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ミリタリー&モンスター  作者: 鮬男
無貌の片鱗
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お前を消す方法

「コンスタンス……」

「あれ~?何驚いてるの?」


確かに作成したNPCは公式で購入するか外部ファイルから導入した音声を喋らせることはできる。

しかし私は二人に音声を設定したことはない。

それにこちらの言葉に対して設定された音声を返すことはあっても、ただ表情を見て自発的に喋る機能はM&MのNPCには存在してないはず。


「ねえキャロライン」

「なんでしょう」

「いや、呼んでみただけ」


まあでもびっくりしたけど悪いことではない気がする。

自分好みに作ったキャラクターが自我を持っているなんてちょっと素敵。


「気分が優れないのでしたらレモネードをお作りしましょうか?」


M&MのプレイヤーでNPCのカスタマイズに力を入れている人は沢山いる。

NPCを作成するには作成チケットが必要、チケット自体は簡単に手に入るが問題なのは衣装や装飾。

プレイヤーも装備できるけど大抵の人はNPCに装備させるために衣装を集めている。

他にもNPCの種族はプレイヤーが選択可能な種族にすることができ、NPC専用の種族も含めればプレイヤーよりもキャラメイクの幅が広い。


「ずるい、僕も呼んで~」


ちゃんと設定、もといフレーバーテキストに書いた通りボクっ子になってる。


「コンスタンス」

「なーに」

「ちょっと離れてて」

「え~」


この子を愛でるのは後回しだ。

それよりも酩酊港街に他のプレイヤーがいるかを確認しないと。


「まずは装備を整えないと」


弾薬の補充をするためにUIを開く。

するとシステムメッセージに『クエスト報酬が届いています』と出ていたので受け取ってみた。


クエスト:リッジウェル邸襲撃

クリアランク:A

モンスターキル:29

モンスターキルアシスト:41

報酬:杉浦式自動拳銃


(あれクエスト扱いなのね)


