蜃気楼(ミラージュ)
誤字の指摘ありがとうございました。
エバートンの目論見通り、ばらばらと皆が集まって来た。
セルゲイ、サラサ、エルザ、アイオロスのパーティの順番だった。
皆無事だったが、疲労が顔に出ている。
「エバートン殿、どうする?領域ボスは我々をミラージュで惑わし、消耗させる作戦のようだが・・・」
エバートンは少し考え、
「領域ボスを炙りだす!!魔術師は自分が持つ最大の広域魔法を無差別にところかまわず叩き込め!!ポーションはいくら使ってもかまわん!!」
エバートンが珍しく命令口調で指示を出した。
なるほど、文字通り炙りだすわけだ・・・
俺は早速『サンダーレイン』を出力最大でぶちかました。
エリーの協力もあって、見渡す限り雷の雨だ!!
それが収まると、魔術師達が各々の持つ広域攻撃魔法を放ち始めた。
トルネードやブリザードが多かった。
俺はポーションを飲み、魔力を補充して再び『サンダーレイン』を発動した。
雷の雨が降り注いでいると、砂漠の一部がうねり始める。
『サンダーレイン』の後に、砂の巨人が立っていた。
雷が直撃したのか、身体のところどころから煙が立ち昇っていた。
「攻撃開始!!」
当然のように魔術師から攻撃魔法が乱れ飛ぶ。
砂の巨人は、あっさりと崩れ落ちた。
だが新たに二体の砂の巨人が立ち上がる。
「エバートン殿、もしやこの砂漠そのものなのでは?」
ダミアンがエバートンに進言した。
「いや、それならば我々を飲み込んでしまえば良い。ただ、あの巨人が本体でないことは確かだ」
「それでは本他は何処に?」
「探し出して倒さなければ、我々はここに閉じ込められ、消耗してゆく。今から私が探査する魔法陣の術式を組む。暫く時間を稼いでくれ!!」
「承知!!」
エバートンはすぐにスクロールを取り出し。魔法陣に書き込みを始めた。
その間も砂の巨人は倒されては復活を繰り返し、魔術師達の魔力を消費していた。
「エリー、お前の探査能力で領域ボスを探れないか?」
「それが、私の探査には何も・・・先程の広域魔法の連続でこの周囲にいる魔物は全滅しているのです」
「砂の中・・・地中も・・・か?」
「はい・・何もいません。サンドワームも滅んでいます」
どういう事だ?高次元存在なのか?
とにかく消耗を抑えて、エバートンの術式が完成するまで、時間を稼ぐしかない。
俺は『翼竜』を召還し、上空から砂の巨人を攻撃させる手段を取った。
これならば消耗は俺一人で済む。
魔力回復ポーションはふんだんにあるが、まだ第6階層だ・・・先は長い。
翼竜は上空から砂の巨人が復活する度に粉砕している。
これなら時間が稼げる・・・と思っていた矢先・・・
砂が巨大な手になり、翼竜を掴んでしまった。
「何ぃ!!??」
急いで翼竜を魔法陣へ呼び戻す。
『ファイヤーゴーレム』と違って間に合った。
次は『ストーンゴーレム』を召還する。
幸いにも第4階層ボス戦で受けたダメージは消えていた。
ストーンゴーレムは、砂の巨人を次々と殴って倒してゆく。
先程の巨大な手がストーンゴーレムを握り込んだが、ワンパンチで掌を破ってしまった。
今度こそ、このままいけると思った瞬間、ストーングーレムの足元が急にすり鉢状の窪みになった。
でかい蟻地獄の巣のような形状だ。
ストーンゴーレムは登ろうとするが、ずるずると滑って全く登れない。
仕方がないので、ストーンゴーレムを呼び戻した。
再び召還しても良かったが、速攻で蟻地獄行きだろう。
手抜きの時間稼ぎもここまでか・・・
エバートンは休むことなく、5枚の魔法陣に書き込みを続けている。
いつ終わるかは分からない。
少し考えている間にも砂の巨人は復活して、こちらに向かってくる。
その数はほうっておくと、どんどん増えて行くようだった。
魔術師の攻撃魔法が飛び、次々に砂の巨人を砕いていく。
見事な消耗戦だ。
例えば多重結界を張って、砂の巨人の攻撃を完全に防いだとしても、消耗する事に変わりは無い。
地味に堪える敵だ。
エンドレスな消耗戦2時間ほど経過した頃・・・
「完成した!!今から領域ボスを探査する。全員攻撃準備!!」
エバートンが叫ぶ。
俺達は砂の巨人への攻撃も止め、エバートンの探査を待つ。
