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ダウの森

ようやく草原から抜け出ました。

大草原をひたすら東へ東へと、天竺から帰る坊さんと猿、河童、豚のように俺達は歩き続けた。(正確にはノーマは俺の胸ポケットに入っているだけだが)

夕暮れまで、東へ向かって歩く。

陽が暮れると、野営の準備をする。

準備をしている間に、エリーがレッサーラットを狩って来て、焼いて食べる。

ノーマが水を作って、ペットボトルに入れてくれる。

この3日間は同じ事の繰り返しで、何事もなく過ぎて行った。

初日のような、強敵インビジブルスライムに遭遇することもなかった。


そして、進む先にとうとう草原と違う景色が見えて来た。

サテラ大草原の端にたどり着いたのだ。

鬱蒼とした森が遠くに見えている。


「あれがダウの森か・・・」

「そうだよ!」

(そうです、あの森を抜ければ、開拓村があり、その先は辺境都市ブルネルです。私はそこで飼われていました。)


エリーが少し元気なく答える。

檻に入れられていた時を思い出したのだろう。

俺は立ち止まって、エリーの首筋を撫でてやった。


「大丈夫だ!エリー、お前を檻に入れる奴には、絶対に渡さないからな。」

(ヒデキ様!!ありがとうございます!!)


エリーが愛しげに俺を見つめる。

なんか照れくさい。


「もうすぐ森に入るけど、ノーマ、羽の生え具合はどうだ?」

「サテラ大草原の朝露のおかげで、思ったより順調だわね、ヒデキが森を抜ける頃には飛べると思うわ。」


ノーマは俺の上着の胸ポケットから、顔だけだして答えた。


「そうか、じゃあ予定通り、森を抜けたらお別れだな。」

「う~ん、どうしよっかな~」

「ん?一緒に来るか?」

「取合えず、保留って事にしておいて!」

(無理しなくても良いですよ、ここから先は水も湖や川で補給できますから)

「失礼ね!それじゃ私は水作るだけしか能がないみたいじゃない?」

(実際、そうでしょう?後はヒデキ様のポケットに入っているだけではありませんか?)

「ナッ!!!ヒーリングしたでしょう!ヒデキに!」

(あれはあなたの命を救ったお礼でしょう?だいたいハイピクシーが透明スライムごときに捕まって、しかも消化されかかるなんて、みっともないwwww)

「何ですって!!やる気!!」

「はい、二人とも止め止め!!」


不穏な空気が漂って来たので仲裁に入った。


「実際俺が五体満足なのはノーマのおかげだし、ファイヤー・ブレスでスライム倒して食料確保してくれているのはエリーだ。二人とも感謝している。だから喧嘩はやめてくれ。」

(分かりました、ヒデキ様お騒がせして申し訳ありませんでした。)

「分かった、ヒデキに免じて許してあげるわ」


やれやれ、喧嘩は収まったか。

気を取り直してダウの森へと進んで行くと、森の上空に鳥が旋回しているのが見えた。

鬱蒼とした森の上の部分から、なんとも言えない陰鬱な気が立ち登り、その上空にはハゲタカのような鳥が旋回している。

絵に描いた様な『危険ゾーン』の森である。


「ああ、あの鳥、死肉喰らいという魔物よ、森で死んだ動物や魔物、冒険者の死体を嗅ぎ付けては、骨まで残さずに食べるのよ。時にはゾンビも襲うわね」


そのまんまハゲタカだった。


「生きている物は絶対に襲わないから、気にしなくていいわよ」


本能は『危険!入るな!』と言っているのだが、迂回も出来ないので、度胸を決めて入ることにする。

俺達はダウの森に入って行った。


―――


説明されていた通り、ダウの森は鬱蒼としていた。

木漏れ日はほとんど入って来ない。

多くの樹木が密集してからみあい、日光を求めて上へ上へと、枝と葉を伸ばしてゆく。

結果上空は幾層もの葉が生茂り、下まで日の光が届かなくなっていた。

月が数多く夜空を照らす夜よりも暗い。

まさに樹海だった。

下草は常に湿っていて、歩くとズボンの裾がじっとりと湿って来る。

見たこともない茸が繫茂している。

この湿気は地味に体力を奪って行きそうだ。


「いよいよ森に入ったな、気を引き締めて行くぞ!!」

(大丈夫!私がヒデキ様を守ります。)

