召還されし者
本日、帰宅が遅くなるので、出かける前に投稿します。
時間指定すればよいのですが、失敗が恐いという臆病ものです。
魔族の召還呪文は続いていた。
「我が血と魂を贄として汝をこの地へと誘わん!!」
魔族は剣を逆手に持ち自分の胸を貫いた。
暫く魔族は立ち尽くしていたが、剣もろとも塵になって消えて行った。
「召還されし者が来るぞ!!油断するな!!」
魔族が消えた魔法陣は異様な輝きを放ち続けていた。
その中心に影が浮かび上がりその姿を浮かび上がらせてゆく。
がっしりした四肢、三つの狼の頭・・・
「ケルベロス・・・」
地獄の番犬・・・いや、この世界では違うかもしれないが・・・
「グルルル・・・」
魔法陣が消え、ケルベロスが唸り始めた瞬間に、魔術師たちの攻撃魔法がケルベロスに集中砲火された。
「グウォォォーーー」
ケルベロスの3つ首が咆哮した途端、攻撃魔法は全て霧散してしまった。
「うるさね!!静かにおし!!この犬っころが!!せっかく連れて来てやったんだから、言う事を聞きな!!」
うなっていたケルベロスがビクっとして、静かになる。
尻尾も丸くなっていた。
魔族が溶かして変形させてしまった玉座に女が座っていた。
「どうにも座り心地の悪い椅子だね・・・私を呼び出しておいてこの待遇かい?」
女は漆黒のスーツを身に纏っていた。
すらりとした体躯はベルタと同等のプロポーション。
黒い髪は腰まで伸び、瞳は真紅、顔立ちは細長のクールビューティだった。
女が熱で歪んでしまった玉座の手すりに手を当てる。
掌か一瞬光が放たれたと思うと、玉座は元通りになっていた。
「これで多少は座り心地が良くなった」
女から漂う気配が尋常ではないため、誰も攻撃を仕掛けなかった。
あのセルゲイでさえ、額に脂汗を浮かべている。
「まずは自己紹介をしておこう。私の名はリリス。魔界からお前達を皆殺しにするために召還された魔女さ」
俺の世界でもメジャーな名前の魔女が召還されて来やがった。
魔族が自分の命と引き換えに召還された魔女だ・・・実力は想像もつかない。
「エバートン参謀どうします?」
「リリスだと?・・・まさか・・・」
俺は6大魔法の準備をして聞いた。
「私は今からあの魔女を送り返す術式を組む・・・それまで攻撃と防御を使い分けて時間を稼げ」
「6大魔法は使わないのですか?」
「相手の出方で指示を出します。私の術式とヒデキ殿の6大魔法の2面作戦で・・・」
「了解です、それまでは俺も時間を稼ぎます」
「頼みましたぞ!!」
エバートンの言葉に魔術師達が先制の攻撃を仕掛けるが、先刻と同じでケルベロスの咆哮に全て打ち消される。
「まずはあの犬畜生を引きはなせ!!」
デトレフさんの号令で、セルゲイ、アイオロス、ダミアン、サラサ、エルザ、ベルタが動いた。
7人はケルベロスを取り囲み、即座に切り付ける。
その外周には騎士団と親衛隊、冒険者がリリスを牽制する配置を取った。
「ん?私を警戒してるのかい?心配いらないよ。そのワン公が倒せないようなら、私と戦う資格はないからね。手出ししないさ。安心して戦いな」
リリスは妖しく微笑んだ。
「そんじゃお言葉に甘えて、ワン公を袋叩きにしてやろうぜ!!」
セルゲイがバスターソードを横薙ぎに払う。
ケルベロスは伏せて避けようとしたが、セルゲイは無理やり剣の軌道を変えて、ケルベロスにバスターソードを叩きつけた。
ガギィ!!ケルベロスがバスターソードを口で受け止める。
セルゲイはかまわずに、バスターソードを振り回した。
「ワン公のくせに生意気だぞ!!」
どこかで聞いたセリフだが、その勢いでケルベロスは横に振られる。
そこへダミアン、アイオロスの剣が突き出されるが、残り二つの口で受け止められる。
「頭が3つしかなくて残念ね!!」
サラサとベルタがケルベロスの身体目掛けて剣を振るった。
ケルベロスは強引に体を捻り、剣を加えた3人を盾にして自らを守った。
「なっ!?」
「この馬鹿力め!!」
サラサとベルタの剣は直前で停止した。
「調子に乗るなよ!ワン公!!」
セルゲイが踏ん張り、ケルベロスを振り回す。
ダミアンとアイオロスも一緒に引きずられた。
マッチョ狐の本領発揮である。
狐が三つ首狼をぶん回す。
シュールな絵面だ。
たまらずケルベロスは剣を放した。
その反動で横に飛び、ケルベロスは3つの口からブレスを吐く。
3つの炎が合わさり業火となって、セルゲイ達を襲った。
