで空までの道をふさぐ手のように見えました。


「くそっ、上等だ! こうなったらとことん上を目指してやるぞ!」


 若フクロウは、バサッバサッと何度かつばさをはためかせて、風を巻き起こしていきました。そして呼吸を整えると、そのまま一気につばさをはばたかせて、まるで弾丸のように枝の壁に突っこんでいったのです。羽をできるだけちぢめて、大きな目をしっかり閉じて、枝の壁に突き刺さったのです。すさまじい痛みの嵐が、からだじゅうをおそいます。それでもスピードを緩めず、若フクロウは枝の壁にからだをねじこみ、突入し続けたのです。


「イテッ、いてぇっ! くそっ、まだまだ!」


 ときおりつばさを広げて、風を巻き起こしていきます。そのたびにつばさをとげが突きさし、白かった美しい羽毛は、血まみれの赤に変わっていきますが、若フクロウは構わず上へ上へ昇っていきます。そして……。


「うぅぅっ、よいしょっ!」


 若フクロウはついに、トゲ枝の壁をつらぬき、その上へと抜け出たのです。そしてそこは、今まで見たことがないような世界だったのです。


「なんだ、これ? 白い、おれの羽よりもっと白い……」


 若フクロウは知るよしもありませんでしたが、それらは雪でした。雪が積もり積もって、またしても壁のように枝の屋根をおおっていたのです。若フクロウはおそるおそる雪にふれ、そして思わず、「冷たっ!」とさけんでしまいました。


「なんて冷たさだ。てことはあの上の白い壁は、全部こんな冷たい壁になってるってことか……」


 若フクロウはなにもいわずに、ちらりと下を見おろしました。どうにかトゲ枝の壁を抜けることには成功しましたが、もしここからフクロウ森へと戻ろうとしても、きっとトゲに刺されて死んでしまうでしょう。若フクロウは覚悟を決めたように、白の羽毛と血の赤でまだらになった羽を、ばたつかせました。


「こうなったら、最後までやりとげてやる! 絶対にこの屋根を突破して、太陽ってやつを見てやるぜ!」


 若フクロウはバサッバサッと、またしても風を巻き起こしていきました。つばさから血がしたたりおちますが、そんなことは気にもとめずに、何度も風を起こし、そして一気に白い雪の屋根へ突っこんだのです。どんどん白い屋根が目前に迫ってきます。それでも若フクロウはスピードをゆるめませんでした。


「うおぉぉぉっ!」


 その若フクロウの気迫が伝わったのでしょうか、雪はしっかりと固まっていなかったようで、若フクロウにつらぬかれ、ズボボボッと気持ちのいい音を立てて砕けていったのです。若フクロウはすさまじいスピードで、ときおり羽をばたつかせ、雪の屋根を突破していきました。羽はあまりの冷たさに感覚を失い、まるで他のフクロウの羽のように感じられます。若フクロウが通ったあとの雪は、赤い血で汚れていましたが、それでも若フクロウは止まりませんでした。何度も雪の中でもがきながら、上へ上へと目指していきます。そして――

後編は本日1/9の19時台に投稿する予定です。

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