忌まわしい、情動
官能的怠惰。
今や何も手につかない。
私は部屋の中、橙色の灯りを浴びながら甘い唇を舐めていた。
傍らに眠る似て非なる存在。
ソレと重なった過去に私は溺れていた。
私は曲線美に傾倒する節がある。
内果から膝窩にかけて、捻るように舐め回す視線を送る。
露わになった下肢にまたもや情欲が騒ぎ立てる。
なんの予備動作もなく、不意に手を伸ばし触れてみた。
寝息を立て気付く筈も無いと高を括っての所業。
だが、起きたとて何ら責め立てられる事はないだろう。
先程迄それどころでは無い、濃厚を極めていたのだから。
寝息が変わった。
目を覚ましたのかと、私は不安と高揚が綯い交ぜになる。
しかし瞼を開く様相は観測できない。
その変動により、私の神経は萎えた。
急に薄ら寒くなったのだ。
時計の針が音を立てているのがわかる。
冷蔵庫のファンが回り出す。
外気の風から守られているはずのこの空間は、先刻までの橙色から、灰色に変色していく。
何なのかは理解出来ない。
だが今確実に感じる忌避感。
私はそれを消し去りたくて煙草に火を付けた。
まるで時代錯誤な細い紙巻煙草が、チリチリと音を立てて煙を燻らす。
よりにもよってこの行動が拍車をかけた。
私の吐く甘い紫煙が、彼の生理的反応を引き出したのだ。
だが、やっと、理解できた。
私は彼に明確な拒否を見たのだ。
三口も飲まず缶コーヒーに煙草を入れ、ジュッという音と共にベッドから立ち上がり、予想される外気を忌まわしく思いながらコートに袖を通した。
乱雑とした台所が今の私を映している。
不覚にも愛を感じた私には、酷くドアノブが冷たく思えた。