「私もいつでもヒールしてあげるからね。いつでも怪我していいよ!」


怪我前提か、勘弁して欲しいな。

小藪を踏み分けて、前進し始める。

ゆっくりと進んで行くと、RPG定番のモンスターがこちらを見ていた。

ゴブリンだ。

ゴブリンが5匹でこちらを伺っていたのだ。

スライムがいたのだ、ゴブリンがいるのも当たり前か。


(ヒデキ様お下がり下さい、あんな雑魚、直ぐに片付けます)


どうやら、ゴブリンは普通に雑魚らしい。

すこし、ほっとした。

ゴブリンまでが強敵だったら、俺はこの世界で生きてはいけない。

エリーの全身が褐色に変わり、ファイヤー・ブレスをスタンバイさせた。

ゴブリンは俺一人だと認識したらしい。

こちらに突進して来た。

エリーがいるのに、敵だとは思っていないようだ。

やはり、知能が低い魔物なのだろう。


「ノーマ、エリーのブレスで森に火が燃え移ったら、火を消せるか?」

「まかせて、この先に水の臭いがするから、簡単よ!!」

「よし!!エリー!やってしまいなさい!!」

(はい!ヒデキ様!!)


一度は言ってみたかった台詞だ

ゴブリン達がこちらを馬鹿にしたように襲い掛かって来た瞬間、エリーが特大のファイヤー・ブレスを放った。


「ギャァァァーーー!!」


5匹のゴブリンはあっという間に消し炭となっていた。

と同時に森が燃え始める。

まあ、そうなるわな。

想定内である。


「ノーマ!頼む!!」

「まかせて、水の精霊よ!力を貸して!!」


ノーマが胸ポケットから両手を挙げ、叫んだ。

すると燃え盛る樹木の周りに大量の水が降り注ぎ始めた。

よく見ると森の奥から大量の水が飛んで来ている。

まるで、消防車が放水している勢いだ。

水の勢いは止まることを知らず、炎に降り注ぐ。

アッと言う間に、火の手は弱まり、鎮火していった。


「エリーのファイヤ-・ブレスもノーマの魔法も凄いな!!」

(いえ、ちょっと威力を上げすぎました、今度はもう少し押さえます)

「当然!!」


エリーは控えめに、ノーマは胸をはった。

小さくても、ナイスバディ!目の毒だ。せめて葉っぱで隠してくれんかな?

エリーが、鎮火して少しだけくすぶっている木の間でゴソゴソと散策している。

暫くしたら、何か口に咥えてやって来た。


(ヒデキ様、今の火に焼かれたフォレストスネークです、食べられますよ)

「やった、鼠肉に飽きてきたところだったんだ!!」

(少し早いですが。お昼にしましょうか?)

「そうだな。ノーマもそれでいいか?」

「いいわよ、私は水の精霊達とお話しているから。」


恒例の新聞紙を敷いて、座って焼け焦げたフォレストスネークを一口サイズに切り分けていった。

カッターナイフを持っていて、つくづく良かった。

手で摘んで、口に入れてみる。

蛇って、鳥のような味がすると、よく言うけれどその通りだった。

骨が多いのが難だが、食が進む味だった。

エリーも美味しそうに食べている。


周囲の警戒はノーマがアラームの結界を張っていてくれた。

昼食が終わり、荷物を片付けて森の奥へと進む。

暫く進むと目の前に大きな湖が見えて来た。


とてつもなく大きな湖だ、なにせ向こう岸が霞んで見える。

湖畔に打ち寄せている波も、海を思わせる大きさだ。

確実に琵琶湖より大きい。

ここから消火の水が飛んで来たのか、凄い勢いのはずだ。

こんな鬱蒼とした樹海に、ここまで大きな湖が存在するとは・・・

異星ならでは、という所だろうか。


湖の上空は当然ながら樹木がない。

ここだけは突き抜けるような青空が広がっている。

しかし、ブルネルに向かうためには、この湖を迂回するしかないな。


「・・・ノーマ、湖があるんだけど・・・」

「ごめん、そうだった、ヒデキも私も今は飛べないのを忘れていた」

「俺はいつでも飛べないけどね。迂回するしかないけれど、どっち行こうかな?」

「水の精霊は右がいいってさ、左はゴブリンの巣があるみたいだよ。」

「なら、右に行こう、向こう岸には2,3日かければ着くだろう。日が暮れたら湖畔で寝よう。」

(行きましょう!!)


俺達は右回りに湖畔ぞいに歩き始めた。


7日に7話を投稿。

プロットは30話まであるので、今月中は毎日投稿続けたいですね。

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