【STAGE1】「ターゲット"蛙" 」ゲーム攻略法
学校が終わると俺は自室のベッドに座り込み昨夜の事を考えていた。
もし、今日も昨日と同じような事が起こったら...。
またあの激痛を経験することになる...。
死にたくない...。
考えれば考える程に恐怖に襲われた。
ふと、スマホをを見てみると
「hunting」が開かれていた。
「スキルってなんだ?。観察眼って意味わからない。」
「それに、母さんもタクト(友人)もどうしちまったんだ...。」
俺の中の記憶と現実が噛み合っていない。
そんな事も考えていると、それは1つの仮説へと結びついた。
すると、また突然急激な眠気に襲われた。
「あぁ、今日も始まるのか...」
そんなことを思いながら、俺は重たい瞼を閉じた。
パチッ
俺は目を覚ますと昨日と同じ暗い校舎の玄関にいた。
そこには既にタツヤ、翔太、ミナミの3人が立っていた。
3人を見ると安心感を覚えた。
平常心に戻れることに安心した。
「いったい何なんだよ!!」
「やだ〜〜」
「あらたさん、こんばんはです。」
パニックに陥っている者、既に泣いている者、冷静な者、各々の個性が滲み出ていた。
「あぁ。やっぱり夢じゃなかったんだな...」
「そうみたいですね。あらたさんはスマホは持っていますか?」
俺はゴソゴソとポケットを探してみたがスマホは見当たらなかった。
「やっぱり無いですか...」
「どういう意味だ?」
「僕も他の2人も持ってないんです。つまり、ここへ来る時は何も持ち込めないということです。」
確かに俺は寝る寸前までスマホは握りしめていた。
「服装はここへ来る直前のものか」
俺は自分の服装を確認すると
制服から着替えていたジャージを着ていた。
他の3人は翔太は制服のままだったが、ミナミとタツヤは私服だった。
「そんなことよりもどうなってんだよ!夢だったんじゃねーのかよ!」
「......タツヤさんは【hunting】を確認してないんですか?」
「あ?」
「そうだ。ゲームをダウンロードしただろ?」
「あ!それ、私もダウンロードしたよ〜!」
ここに集められた4人の共通点は【hunting】、つまりゲームのダウンロードだった。
「だから、なんだって言うんだよ!」
「皆さん【スキル】は確認しましたか?」
怒鳴るタツヤを無視して翔太は続けた。
「俺は【観察眼】。」
「私は【自然治癒力の向上、止血】だったよ〜。」
「僕は【感覚の喪失】でした。」
「勝手に話を進めてんじゃねーよ!!」
怒鳴るタツヤ。
はぁ。と大きなため息をついた翔太。
「これはゲームです。個々に【スキル】が用意されていて、それを生かし昨日のようなモンスターを倒さなければいけません。」
「はぁ?意味わかんねぇ。これがゲームだと?」
「タツヤさんは確認してないと思いますが、僕達にはスキルが与えられています。」
「そのスキルがどうしたら、発動するのかは分かりませんが、それがゲームクリアの鍵になるはずです。」
「負ければ、昨日のような死を味わい、現実が少し変わるという事か...」
「さすが、あらたさん。」
「ね〜。現実が変わるって〜?」
「現実が変わるって表現が正しいのか分からないけど、今日、自分の身の回りで変化を感じなかったか?」
「あ〜!あったよ!優香と話してて話が噛み合わないっていうか〜。あっ、優香って友達ね!」
その話をしている間、ずっとタツヤは黙っていた。
きっと思い当たる節があったのだろう。
「そうです。僕もありました。これが積み重なれば...どうなるか...あらたさんなら分かりますよね。」
「たぶんだけど、最悪の場合は自分の存在そのものが危ういな。」
「そうです。もしかしたら、周りから自分がいなくなるかもしれません。」
「え〜。やだ〜」
「でも、そんなことが本当に出来るのか?」
「事実、僕の周りやあらたさんの周りでも起きていることです。」
そこまで話すと少しの間、沈黙が続いた。
「じゃぁ、あの化け物を殺せばいいんだろ?」
黙っていたタツヤが口を開いた。
はぁ。また大きなため息をつく翔太。
「どうやってあんなのと戦えと言うんですか?」
「そのスキルってのを使って何とかするしかないだろ!」
「なんとかって...どうやってスキルを使うんですか?」
「ミナミ、スキルの使い方も分かんないよ〜?」
「俺にも分かんねーよ!!」
グダグダな会話をしながら、ふと俺は思った。
「なぁ。ゲームならどこかに武器とかあるんじゃないか?」
「!?」
3人が一斉に俺に視線を向けた。
「それだ!絶対どこかに隠してあるんだ!」
「そういうのも可能性はゼロではないですね...」
「じゃぁ、今日は武器を探そうよ〜」
ザザッザザッ
「!?」
「STAGE1が始まります。皆さん準備をしてください。ターゲットは【蛙】です。」
「今回の制限時間は1時間となります。それでは、ハンティングスタートです。」
ザザップツッ
昨日と同じようにアナウンスが流れた。
