好きは嫌いを食べてしまう
タバコの匂いが本当は嫌いだった。
君のお洒落な服についてるタバコの匂いはせっかくかっこいいのにもったいないとまで思っていた。
でも、タバコを吸う姿を見てかっこいいなとも思ってた。そう思う自分が悔しかった。
タバコの煙吸うと咳すら出ちゃうのに。
「タバコやめてくれたら付き合うよ」
なんて無理なお願いをしてみた。
試すようなことしたくないのに。
「やめる」
と君は言ったんだ。
「じゃあやめられたら同棲しよう」
タバコにこんなにこだわるなんてやっぱ私、心狭いのかな。
それから君は少しずつタバコの本数が減っていった。
一緒にいる時間が増えたからだという。
「タバコやめられそう?」
「一緒にいる時間増えたからきっと大丈夫。電子タバコにしてみたり、頑張ってる」
「ありがと」
それから君は私と毎日一緒にいる。
仕事が終わってシャワーを浴びたら私の部屋に来る。ご飯を一緒に食べるのはとっても幸せだった。
一人が好きだったはずの私がなぜか君といる時間を欲しがるようになっていた。
ピアノを練習するときも
小説を書くときも
小説を読むときも
漫画を読むときも
仕事をするときも
全部全部君がいるときがいいなんて、思う日が来るなんて君に出会うまで思いもしなかった。
こんなにも好きになったならタバコも許せる気がしている。
だけど、ふとした瞬間に許してしまうのではないかという恐怖が押し寄せた。
「あんた、お酒もタバコも禁止するなんて彼氏がかわいそうよ」
「いいの。私のこだわりなの」
親にまで言われてしまった。
でも、やっぱりこだわりたかった。
君のことが好きだから。
君の全てを愛したいから。
いつも君が私の部屋に来る時にするタバコの匂いに慣れ始めた頃には私の布団に君の匂いがついていた。
君が仕事でいない時、私は一人で布団で君の匂いを感じながら眠りにつく。
「この匂いが好き」
ふと呟いてしまったのだ。
タバコの匂いが嫌いで、今すぐやめてほしいのに、タバコと混同してる君の匂いが大好きになっていた。
それがとっても悔しかった。
タバコを吸ってる君を許してるみたいで。
でも、私は譲らない。
タバコやめてくれなきゃ一緒になんて住んでやらない。
でも、その頃には君のそのタバコの匂いがなくなっちゃうのかな。
そう思うと寂しいと感じてしまう自分が、やっぱり悔しい。
だから、これは私と私の戦いなんだ。