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社畜OL、異世界へ異動する  作者: 理一
六章.作戦
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56.作戦開始



 夜が明けて、朝になる。

 しんと静まりかえる自室のベッドを、そっと降りた。

 カーテンを開けて、窓を開けると、気持ちのいい風が舞いこんでくる。落ち着かせるように、深呼吸をすると、少しだけ頭が冴えた気がした。


 あのあとすぐに、バロンには、ダンジョンに帰ってもらった。

 バロンは嫌がったけど、ノアアーク王はバロンのことをあまりよく思っていないみたいだから、一緒にいると心象が悪くなりそうだと思ったんだ。


 ――プレジュの王様が亡くなるまで、あと十四日しかない。

 それまでに私は、ノアアーク王に外出を許してもらって、王宮の外に出て、付けられているだろう護衛を撒いて、プレジュに行き、そして、王様を治癒しなければならない。

 

 ……うん。改めて考えても、難易度がおかしい。


 でも、何もしなかったら、何も解決しないし、何も知ることはできない。バロンの言うとおり、私自身が、何とかするしかないんだ。

 気合いを入れるために、両頬を思い切り叩く。ばちんといい音がして、目を開けた。


「――よし。私にできることを、やるしかないんだ! とにかく王様に媚びる!」


 自分に言い聞かせるように、強くそう言った、そのときだった。

 突然、どたどたと二人分の激しい足音が聞こえて、扉の方を向く。

 すぐに、扉が勢いよく開かれて、見知った二人が現れた。驚いて口を開く。


「リ、リリア様とライカナ様っ!? どうしたんですか、そんなに慌てて……」


 部屋に現れたのは、女性騎士のリリア様とライカナ様だった。

 リリア様は、真っ直ぐに私を見つめたまま、ボリュームのあるツインテールを揺らして、つかつかと歩み寄ってくる。

 いつも花が咲いているように、明るい表情をしているリリア様が、見たことのないような険しい表情をしていて、ちょっと腰が引けてしまう。ど、どうしたんだろ……。

 両肩を掴まれて、可愛い顔がぐいっと近づいてくる。リリア様は口を開いた。


「――エルマーがプレジュの人間だったって本当なの?」


 たずねられて、はっとする。

 そ、そうか……! まだ昨日のことだし、二人は知らないんだ!

 何て言おうか悩んだけど、嘘をついてもすぐにバレそうだし、正直に答えることにした。


「は、はい、本当です……」

「スズちゃん、昨日またさらわれたって聞いたけど、エルマーにさらわれたってこと!?」

「え、えっと……まぁそうですね、はい……」


 鼻と鼻が当たるんじゃないかってぐらい、近くに顔を寄せてくるリリア様に向かって、小さくうなずく。

 リリア様は、怒りで顔をゆがませて。

 そのあとすぐに、強く抱きしめられた。


「うわーんスズちゃん、辛かったねっ! あんのクッソ野郎……ッ! 絶対許さん……ボコボコにぶん殴って消し炭にしてやる……ッ!」

「んぐっ! く、くるしいです、リリアさま!」


 強い力で大きな胸に顔面を押し付けられて、息ができなくなる。もがいても、リリア様は離してくれなかった。


「リリア。スズが死んでしまう」


 そばでライカナ様が冷静に言って、やっとリリア様は慌てて離してくれた。


「あっ、ごめんね。つい……」

「ゲホ……ッ、い、いえ……っ! 二人とも、心配して来てくださったんですよね! ありがとうございます。でも私は大丈夫ですよ!」

 

 笑ってそう言うと、リリア様は泣きそうな顔をした。言葉は少ないライカナ様も、心配そうに私を見てくれている。

 二人ともいい方だなぁ。私が騙されていたことを、自分のことみたいに怒ったり、心配してくれている。絶対に悪い人たちじゃないと思う。

 ……たぶんだけど、騎士の中で油断できないのは、以前エルマー様が言っていた、古株組の三人――テッドシー様、ミミズク様、モーガン様だけな気がする。何となくだけどね。


「ねぇ、スズちゃん。何であいつ……スズちゃん――治癒能力者を狙ってたの?」


 リリア様に神妙にたずねられて、どう答えようか悩む。さらわれた理由ぐらいは、正直に答えることにした。


「プレジュの王様が亡くなりそうなんです。だから、延命させてほしいって頼まれただけですよ。確かにさらわれたときはかなり手粗でしたけど、向こうで乱暴なことはされなかったです。いつものエルマー様でしたよ」


 ……もしエルマー様が王宮に戻ってくることがあったら、リリア様に殺されてしまいそうだ。それを心配して、できるだけ庇ってそう答えた。

 するとリリア様は、不思議そうに首をかしげた。


「え、そんだけの理由? それで、向こうの王様、治してあげたの?」

「い、いえ……。治す直前に、ノアアーク王が来て、連れ戻されてしまったので……」


 何て説明していいのか分からずに、言葉をよどませる。

 リリア様とライカナ様は、驚いた表情で顔を見合わせた。

 

