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17 物々交換所

 種まきから二十日。

 このところ、畑の世話はミノタウロスとアリアドネ、ヨルムンガンドに任せていた。

 もちろん俺も、隙を見ては水に混ざったり生育具合を確かめたりしている。


 ただ最近はちょっと、他の仕事に追われがちだった。

 まず小さな魔族たちの家を建設。

 小さな魔族たちとはつまり。

 飽きずに畑見学を続ける、子犬のようにもふもふした彼ら――コボルトたちのことだ。


 しかも、あれから仲間が増えた。

 最初はコボルトだけだったのが、ゴブリンなんかの他の魔物も姿を見せるようになったのだ。

 畑の周りで団子になって農作業を応援する彼ら。

 すっかり顔なじみになってきた彼らから、あるとき相談を受けた。


「あたちたち……おうちが欲しいの。だって野宿はとっても寒いのヨ」

 

(そうだったのか……)


 毛皮を身にまとった彼らだから、寒さなんて全然平気で、暮らしているのかと思っていた。

 でも寒いなら、すぐに解決してやらなければならない。


 で、家造りというわけだ。

 俺の身長ほどしかない小さな家を、世帯の数だけ、せっせと建てていく。

 俺はここで、自宅のときには出来なかった『スキルを使わずに、自分の手で家を建てる』という夢を果たした。

 固めの地面を掘り、土台を作って、柱を打ち込む。

 木の家にするか、レンガ造りにするか、それは家主の希望に沿った。


「あたちたち、井戸もほしいの!」


「それから、パンを焼くところもよ!」


「元勇者さま、作ってくれる?」


 俺の周りにコボルトたちが群がってくる。


「ああ、いいよ。それじゃあ、共同の炊事場を作って、そこに水汲み場や共用のかまどを置くか……」


 どんどんコボルトの家とゴブリンの家を作っていった結果、一帯は小さな村のようになった。


「すごいわ、あなた!!」


「なんということだ……これほどまでに心地よい寝床があるとは……」


 評判が評判を呼ぶ状態だ。

 俺の家をみんな気に入ってくれたらしく、続々と魔物たちが村に集まってきた。

 

(けれど……)


 それにより、揉め事が頻発するようになった。

 揉め事というよりも、弱いものいじめだ。

 オークはゴブリンを。

 ゴブリンはコボルトを。

 コボルトは、彼らの中でも小柄なコボルトを標的にした。


「あーんあーん、ごはん、取られちゃったの……」


「ゴブリンたち、怖いよう……」


 絶えない嘆きの声に、俺は頭を抱えた。


「うーん……」


 揉めるのはいつも、強者と弱者。

 喧嘩の理由は毎回同じ、物の奪い合いだ。

 魔族は人と違う。

 何か手に入れたいものがあるとき、まず奪うということを考える。

 奪えなければ盗む。

 盗めなければ壊す。

 基本的にその三択しかないようだった。

 しかも、弱者は強者に虐げられる。

 それが普通なのだ。

 

(魔族は自分たちが悪しき者であることに、誇りを持っているしな……)


 でも殺伐とした空気は、御免こうむりたい。

 まったり楽しむスローライフが、俺の目指すところだし。

 魔族だとしても、ここで共存していくなら、仲良くして欲しい。

 できる限りは。


「こうなったら居住区を分けるか? ……でもなあ」


 そんなことをしたら、溝が決定的になりそうだ。

 

(……欲しいものがあるとき、奪う、盗む、壊す以外の四つ目の方法を作ってみたらどうかな?)


