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社畜OL、異世界へ異動する  作者: 理一
一章.ダンジョン
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3.ボス登場



 ゴールの扉だと思っていた先はゴールじゃなかった。命からがら扉をくぐっただけに落胆を隠せない。うう、もうやだ……。

 けれど落ちこんでいても仕方ない。気持ちを切り替えるために両手で頬を叩いて、深呼吸。それから周囲を見渡した。

 前のエリアとはうって変わり、何というか人口的な部屋だった。鋼鉄の壁とひんやりと冷たい無機質な白い床。部屋は二十畳ぐらいのスペースで、あちこちにセンスのない金色の装飾が飾られている。

 特に気になるのが、私から見て正面のかなり大きな扉。等間隔にスイッチらしきものがたくさん設置されている。それも半端な数じゃない。二百個以上ある。


「多分……どれか押したら開くんだろうけど……」


 うわー怖い。だって押したら何が起こるかわかんないし。しかもコレ、当たり外れある気がする。今日最低に不運だった私に運ゲーは勘弁してほしいんだけど。

 ……けど、押さなきゃ進まない。ここには出口がないし、押さなきゃここで死を待つだけなんだ。

 私はもう一度深呼吸をして、覚悟を決めた。我ながら度胸あるなって自分で感心するわ。

 どれを押すか悩んで、目を閉じて歩き、適当に押すことにした。こういうのは考えて押しちゃだめなんだ。


「えいっ」


 ぽち、とボタンを押した。

 途端に部屋がガタガタと揺れ始める。無数に設置されていたボタンが沈んでいき、ゆっくりと扉が開く。

 進め、ということだろう。私は中へ足を踏み入れた。

 入ってすぐ、勢いよく扉が閉まってどきっとする。

 そばにはお決まりのポップフォントで書かれた看板が設置されていた。


『ネクロちゃんを倒せ!』


「ネクロちゃん……?」


 何だソレ。思わず声が出てしまった。

 その後すぐに、ゴゴゴというすさまじい轟音が部屋中に響きはじめる。

 ……なるほど。どうやらネクロちゃんとやらの登場らしい。

 一体どんな奴なんだろう。ネクロちゃんというぐらいだから、ぬいぐるみみたいなカワイイ見た目で、小さくて弱い小動物系でありますように。っていうかそうじゃないと倒せない。だって私普通のか弱いOLだし。

 緊張が高まる。心臓がすっごくバクバクしている。

 どこから現れるんだろう。いきなり襲われる可能性もあるから警戒は怠れない。

 突然、天井近くの空間から突如黒いものが現れ、目を見開いた。


「……え、なにあれ」


 それは天井の半分以上を占める大きさだった。色は真っ黒。形状は巨大ゾウリムシのようで、その身体を覆い尽くすぐらい無数の目がある。

 ずる、ずる、と天井を這うネクロちゃんらしき物体。あまりにも予想外の姿に唖然として身体が動かない。

 そして突如。全ての目が私を見た。

 途端に凄まじいスピードでネクロちゃんは落下し、私のすぐ隣の地面を粉々に破壊した。砕かれた噴石を浴びながら、あと数センチずれていたら死んでいたことにぞっとする。


「いやいやいやいや無理無理無理無理ッ! 絶対無理ッ!」


 こんなの勝てるわけないだろ!

 っていうか人間で勝てるやついんの?核兵器がいるだろふざけんな!

 私は一目散に逃げだした。入口まで全速力で走り、扉を開けようとする。

 けれど。


「あれ……? 嘘でしょ。開かない……ッ」


 乱暴に扉を開けようとしても扉はぴくりとも動かない。その間も、ネクロちゃんの無数の目が突き刺すように私を見ている。そしてじわじわと距離を詰めるように近づいてくる。


 ―――来る。


 瞬時にネクロちゃんが距離を詰め、再び壁に大きな穴を開ける。

 その時、何が起きたのか、自分でも理解できない。

 たしかにネクロちゃんは私を襲った。普通なら死んでいた。けれど、そのとき私は、早いはずのネクロちゃんの動きがスローモーションのようにゆっくり見えた。

 私は一撃を避け、壁を蹴って宙を舞っていた。


「え……っ、えっ、なにこれ……身体が軽い……!」


 まるで自分の身体じゃないみたいだ。漫画みたいなトリッキーな動きができる。

 次々にしかけてくるネクロちゃんの攻撃を全て簡単に避けることができた。

 攻撃が当たらずイライラしはじめたのか、ネクロちゃんの攻撃がだんだん雑になってくる。

 これは攻撃のチャンスなのでは……?

 そう気が付いて、ネクロちゃんが大振りをした瞬間、壁を反動にしてキックを食らわせてみた。


「うわわっ」


 けれど、ネクロちゃんの身体はゴムボールのように柔らかくて、攻撃が効いている手ごたえが全くなかった。

 諦めずに何度も隙を見て攻撃を続けていると、たまたまキックがネクロちゃんの目に当たった。

 その瞬間、ネクロちゃんは凄まじい悲鳴をあげる。


「そうか、目が弱点なんだ! あんなに分かりやすいのに何で気が付かなかったんだろ」


 それからは目を狙って攻撃を続けた。攻撃を食らわせるたびに、ネクロちゃんの痛々しい悲鳴が部屋中に響く。

 十度目の悲鳴が聞こえた後、ネクロちゃんは突然動きをぴたりと止めた。


 た、倒せた……?


 一瞬安堵の息を漏らす。

 しかし、期待もむなしく、ネクロちゃんの形状がみるみる変わっていく。

 ゾウリムシのようだった形状が、みるみる球体になり、無数の目が中心に集まっていく。

 こ、これは……まさか。

 やがて、集まった目が一つの大きな目になる。閉じられていた大きな目がゆっくりと開かれ、ギロリと睨むように私を見た。



「第二形態があるのかよ!!」


 思わず叫んだ。


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