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短編集 

通学路に立ちはだかる敵

作者: 不知火Mrk-2

 蒼汰は昨日、夜通しでミリタリー系のアニメを見続けていた。その影響もあり、意識が朦朧としている。足元はふらつき、上手く歩く事ができていない。

(うっ……目眩がする――)

学校へ登校する為の通学路を歩いているのは、同じ学校の制服を着た人たちばかり。だが、一切睡眠を取らずにミリタリー系のアニメを見ていた蒼汰にとって、奴等は軍服を着た兵士のように見えていたのだ。

(なぜ――奴等がこの日本に滞在しているんだ! 奴等は昨日の戦争で、GHQによって倒されたはず――)

 蒼汰の頭の中は、昨日見ていたアニメの記憶と、現実世界の記憶。二つの記憶が混合している上に意識が朦朧としていた。彼は昨日――ロシア軍とGHQが、日本の領土で戦争をすると言うアニメを見ていたのである。

(クッ――GHQは、昨日の戦争後にアメリカに帰還している。どうすれば……)

 蒼汰は考える。

(そうか、GHQが居なければ、俺がロシア軍を倒せばいいのか)

 彼の通学用のバッグの中には、モデルガンのスナイパーライフルが常備されている。蒼汰はバッグからモデルガンを取り出す。

「おはよう、蒼汰!」

背後から軽やかで明るい口調の声が響いた。挨拶するなり、彼女は蒼汰の隣に駆け足でやってくる。

「玲奈、何暢気に挨拶してんだよ! 今、この状況がどんなにやばいか知ってるのか?」

「知ってるよ。後もう少しで遅刻しちゃいそうな事はね。それより蒼汰、顔色悪いよ? どうしたの?」

 目の下に隈ができている蒼汰に向かって、彼女は不安げに問うた。玲奈はセイラー服が良く似合う美少女であり、幼馴染である。髪の後ろで束ねているポニーテイルが性格同様、明るい雰囲気を醸し出していた。玲奈は彼と同じ速度で歩みを共にする。

「お前、今この日本はロシア軍に支配されてるんだぞ! 自分の事より、この日本を救うほうが専決だろ」

「はぁ~、またアニメの話?」

 玲奈は彼の被害妄想に付き合わされ、頭を抱えながら溜め息を吐いた。

「後ね、学校にモデルガンとか持ってきちゃ駄目なんだよ。先生に怒られちゃうよ」

「ロシア軍が居るんだ、そんな事今、気にしている暇などない」

「……」

 彼女は今日、二回目の溜め息を吐く。妄想と現実を混合している彼と付きあいきれそうに無い。そう考えた彼女は蒼汰を置き去りにして学校の校門へと急いだ。

「待て、玲奈! 不本意に動くんじゃない。この場所はロシア軍の管轄に置かれているんだ。俺の隣から離れるなよ」

 蒼汰は、背を向けて走り去る彼女の片腕を咄嗟に掴む。

「なにすんのよ蒼汰。本当に遅刻しちゃうわよ」

 彼女は腕に身に着けている時計の針を指差しながら激しく喋る。玲奈は彼の腕を振り払い、嫌がる素振りを見せたのだ。

「アンタには付き合ってらんない! さっさと行かせて貰うわ」

 ロシア軍の兵士が蠢く通学路を玲奈が必死に走っていく。蒼汰のビジョンにはそう映っていたのだ。

(んうっ、玲奈の奴……自分本位で行動するなって喋ったばかりなのに)

 彼は両手でモデルガンのスナイパーライフルを構え、GHQのように敵軍の敷地内を颯爽と走り抜ける。

俺は幼馴染の玲奈を――昔から一緒に過ごしてきた玲奈を守りぬかなければいけない。

 突如、後ろから風が吹く――蒼汰の背中を後押しているようだった。

 玲奈の後ろを追いかけていくと、何やら彼女は校門前で背の高い人物に捕らえられている模様。

(あ、あれは……! ロシア軍の連中に尋問されているのか! クッ……一歩遅かったか。だが、諦めちゃ駄目だ)

 蒼汰は、モデルガンの銃口を背の高い連中に向かって構える。

 狙いは定めた――あとは的中あるのみ。

 引き金を引くと、銃口から黒いプラスチック製の弾丸が射出――

 撃ち出された弾丸が、玲奈を取り巻くロシア軍の連中に当たる。

(これで、玲奈を連れて逃げれば……)

 蒼汰が校門前に走っていき、玲奈の右腕を掴まえる。彼女を連れて走り去ろうとした時、彼の頭に硬い物が直撃した。そこから俺の記憶が途切れた――


「そ……そう……うた、目を覚まして、そう……た」

(誰かが……俺の名前を呼んでいる)

 ゆっくりと瞼を開くと、そこには玲奈の姿があった。

「ようやく目が覚めたのね…・・・良かったぁ~、蒼汰、本当に心配したんだからねっ!」

「ここは?」

 辺りを見渡すと、白いカーテンのような物で周囲が覆われていた。そこでようやく彼はベッドで寝ている事に気づく。

「ここは、学校の保健室よ」

「保健室? 何で俺がこんな場所で寝ているんだ? はっ……そういえば、ロシア軍はどうなったんだ」

「そんなもの始めからいないわよ。何寝ぼけた事言ってんのよバカ」

「?」

 なんなのか分からず、蒼汰は首を傾げる。

 その時、カーテンが開き、一人の教師が入ってきたのだ。

「お前、大丈夫だったか? 顔色悪くて死にそうな様子だったが」

そこにいたのは体格の良い体育教師の鞍馬先生だった。彼は全身ジャージ姿であった。

「そういえば蒼汰、校門の前で鞍馬先生に向かって、モデルガンで撃ったでしょ。謝っておきなさいよ」

「? どうゆうこと」

「アンタはアニメの見すぎ、夜くらいちゃんと寝なさいよね。蒼汰は寝て無いから、現実と二次元をごちゃ混ぜにしてたのよ」

「……そうだったのか、アニメの見すぎか……ごめん、色々迷惑かけて」

「本当に確りしてよね」

 蒼汰は自分の過ちを認めて、ベッド近くに佇んでいる二人に頭を下げて謝ったのだった。

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