エバートンは魔法陣へ魔力を込めた。
5つの魔法陣からそれぞれ、青、赤、黄、白、黒の光が広がり始まる。
それぞれの光は互いに干渉する事はなく、渦巻くように広がってゆく。
その勢いに怯んだのか、数体の砂の巨人は立ち止まっていた。
5色の光はこの広大な空間全てに広がり、渦巻きながら交じり合い、まるでオーロラのように輝いている。
「綺麗・・・」
エリーを含めた女性陣が感嘆の声を出した。
オーロラのような光は暫くこの空間全面を覆っていたが、徐々に収束してゆく。
その収束した場所は・・・上空・・・この部屋の天井付近だった。
そこにオーロラは収束してゆき、人型になって下降を始めた。
気付けば、砂の巨人は全て消えていた。
いくら砂漠を探査しても見つからないはずだ・・・まさか天井にいたとは・・・
「やれやれ、見つかってしまいましたか・・・見事な魔法ですね」
人型の光は、真赤なスーツを着た男の姿になっていた。
襟元には蝶ネクタイ、一見優男だが、醸し出すその気配は・・・
「上位魔族・・・領域ボスなのに・・・」
ダミアンが呟いた。
「ああ、私、階層の守護者とか、責任重過ぎて嫌なんですよ」
ダミアンの声が聞こえたのか魔族が答えた。
「ですから、この部屋だけ守るのが気楽で良いのです。出来れば戦わずに済ませたかったのですが・・・」
上位魔族はどいつもこいつもエキセントリックな性格をしている。
「戦いが嫌いなら、このまま通してくれないか?居場所を見つけ出したから、俺達の勝ちってことで・・・」
セルゲイがおどけた声で聞いた。
「そうですね。私は争いごとが嫌いなので、そうしたいのですが、上司が許してくれないのですよ」
肩を竦める魔族。
「サボると千年の消滅の刑をくらってしまうので・・・」
「そうか、残念だな・・・じゃあ、おっぱじめるか!!」
言うと同時にセルゲイは魔族へ突進し、バスターソードを振り下ろす。
それを合図に前衛が連続して攻撃を開始した。
砂の巨人との消耗戦では、見ているだけだったため、そのフラストレーションを晴らすかのような速攻だった。
セルゲイがバスターソードを弾かれると、ダミアン、サラサ、アイオロスが同時に切りかかる。
「やれやれ、少し本気を出しますよ!!」
魔族の身体が赤く光った瞬間に3人、いや続こうとしていた騎士団、冒険者、親衛隊の前衛までが弾き飛ばされた。
魔族の身体はそのスーツよりも赤い光に包まれている。
俺は試しに『奈落』を発動させる。
予想通り全く通用しなかった。
魔族は『奈落』は空けた孔の上に平然と立っていた。
「なかなかの魔法ですが、さすがに通用しませんよ」
魔族が右腕を俺に向けて振るう。
右手を包んでいる光がまるで如意棒のように延び、俺に向かって来た。
その光の棒は結界を無視し俺の鳩尾に突き刺さる。
「ぐわっ!!」
「ヒデキ様!!」
一瞬息が止まり、蹲る。
エリーが俺に駆け寄った。
「大丈夫だ・・・ブーストをかけていたから」
「でも、こちらの多重結界を素通りして・・・」
「ああ、上位魔族はやはり規格外だ」
俺が攻撃されたのを合図に、魔術師達が攻撃魔法を魔族に向けて連続して放ち始めた。
そこに一人攻撃に参加しなかったベルタが俺に歩み寄ってくる。
「ヒデキ殿、今が私の奥の手を使う時だ!分身の魔法を私へかけてくれ!!」
「ベルタさん、本当に良いのですか?」
「ああ、こんな領域ボスに時間をかけるだけ無駄だ、一度私の奥の手を見れば納得してくれるはず。頼む!!」
ベルタは自信満々だ。
仮にもヘンドリクのおっさんの代わりに親衛隊隊長を務める人だ。
それに俺はこの完璧美人の自信の源を見たくなっていた。
『ドッペルゲンガー』の魔法陣を呼び出す。
「じゃあ行きますよ!ベルタさん!!」
「頼む!!」
俺は魔法陣に魔力を込めた・・・
ベルタの横にもう一人のベルタが出現する。
その分身が瞬きと共に動きはじめると、本体は人形のように動かなくなった。
「それでは、奴を蹴散らして来る。本体の守護はまかるので、よろしく頼む」
「俺とエリーで必ず守ります」
「かたじけない、私の能力をよく見ていてくれ!!」
ベルタはバルディッシュを肩にかつぎ、魔族へと向かって行った。
次回ベルタの奥の手が・・・