「え……それぐらい別によくない? プレジュとは貿易だってしてるんだから、恩売れるじゃん。陛下ってイケメンなのに、意外とケチだねー」

「たしかに、デメリットの方が多いな。明らかに悪手だ。美形だが、意外とケチだな」

「は、はは……ケチなのと顔は関係ないと思いますけど……」


 言いたい放題の二人に、乾いた笑いを漏らしてしまう。

 やっぱり、リリア様とライカナ様は、古株組の騎士に比べて、王宮への忠誠心が薄い気がするなぁ……。


「じゃあリオちゃんは? プレジュにいるってモーガンが言ってたけど、何で?」

「え、えっと……それは、ですね……」


 やっぱり、リリア様たちは何も聞かされていないんだ。

 そしてモーガン様は、リオくんの状況を知っている。ってことは、王様に深く精通してるんだろう。

 首をかしげている二人に何て言えばいいのか悩む。そもそも、プレジュの王様とノアアーク王の因縁は、私だってよく分かっていないんだ。


「……リオくんが、その……王様を怒らせちゃったんです……」

「えっ、リオちゃん何したの!?」

「えーっと、ですね、エリス……えっと、諜報員だった侍女の子が王様に攻撃されたとき、かばっちゃったので……」

「えっ? だから王宮に帰らせてもらえないの?」

「ま、まぁ……そんなところです……」


 本当の事情は言えないので、ごまかしつつ、そう答える。

 二人は、ますます怪訝そうに眉をひそめた。


「前から思ってたけど、陛下ってリオちゃんに厳しすぎない? スズちゃんに何か遭ったらリオちゃんを罰するとかいうのも、ぶっちゃけ意味わかんないし」


 リリア様は不満げにそう言って、ライカナ様はうなずいた。

 リリア様は神妙な表情のまま、再び私を見る。


「……でもスズちゃん、これからどうするの? リオちゃんをこのままにしておけないよね?」

「もちろん何とかしますよっ! 王様にリオくんのことを許していただくために……ですね……」

「許していただくために?」


 リリア様とライカナ様がじっと私を見て、首をかしげている。

 何て言おうか、少し迷って。


「お、王様に、媚びようと思っているんですっ!」


 しまった。バロンに言われたことをそのまま言ってしまった。

 私の言葉に、二人は一瞬きょとんとして。それからすぐに、まるでおもしろいオモチャを見つけたかのように、目を輝かせはじめた。


「なにそれ、楽しそうっ! 私も、スズちゃんが陛下に媚びるの手伝う~っ!」

「うむ。私も手伝うぞ!」

「あ、えっと……今のは、ですね……」


 やばい、言葉を間違えたかも。

 焦って目を逸らしたけど、リリア様はぐいっと私に近づいて、楽しそうに笑った。

 

「ねね、知ってる? 陛下って、意外に甘いものが好きらしいよ!」

「へぇ……たしかに意外ですね。でも、それが何か?」


 特に必要なさそうな情報に、首をかしげる。


「キッチン借りてさぁ、みんなでケーキ作らない!? スズちゃん、陛下に超気に入られてるから、手作りのケーキ持っていって、これでリオちゃん許してくださーいって言えば、イチコロで許してくれるよ!」

「――――は?」


 予想外の提案に、ぬけた声をあげてしまう。

 けれど、リリア様は楽しそうな表情を崩さなかった。


「うーん! 我ながら名案っ!さっそく行こ行こーっ!」

「う、うわっ、ちょっと! リリア様!?」


 強く腕を引かれて、無理矢理部屋から連れ出される。ライカナ様も、まんざらでもなさそうな表情で後ろからついてきていた。

 うう……相変わらず、強引だなぁ。さっきまで、あんなに私の心配してくれてたのに……。

 キッチンに着くと、中にいた数人の侍女さんたちは驚いた表情で私たちを見た。


「み、みなさま! いけません、こんなところに……!」


 一人の侍女さんが慌てた様子でそう言った。

 そりゃそうだよな……。私はともかく、リリア様とライカナ様が来る場所じゃないよ……。

 だけどリリア様は、気にする様子もなく、侍女さんに笑いかけた。


「ちょっと、ケーキを作ろうと思って!」

「ケ、ケーキですか……? 何種類かご用意がありますが、部屋までお持ちいたしましょうか?」

「ううん! そういうんじゃなくて、スズちゃんが作らなきゃ意味ないのっ! というわけで、キッチン貸してくれない?」


 リリア様が侍女さんたちに向かって、にっこりと笑いかける。

 妙な威圧感に、侍女さんたちはごくりと唾を飲んで。それから、深くおじきをして、キッチンを出て行ってしまった。ご、強引すぎる……。

 きれいなキッチンに、三人になる。リリア様とライカナ様は、振り返って私を見た。


「よーしっ! さっそく作っちゃうぞーっ!」

「まかせたぞ、スズ」

「えぇ……」


 楽しそうに目を輝かせている二人に、私はつい、あきれた声を漏らしてしまった。



新章入りました。スズがプレジュに行くためにがんばります。

ちなみに、リリア様とライカナ様は、36話~38話ぐらいに登場した、お姉さん騎士です。


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