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狂人  作者: p-man
嘆き
3/9

文豪気取り

俗物塗れ魔に魅入られ見られん。


現在から遡る事二十と七年。

四半世紀ぐるりと回り気付き後悔。

それはそれは綺麗な頭蓋の赤子でした。

看護婦さんの献身の賜物。

正岡子規を彷彿とさせる横顔に因ず、私は一秋と名付けられました。

長男の九月は秋生まれ。至極単純な両親の知性を今以て感慨に耽っております。

長男とは語弊があるかと。

注釈しますと私は生涯一人っ子。

兄弟と呼べる身内は人間では居らず、雌犬を後に妹と呼称し始める疼痛ズキズキな少年で御座いました。


父は痴れ者。母は消えかかった蝋燭。

そんな雌雄の間に生を受けた狂人。

それが、富永一秋、私であります。

名だけは立派な出で立ちの私は、名負けを自称する怠け者。

幼稚園を母の手違い故に年中から他の幼児と合流し、そこで学ぶべき基礎的な道徳を掴み損ね、小学時代に突入。

怠惰な幼児は一年一学期から不登校に勤しみ、その理由を母の容態が心配なぞ、欠片も善のない嘘吐き。

天も流石に、と、私の頭蓋をアスフアルトに叩きつける始末。

中々に巨体なステツプワゴンを用意した天の策略通り、学生の本分である登校だけは漸との事で出来る運びとなりました。


「カズアキくんはおかしい」

ふと、膨よかな褐色の少女に罵倒された記憶が蘇る今日この頃。

齢七の歳にて狂人の才覚を発揮していたのでしょうか。くっきりと不細工なその少女は無情にもそう私に言い放ったのです。

確か、隠れんぼと称して少女と公衆便所に身を隠していた際、その不出来な身体を愛撫した覚えが御座います。

非常におませで、あの可愛いらしさがぐうの音も出ないと大手を振る所業。

無邪気では済まされないとは言い難いが、鬼畜の片鱗であることは言い逃れ不可。

今思い返すと、やはり変だったのでしょう。

そんな規格外な私を世界に放った両親は、前述の痴れ者、蝋燭とは言いつつも善人ではありました。

"他人に迷惑をかけるな"

"嘘をつくな"

"まんまいちゃんに手を合わせろ"

耳が多足類に成る程言い聞かせられた言葉どもを、私は悉く振り切って、思いも寄らぬ死角から攻める迷惑の掛け方。

自分に刷り込ませ言い切る嘘のつき方。

神仏は都合の良い時に精神安定程度に手を合わせるに至りました。

別段。悪ぶってこんな反抗に準じた訳ではなく、この愚物を少しばかり奇異な物に仕立て上げる為に誇張している訳でもなく、漫然とした事実なので御座います。


そんな糞より汚物な小学生を過ぎ、中学生となり、より悪し。

知恵等と称する程もない思考を高回転した結果、反社会的行為は美しいと結論付けた私は、盗んだバイクで走り出し、夜の校舎窓硝子壊して回った挙句、脳味噌の溶解に躍起になりました。

シンナー、大麻、ガス。

ケミカル、ナチユラル、ケミカルと交互に責めていき、ようやっと溶け始めた脳は更なる進行を促して止まない。


そんな中学の退廃的な生活を、両親は必死になって躍起になって、止めようとしました。

が、私はその努力を上回る努力を。

研鑽に研鑽を積み、如何に狂うかを求め、何処に向かうかを定め、一歩ずつ、確かに、白黒の淡から濃へと跨いでいきました。


「生とはなんぞや?」

「それは受動的なレエル」

「薬とはなんぞや?」

「それは能動的なソオル」

「親とはなんぞや?」

「ウザいの語源」


そんな会話を楠の下で、友と語り、夜を明かした高校時代。


或る晴れた日曜日。

私は友の一人、下野裕介と二人、近くの酒屋で洋酒を買い漁っていました。

常時口を開けて呆けた阿呆の店主は、私達若輩者も飯の種とし、酒を販売する愚物。

それを利用しない発想がまるで思い浮かばない私達はそれでも陰茎を縮こませながらも恐々、紙幣と対価にアルコオルを獲る。

一周回って俗物にたどり着いてウヰスキー。

テレビの影響は50インチよりも巨大だったのです。


「これを飲んで風邪薬をキメる」

「二人でか?」

「いや、女を呼ぶ」


排他的で経済水域よりも広大な欲の権化。

"女"は私達の中で、政子しかなかった。

満月の様な頭蓋の日本人形のソレに乳房が二つ、流線型を見過ごしてからの陰部。

歴史的な官能を今、現実のモノにしようとそれこそ気概は隆起していました。


「誰だ?」

「チカとカナコ」

「他校を選ぶ感性は同学年でも抜きん出ている」

「頭一つ」

「否、二つ」


私達の高校を見下す位置にある、卑猥な女子高校は、想像を駆り立てて突き抜けんばかりに鋭利で過敏なのです。

下野の交友関係なぞ、この際、隣国の武力行使云々ほど毛の頭。

寧ろ害悪ですらあります。毛の虱。


「和姦」

「多数の意味での合姦」


巣窟に進む足取りは月面のよう。

日差しが抵抗少なく頭頂に降り注ぐ中。

各々の片手には悪質な好奇心が強く握られていました。

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