 普通、人間は、欲しいものを買いに行く。

 でも魔族たちの間に、交易という概念は今のところなさそうだ。

 ゆくゆくは必要になるとしても、金銭取引を取り入れるなら、しっかりとした準備が必要だろう。

 となると……。

 原始的な方法だけど、物々交換。

 これが一番じゃないだろう。


 ということで俺は試しに、交換所を作ってみた。

 一方的に誰かの物を奪うのは禁止。

 欲しいときは、自分でも何かを差し出して、物々交換をするルールだ。

 物々交換は、直接やりとりするんじゃなく、必ず交換所を通して行うこと。

 相手を脅して、一方的な交換をさせるやつが出ないようにだ。


「わあ、暴れ木苺だ! 俺、このサビキノコと交換してもらおう!」


「うーん、あの木彫りのグリズリー……欲しいけど、またまだ交換のためのオニドングリが溜まらねえなあ。よし、森に集めに行ってみるかな!」


「ママー、僕の拾ってきた金剛貝の貝殻、誰かに交換してもらえるかなあ?」


 交換所は、思った以上の盛況を見せた。

 まだルールは浸透していなくて、時々トラブルもあるが、ひとりひとりに説明すれば分かってくれそうな感触だ。


◇ ◇ ◇


 そんなわけで畑、交換所、魔族村を見回るのが俺の日課になった。

 今日もまた見回りに向かう。

 まずは畑から。

 辿り着くと、ミノタウロスとヨルムンガンドが、畑の前で話し合いをしていた。

 ずいぶん深刻な雰囲気だ。

 理由は予想がついた。

 俺はがっかりしつつ、彼らの元へ向かった。


「元勇者……。今、枯れた作物の撤去を終えたところだ」

 

(やっぱりか……)


 畑を耕し、みんなで植えた作物の種だが、その後の成長が芳しくない。


「これで、植えたうち半分がだめになってしまった」


「そうか……。やっぱりなかなか難しいな……」


 納屋の屋根に留まった一羽のカラスが、相槌を打つようにカーと鳴いた。

 あいつもおこぼれを期待していたのかもしれない。

 残念ながら、分けてやれるのはもうしばらく先になりそうだ。


「芽は出たのにな……」


「ああ……。肥料も巻いている。水やりも十分のはずだ。しかし栄養分を吸収できていないのか、育たない……」


「うーん。なるほどな……」


 ミノタウロスが、がっくりと肩を落とす。

 そんなに落ち込むなって。


「結果を出せなくて済まない……」


「気にしなくていいよ。農業って慣れるまで、失敗続きだとかいうし」


「……まだ働かせてもらえるだろうか?」


「当たり前じゃないか。何を言っているんだ?」


 そんなことを気にしていたのか。

 こういう試行錯誤だって、スローライフの醍醐味だ。


「ミノタウロスが嫌だと言い出すまで、こっちから辞めてくれと言うことはないよ」


「そうか。恩に着る……」


「誰かが悪いせいで失敗しているわけじゃない。まあのんびりやろう」


 と、それまで黙っていたヨルムンガンドがスクッと体を伸ばした。


「なあなあ……! 大将はそういうけどなぁ!? あんたにゾッコンの姫さんはそうじゃねぇだろぉ!? ……ややややべーよ……。なあ……。またあのお姫さんにキレられちまうよぉぉぉ……」


 巨大な体をくねらせて、ヨルムンガンドが怯える。


「ご、ごめんな……」


 そんなに怖いのか。

 シャルロッテはしばらく畑に近づけないほうがいいだろう。


「シャルロッテのことは心配しなくていい。俺が言い聞かせるから。二人は農作業を引き続き頼む」


「承知した。様子を見つつ、原因を探してみよう」


「姫さんのことはホントに頼むぜ、大将……!!」


「ああ、わかった。それじゃあふたりとも、よろしくな」

 

(作物が育たない理由……)


 実をいえば、その理由を調べて、対策を練ることは正直簡単だ。

 全知スキルで畑をスキャンすればいい。

 その後、検索スキルで原因の対策方法を知れば、すぐに手も打てる。

 でもそれはちょっと違う気がした。

 チートしすぎると、ゲームがつまらなくなるのと一緒だ。

 ほどほどに。

 バランスを考えて。

 とくに今、ミノタウロスとヨルムンガンドは努力してくれている。

 俺がチートスキルで答えを教えるのは、彼らにも失礼だろう。

 この考え自体、俺の自己満足だろって思えることもある。

 

(……でもまあいいだろ?)


 俺の力だ。

 好きに出し入れしたってさ。

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