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11 悪しき怪物は迷宮に潜む②

 シャルロッテたちに見送られながら旅立った俺は、半日かけて目的の島へと辿り着いた。


「おお……」


 遺跡の中央に聳え立つ神殿を見上げ、感嘆の溜息がこぼれる。


 白亜の神殿、ラビュリントス。

 砂漠の真ん中に建てられた古い建築物で、女神像の彫刻された十二本の柱が支える、純白の神殿だ。

 ミノタウロスは、この神殿を護っているらしい。


 全知スキルによる迷宮の分析を読み終えて、俺はふむ、とその情報を反芻した。

 久しぶりのダンジョンだ。

 ミノタウロスがいるのは迷宮の最深部。

 外からでもわかるほど、魔力に満ちた神殿だから、なにがあるかは予測不能だ。

 

(気を引き締めていかないと……)


 俺は深呼吸をしたあとで、最初の一歩を踏み出した。

 その瞬間。


「……ッ!」


 無数の槍が、真正面から飛んできた。

 反射的にスキルを使って、防壁を作り弾き飛ばす。

 

(って、いきなりかよ)


 気を引き締めるべきだと思った直後なので、けっこう恥ずかしい。

 石の床に散らばった槍は、先端がテラリと光っている。

 

(……毒が塗ってあったのか)


 侵入者用の罠ってところだろうな。

 珍しいものでもなかったので、俺は気にせず先に進んだ。


◇ ◇ ◇


 待ち構えていたのは、ありがちな罠だった。

 壁から突然、飛び出した剣先を屈んでかわし、襲い掛かってくる門番のゴーレムには、少しだけ休んでいてもらう。


 地下道に潜んでいた眠り蛙も追い払って、その住処である毒の水路は浄化しておいた。

てきぱきと進んでいく俺を、神殿に棲んでいるらしい欠伸蝙蝠の群れが「あわわわ……」と言いながら見下ろしていたが、急いでいるのでどんどん進む。


 少しだけ厄介だったのは、最深部へ続く入口に仕掛けられた暗号だ。

 ステンドグラスで囲まれた広い部屋の四隅に、天使の彫られた石像が置かれている。


「ダンジョントラップか」


 どうやらステンドグラスに隠された暗号を解き明かし、それをヒントにして、石像を所定の位置に動かさなくてはならないようだ。

 くすくすと笑う石像の天使たちが、「あなたに解けるかしら?」と尋ねてくる。


 だが、暗号自体はなんでもない。

 いままで何千通りものダンジョンを攻略してきた俺にとって、このくらいならスキルを使わなくとも大体のパターンで分かる。

 厄介なのは、うっかり石像を壊してしまわないよう、細心の注意が必要という点だけだ。


「そういや過去にも、この手のダンジョンで苦労したなー……。鍵となる石像を粉々に砕いちゃって……」


 そんな思い出を、半ば独り言のように口にすると、石像たちがシン……と静かになった。

 そっと慎重に彼らを運び、なんとか壊さずに扉を開ける。

 大人しくしていてくれたから、集中できて助かった。

 協力的で、いいやつらだな。

 俺は、ほっとしたし、石像の天使たちも、涙を流して成功を喜んでくれた。

 それから、扉を開くと共に現れたストーン・ドラゴンをさっさと倒した。


 あとは一本道で、迷うことなく辿り着いた最深部。

 室内に入った瞬間、吼えるような声が響き渡った。


「貴様、何やつだ!」


 立派な角を持つ牛頭のミノタウロスが、目の前に立ちはだかる。

 俺の身長の二倍はある巨体を見て、思わず感嘆の声が零れた。


「おお……」

 

(すごい……。格好いいな)


 体にまとった重そうな鎧。

 屈強な筋肉と、ガタイの良さ。

 男なら誰しもが憧れるビジュアルをしている。

 一方ミノタウロスのほうは、俺を見て怪訝そうな様子だ。


「人間……? 人間が生きてここまで辿り着いただと?」


 あ、そうだ。

 いきなり進入しておいて、挨拶もせずに見上げるのは失礼だな。


「はじめまして、俺は元勇者。いまはこの暗黒大陸でスローライフを満喫中だ。それであんたに話があるんだ。聞いてくれ」


「大方、私を倒しにきたのだろう。だがこのミノタウロス、そう容易くは敗れぬぞ」


「いや、違う。実は死の谷に農園を作ることになっていて――……」


「さあ、このミノタロスに力を示せ! 非力な人間よ!」


(うわ。 まじか)


 全然、話を聞いてくれない。

 

(なんか目も血走っているし……。 でもとりあえず、こっちの意向を伝えて、なんとか誤解を解かないと……)


「うおおおお!」


 唸り声とともに、俺に向かって振り翳された拳による一撃。

 一歩後ろに避けた俺は、地面に響いた衝撃を感じながら、考えてきた雇用条件を伝えた。


「あんたにもぜひ、農業面を協力してもらいたいんだ」


「馬鹿な……! こいつ、俺の攻撃をかわしただと……!?」


「暗黒大陸の給料の相場は、まだよく分かっていない。だからその辺は、相談しながら決めたいと思う。週休は二日、まかない有りだ。福利厚生として、温泉にも入れる」


「ちょこまかと小癪な!」


 俺がいる場所めがけて、何度も拳が振り下ろされる。

 そのたび地面が揺れて、神殿の柱がみしみしと軋む。


「そう、そんな感じだ。もぐらも出るかもしれないから、その調子で叩いてもらいたい」


「くそ、何故当たらないのだ……!?」


「農作のことは俺も手探りだから、未経験でも心配はいらない。一緒に頑張っていけたらと思う」


「こいつ……俺の動きを、完全に見切って……。ならばこれでどうだ……!」


「だけど、うちの領地は岩が多くて荒れてるから、耕すときはもっと力を入れる必要があるかもしれない。そうだな、このくらいの……」


 ミノタウロスの前の地面に向け、少しだけ力を入れて拳を叩き込んだ。


「フゴアアアッ……!?」


「あ」


 まずい。

 地面を叩くつもりが、突っ込んできたミノタウロスの顔に、がっつり当たってしまった。

 響き渡った轟音と衝撃。

 ミノタウルロスが後ろに吹き飛び、神殿の壁に叩きつけられる。

 俺は若干焦りながら、ミノタウロスのもとへ駆け寄っていった。

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