「...また始まったな」
「ターゲットは変わるんですね...」
「"蛙"って、気持ち悪〜。」
「じっとしてると昨日と同じだ!俺は武器を探しに行くぜ!」
そう言うとタツヤはどこかへ走り去って行ってしまった。
「僕達はどうします?」
「そうだな。スキルが気になる。"蛙"から身を隠しながら色々と試してみよう」
俺と翔太はタツヤが走って行った逆の方の廊下を歩き始めた。
「ちょっ、待ってよ〜」
ミナミも2人を追う形で後ろを歩き始めた。
しばらく歩くと職員室と書かれた看板がある部屋の前に辿り着いた。
「とりあえず、ここの中に隠れつつ試してみるか。」
「分かりました。」
ガラガラッ
扉を開け中に入るとそこはパソコンやノート等が机の上に置いてあり、
まだ使っている校舎だというのを証明していた。
3人はそれぞれ、机の下に潜り込み姿を隠した。
「ミナミさん、1つ仮説を証明したいので、どこでもいいです。このカッターで血を流してみてもらってもいいですか?」
そう言うと翔太は机の上に置いてあるカッターをミナミへ向かって
床を滑らせるように投げた。
「え!?やだよ〜。痛いもん。」
「お願いします。」
「昨日みたいに死ぬほどの痛みじゃない。俺からも頼む。」
俺も翔太の考えていることは分かる。
ミナミに俺からも頼み込んだ。
納得いかない顔のミナミだったが2人から言われ嫌々やってくれるみたいだ。
「うぅ〜。えい!」
ミナミは自分の左人差し指をカッターでなぞった。
「いった〜い。」
俺と翔太は血が流れているミナミの人差し指に視線を集中させた。
すると、最初血は出たが
その傷口はスーっとみるみるうちに塞がった。
「え?何これすご〜い!もぉ痛くないよ〜!」
ミナミはこちら側に人差し指を向け、ニコっと笑った。
「やっぱりですか...。」
「みたいだな。」
「え?なになに?」
「ミナミさんの【スキル】は意識外からも発動するものです。きっと常に発動した状態にいるのでしょう。」
「自然治癒力の向上。それによって、傷口が塞がったって事だ。」
「なにそれ!すご〜い!私、無敵?」
ニヤニヤと笑っているミナミ。そうとう嬉しい能力だったのだろう。
「無敵じゃないだろ。軽い怪我、擦り傷とかはすぐ治るけど大怪我をした場合は治りが遅いはずだ。腕が無くなったりしたらもう戻らないし、痛みは伴うからショック死も有り得る。」
「え〜。無敵じゃないのかぁ」
あからさまに落ち込むミナミ。
「でも、落ち込むことないですよ。強いスキルには違いありません。」
翔太はそう言うと
「次は僕ですね。僕のスキルはきっと常時発動型ではありません。【感覚の喪失】は意識して発動するものでしょう。」
「少し試して見ますね」
そう言うと翔太は目を瞑り、何かを念じているように見えた。
「ここからかなり離れた所に足音が聞こえますね。きっとタツヤさんでしょう」
俺もミナミも耳をすませたが足音なんて聞こえなかった。
はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。
目を開けた翔太は疲れたように息切れをしていた。
「翔太、何をした?」
息を整えてから翔太は口を開いた。
「意識を集中して視覚を無くしました。すると遠くの音まで聞こえるようになりました。体力の消耗は激しいみたいですね...。」
「集中して出来るものなのか?まぁ、それが【スキル】なんだろうな。失えば何かを補えるのか。」
「みたいですね。ミナミさん、そのカッターを貸して貰えますか?」
「ん?いいよ〜」
ミナミは翔太に向かって持っていたカッターを滑らせ、翔太はそれを受け取ると自分の左人差し指を切りつけた。
「......やっぱり。」
「どうしたんだ?」
翔太の人差し指からは血がポタポタと垂れていた。
「痛覚も無くせるみたいです。他を補う事がないものは体力もそんなに消耗しませんね。」
「痛そ〜。あ、痛くないって分かってても見てるこっちは痛そうって事ね!」
「ミナミの能力に【止血】って、なかったか?」
「あったよ〜!あ、もしかして!」
そう言うとミナミは翔太に近づいて行き、血が流れる人差し指を両手で握った。
「どうかな?」
手を離し確認すると、先程まで流れ出ていた血が止まっていた。
「圧迫止血みたいですね。通常より断然早く止まりました。」
ミナミのスキルは他人の止血にも使えるみたいだ。
「後は俺のスキルか...。」
俺のスキルは【観察眼】だ。
翔太やミナミのように読めば分かる能力とは違っていた。
「観察眼とは何ですかね?」
「俺にも分からない。」
「意識すれば発動しないの〜?」
確かにミナミの言うように意識的に発動する能力の気もする。
だが、何をどのように意識をすれば発動するのか見当もつかない。
3人で頭を抱えていると
ペタッペタッ
「!?」
廊下の方から足音が聞こえてきた。
こちらの方へ一直線に向かってきている。
ペタッペタッペタッペタッ