「こなくそ!!」
気合一閃!セルゲイはバスターソードで炎をかき消し、ケルベロスへ突進する。
バスターソードの腹の部分で思い切りケルベロスを横殴りにした。
バスターソードはケルベロスの左の頭に激突、玉突き上に次々と頭がぶつかった。
一瞬脳震盪を起こしたのか、ケルベロスが膝をつく。
その隙を狙ってケルベロスに前衛たちの剣が突き刺さった。
ケルベロスから苦悶の唸り声が上がる。
「止めだ!!」
セルゲイがバスターソードを振り被った瞬間、パチンと指を弾く音が響き、ケルベロスは瞬間的に燃え上がりながら消えてしまった。
見ればリリスが指を弾いたポーズで立ち上がっている。
「危ない、危ない、勝手に連れて来て死なせてしまったら、どんな罰を受けるか・・・」
リリスは玉座から立ち上がり、ぱんぱんと埃を払い、
「後は私がやるしかないと言うわけね」
「そうかい!」
セルゲイがケルベロス撃退の勢いに乗り突進し、リリスにバスターソードを振り下ろす。
リリスはバスターソードを片手で受け止め、ひょいと持ち上げて放り投げた。
セルゲイはバスターソードごと俺の前まで転がされた。
「痛っ!!何だ?あいつ?尋常じゃない力だぜ!!」
「魔族が自分の魂と引き換えに召還した魔女ですからね。下手に刺激しない方が良いですよ」
「力押しで負けるようじゃ、俺の出番はなさそうだな」
身体についた埃を払いながら、セルゲイが言った。
珍しくおとなしい。
力負けしたのが、よほど堪えたようだ。
「魔女ですからね、ここは魔術師の出番ですよ」
「ああ、頼んだぜ!!」
リリスは威嚇するように周りを見回している。
前衛はじりじりと下がり始めていた。
「女臭い場所だね!ここは!!全滅させるからどちらでも良いけど。女の方から減らして行くか!!」
リリスは今一度ぐるりと見ながら、ふいと右腕を上げる。
と、右腕が手首から消えていた。
「くっ」
親衛隊の一人が首を抑える。
よく見ると喉に手首が食い込んでいた。
そのまま持ち上げられると、一瞬でリリスの右腕に移動させられる。
「は、離せ!!」
親衛隊の女は、足をじたばたとさせながら、闇魔法を暴発させた。
「やかましい!!うっとうしい魔法を使うな!!」
バキッと鈍い音がして、親衛隊の女の足が痙攣し動かなくなった。
「ジョゼ!!」
ベルタが叫んで、彼女の名が分かった。
だが・・・
リリスがジョゼを放り投げた。
セルゲイと同じで、ごろごろと俺の目の前まで転がって来た。
いつまで待っても、ベルタのようにヒールの魔法陣は発動しなかった・・・即死だ。
第3階層以来の犠牲者が出てしまった。
覚悟はしていたが、あまりにもあっけない・・・
「貴様ぁー!!よくもジョゼを!!」
ベルタが激高して、リリスに切りかかった。
「ベルタ止まれ!!無闇に突っ込むな!!」
セルゲイの静止も聞かず、ベルタがリリスに迫る。
「次に死ぬ女はお前か?手間がかからずに良いぞ」
リリスの妖しげな笑い。
ベルタの剣を左手で受け止め、そのまま強烈な電撃がベルタの身体を貫いた。
ベルタの身体は痙攣してそのまま崩れ落ちた。
またヒールの魔法陣は発動しない・・・
「ヒデキ殿!!サンダーレインを!!」
「えっ!?」
戸惑いながらも『サンダーレイン』の魔法陣を呼び出し、即座に発動する。
こちらにいる味方を除いた全域に豪雷の雨が降り注いだ。
その一部がベルタの身体にも流れ、その身体がびくびくと痙攣する。
サンダーレインが収まると同時に、ベルタが転がりながら俺の目の前まで来て、素早く起き上がった。
「ヒデキ殿!かたじけない!!止まった心臓が動き出した!!」
エバートンは経験で、止まった心臓は電気ショックで動き出すことがあるのを知っていたのだ。
このとっさの判断。
あくまでも冷静だ。
「生意気に生き返りよったか!?今一度掛かって来い!」
くい、くいと手招きをするリリス。
「ベルタ堪えよ!!」
「クッ!ですが、このままでは一人ずつくびり殺されるのを待つばかりでは?」
「あと少しだけ時間を稼げ!!」
「エバートン参謀!!6大魔法で時間稼ぎを!!」
エバートンは一瞬だけ考え、直ぐに指示を出す。
「賭けだが・・・ヒデキ殿!υ(イプシロン)を!!」
「了解!!エリー!!」
「はい!ヒデキ様!!」
俺はυ(イプシロン)を呼び出し、リリスは再びニヤリと笑った。
書いていて、なかなか乗れました。