とりあえず報酬を受け取ってから『弾薬補充』と書いてあるところを押す。

これによって持っている武器の弾薬を自動で自分の弾薬盒に入れてくれる。

もちろん弾やマガジンをインベントリに入れていないと使えない機能だが、安全地帯なら自動で購入してくれる。

そして九九式普通実包はインベントリには一発も入っていなかったのに補充された、つまりここは安全地帯としての機能が存在することになる。

まあUIに『安全地帯』と表示されているからそれで確認すれば良いんだけど。


「ちょっと出かけるね」


外に出て他のプレイヤーを探したい。

全てのプレイヤーがいるなら外には結構な数がいるはず。


「キャロライン、戦闘モードで付いてきて」


ここが安全地帯で安全地帯のシステムが使えるからと言って安全とは限らないので警戒は怠らない。

もしかしたら普通にモンスターが入ってきている可能性もある。


「了解、戦闘状態へ移行」


彼女に限らず作成したNPCは従者、フォロワーとして連れて歩くことができ、プレイヤーと変わらないステータスで銃を撃ってくれる。

しかしキャロラインの場合は完全にプレイヤーには出来ない動きをする体と架空の武装を装備しているため連れていける場所はほとんどない。

せいぜい訓練エリアで遊ぶ程度。

しかし安全地帯の中でなら自由に連れ歩けるので、もし安全地帯の中にモンスターがいて戦闘になったのならかなり心強い。


「変形開始、確認、武装起動、確認」


キャロラインの足が逆関節に変形して機械的な骨格が見えるようになり、ぱかっと開いた右腕からは青紫色の光が漏れる銃身が出た。

左腕は近接武器になっているがここでは変形しないようだ。


「移行完了しました」


小銃に弾を込めて家を出る。


「誰もいない?」

「高所から確認しますか?」

「お願い」


キャロラインがその場で跳躍するだけで私の家の屋根に上った。

個人用訓練エリアで適当に動かした時も機動力には驚いたが、あの時はただ走らせただけで跳躍力は確認していなかった。

周囲を数秒見た後に屋根から飛び降りて私の目の前に着地した。


「海岸にて生命体を確認しました」

「海岸?」


酩酊港街にも海岸があったし、キャロラインが指――というか銃口――を指す方にあるのも同じだ。

ひょっとして酩酊港街の周辺ごとこの世界に転移してきたのか。


「行ってみるね」


私が海岸に向かって歩くとキャロラインが後ろから付いてくるが、機械的な足音がちょっと怖い。


「変わらないなぁ」


辺りはいつも通りの酩酊港街だ、違うのは人がいないことだけ。

私の家は海岸にものすごく近いので歩いて一分も経たずに海岸へ出た。

本当は窓から海が見える場所に家を持ちたかったが、金が足りなかった。

酩酊港街に住居を持つには酩酊港街を作り管理している港湾冒険者組合への支援金の額が一定以上になると購入できる。

港湾冒険者組合も可能な限りこちらの予算に対応してくれるし、土地がなかったらわざわざ広げてくれたりもする。


「生物って……アレ?」

「はい、危険かもしれません、マスターは後ろで――」

「いやあれ危険じゃないよ、リースくん!」


海岸の空中を浮遊するイルカ。

それは港湾冒険者組合の組長であるセスデクさんが作ったNPC、『物知りリースくん』。

私が声をかけるとふわふわと空中を泳ぐように進んで近寄って来る。

キャロラインは警戒しているが、空中を浮遊していること以外ただのイルカである彼に銃口を向ける気にはなれないだろう。


「やあ、ボクはリース!何か知りたいことはないかな?」


聞けばなんでも答えてくれるという設定をされているが、そんな性能はなく決められた音声を喋るだけのマスコット。

しかしコンスタンスのように僕っ子設定にしていたらその通りになったし、リースくんも本当になんでも答えられるかもしれない。


「ここはどこかな?」

「ここは酩酊港街だよ」


これはゲームの時でも設定されていた受け答え。


「君の主人の名前は?」

「セスデクさんだよ」


この質問への受け答えは設定されていないはずだけど答えた。


「この世界が何なのか教えて」

「運命なんてない、未来は自分で切り開くものだよ」

「あの白紙のヤツは私達になにをさせたい?」

「地獄で会おうぜベイビー」


急に適当なセリフを言った。

これは受け答えが設定されていない質問をすると、いくつかの決められたセリフをランダムで喋るようになっているためだろう。

物知り設定があるNPCでも知る由もない事は答えられないってことか。


「他にプレイヤーはいなかった?」

「さっきお話したよ、広場へ向かったよ」


他のプレイヤーが酩酊港街にいる。

私のように死んでから復活したのか、最初に降って来た所がたまたまここだったのかな。


「そう、またね」

「ばいばい」


リースくんに別れを言って広場へ向かう。

この酩酊港街はかなり広く、住んでいるプレイヤーは多い。

私の家の周り以外にも住居やら娯楽施設やらはあるのでそっちに行けば沢山プレイヤーがいるかも。


「あっ、キャロラインは家に帰って良いよ」

「了解しました」


そう言ってキャロラインは凄い速度で私の家に戻った。

もしプレイヤーがいたら戦闘状態のキャロラインに怯えてしまうかもしれない。


「というか私が怖いし、ん?この音は……」


遠くから聞えた妙な音に耳を澄ます。

飛行機の音だ。


「これは……ウェストランドワイバーン?」


飛行機の音にも色々あるが、この特徴的な音は二重反転プロペラの音であり、二重反転プロペラの機体を所有して酩酊港街に住居を持つプレイヤーは一人だけ。


「アングルさん!」


Lili Maji Angleというプレイヤー、リリという別ゲームのキャラクターが大好きな人で、スペルミスでエンジェルをアングルと書いてしまった人。

結果的にアングルさんと呼ばれ始め、それを気に入ったのか改名していない。

空を見上げても機体の姿は見えないが、確実にこの空にいることがわかる。

知っているプレイヤーがいることに安心しつつ、広場へ向かって再び歩き出す。

そして中心に噴水のある広場へ出ると、結構な数のプレイヤーが集まっていた。


「どうもこんちわ」


一人の獣人の男性が声をかけてみる。


「おおどんどん集まってきますね、ソルですよろしく」

「シトです、よろしくおねがいします」

「ん?シトってあのエアボの人?」

「それです!そのシトです!」


前にギルドメンバーの人達と私でこの中央広場の噴水でエアボの動画を撮影、ゲーム内掲示板に投稿したところ大ヒットしたことがあった。

しばらくM&Mでエアボが流行り、寝ているモンスターに乗っかったり追いかけられながらエアボを行うという謎の動画撮影が今でもゲーム内掲示板で続いていたりする。

そんなわけで私は少し有名人だった。


「他の人には会えました?フレンドリストとかで連絡取れないんですか?」

「あっ!そうだった!」


そういえばクリムさんとフレンド登録していた。

あの人のことだから私が死んだことにめっちゃ焦っているか悲しんでいるに違いない。

UIを開いてフレンドリストを見ると、クリムさんが警戒地帯にいるのが分かった。

おそらく今もリッジウェル邸にいるのだろう。

私はクリムさんに通話を申請すると、十秒もしないうちに承認された。


『しっ!ししっし!シトちゃん!?』


この声、焦る姿が目に浮かぶ。

申し訳ないけど焦る姿を想像すると頬が緩む。


「クリムさん、私生き返っちゃいました」

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